熱源機械室のチューニング〔其の5〕
東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡
熱源機械室のチューニング(5)
③二次ポンプ台数制御増段値
6、複数台のポンプでインバーター制御が1台
ポンプ1台のみにインバーターが装備されて、その他のポンプは全て定回転の場合や、インバーターは1台で、任意のポンプがそのインバーターへ切り替えられるようになっている場合もあるだろう。どちらにしてもインバーターポンプが1台として考えればよい。
定回転ポンプとインバーター制御ポンプを組み合わせて流量を制御する考えであるが、これが中々思うようにはいかない。定回転のポンプ同士であっても、往ヘッダで吐出圧力を打消しあって、かなり流量が減ってしまう。吐出圧力の高い定回転ポンプと吐出圧力が低くなっているインバーター制御ポンプを並列に運転しても、インバーター側が、圧力的に負けてしまうので、周波数はあまり低くして使うことができないだろう。
インバーターの周波数が低くできなければ往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、ヘッダの圧力を逃がして流量を調整することになってしまう。
増段値も定回転ポンプの場合と同じにしなければ、2台目の定回転ポンプが早めに運転したのでは搬送動力が増えてしまう。周波数を低くできないようではインバーターの意味がなくなり、定回転ポンプと同じことになってしまう。
このような場合もインバーター制御ポンプ1台運転での冷房ができないかを考えてみるべきだろう。
1台ならばインバーターの周波数を幅広く使って搬送動力を最低限で済ますことができる。
7、インバーター制御ポンプ×1台の実例
このビルには二次ポンプが4台あり、そのうち1台だけがインバーター制御のポンプである。
夏季の冷房ピーク時期はポンプを3台運転していたが、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かないように冷水出口温度等をチューニングした結果、ポンプ1台運転でも冷房が可能になった。
吐出バルブを全開にしてポンプ1台での流量を増やし、冷水出口温度を上げて潜熱負荷を減らしたために、2台目のポンプを運転する必要がなくなったのだ。これで1台のインバーター制御ポンプだけで二次側流量の調整が可能となり、往ヘッダでの圧損も殆どなくなった。
流量が少ない時はインバーターの周波数が下がるので、二次ポンプの消費電力量も従来よりも大幅に少なくなり、電力デマンドも下がった。
8、全ポンプがインバーター制御
適切な設定ができていれば、インバーターの特徴と省エネ性を100%発揮できる方式である。
往還ヘッダバイパス弁で調整することなく、インバーターだけでヘッダ圧力と流量を制御できるのだが、周波数の設定と増段値の設定が難しく、周波数の設定が上手くできないと、往還ヘッダバイパス弁が開くこともある。インバーターの特徴が生かし切れていないからだが、全ポンプがインバーター制御ならば、インバーターで流量を制御して、往還ヘッダバイパス弁は開くことのないようにチューニングしたい。
往還ヘッダ自動バイパス弁を全閉にするには、インバーターの周波数を低く設定すればよいが、インバーター機器によって周波数の下限があるので、それ以下には下げることができない。
調整できる範囲でよいので、空調負荷の少ない時にでも往還ヘッダ自動バイパス弁ができるだけ開かないように、最低周波数を下げるようにしたい。
全てのポンプが回転数制御の場合は、ポンプの運転台数が増えても構わないので、二次ポンプ全体での消費電力が少なくなるように台数制御を設定するほうが、搬送動力の省エネになりポンプが冷水に対して与える熱も減るだろう。
ポンプの回転数が高ければ高いほど、冷水との摩擦熱が増加して冷水に熱を与えることになるため、ポンプの運転台数を増やしてでも回転数を下げて摩擦を減らしたほうがよいのだが、しかし増やし過ぎもよくない。ポンプ同士の吐出圧が往ヘッダで打消しあうことも忘れてはならないからだ。
実際の流量とポンプ運転台数と搬送動力を総合して最も効率の良いところを探し出すのだが、インバーター周波数と運転台数だけで考えてよければ、簡単に増段値を計算で求めることができる。
しかし難しいのは圧損後の流量だ。
ポンプの吐出圧が打消し合うのならば、運転台数毎の流量は計算では出て来ない。実際に運転をしながら増段値をいろいろと変えてみて、最も効率の良い増段値を探し出すしかないのだ。
9、流量の簡易計算方法
インバーターにより回転数制御するポンプは、消費電力が回転数の3乗に比例するので、単純計算では回転数が半分になれば、消費電力は1/8になる。ならば2台のポンプを半分の回転で使えば、消費電力は1/4で済むことになる。しかし現実はこのようにはいかない。吐出圧力を打消し合って流量が減るからだが、どれぐらい流量が減るのかは、実際にポンプを運転させてみて、流量を調べるのが確実である。しかしチューニング初期の段階で、そこまで調べるのも大変なので、目安として簡単に流量を計算する方法を紹介する。
ポンプ2台を同周波数で運転する場合は流量を10%少なく見積もるのだ。
ポンプの流量は回転数に比例するので、周波数を半分にすれば、流量も半分になる。この流量が10%少なくなるのだから、減った10%分の周波数を上げなければならない。60Hz×1台運転を2台運転にするときは30Hzの10%増しの33Hz×2台運転と考えればよい。これで60Hz×1台運転に近い流量となるだろう。
ポンプを3台運転する場合は20%増しの周波数、ポンプ4台運転する場合は30%増しの周波数というように増段値を仮に設定して、あとは運転しながら実際の流量に合わせて調整していくのだ。
このようにして周波数と運転台数による流量を考えれば、ポンプ同士が吐出圧力を打消し合った後の流量を簡易的に求めることができる。
運転周波数を下げるためにポンプの運転台数を増やし過ぎれば圧損が増えるだけとなり、周波数を低くすることがポンプの省エネに必ず繋がるとは限らないことがわかるだろう。
流量に見合った最適な周波数とポンプの運転台数を試行錯誤して探し出すことが大切なのだ。
10、インバーター二次ポンプでの実例
このビルには二次ポンプが3台あり、3台全てがインバーター制御のポンプである。
当初はインバーター最低周波数が45Hzに設定されていたが、45Hzの吐出流量では負荷が少ない時には往還ヘッダ自動バイパス弁が開いてしまう。そこでインバーター最低周波数を、様子を見ながら少しずつ下げていき、18Hzまで下げると負荷が少ない時でも往還ヘッダ自動バイパス弁が開くことはなくなった。
二次ポンプ吐出バルブ開度が30度しか開いていなかったのを全開にしたのは言うまでもない。
増段値もいろいろと試した結果、32Hzに決定した。
増段値が31Hzならば3台運転になることがあり、その時点で運転周波数は下がるが、吐出圧力の圧損を考えると、32Hz×2台運転のほうが、効率が良いと判断した。3台運転ならば簡易計算で24Hz×3台運転となるが、32Hz×2台運転とどちらを選ぶかは、ビルに合わせて決めればよいことだ。
どちらにしても45Hz以上で3台運転していたことを思えば、搬送動力は激減である。
冷水出口温度は15~16℃にしている。冷水温度が高い方が流量は若干増えるので、負荷が少ない時でも往還ヘッダ自動バイパス弁が開き難くなる。
冷水出口温度を12℃までしか上げることができない熱源設備もある。12℃では、冷房負荷が少ない時には往還ヘッダ自動バイパス弁が開くかもしれないが、12℃が上限温度ならば仕方がないだろ