空調機のチューニングポイント〔其の10〕
東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡
空調のチューニングポイント
不快指数冷房(5)
16、湿度のコントロール
冷房とは温度を下げるものなのか、空気のエネルギーを下げるものなのかを考えたときに、現在の空調システムは温度を基準で作動しているために、冷房とは温度を下げるものであり、湿度までコントロールできるのは恒温恒湿などの特殊な部屋だけである。それならば現在の空調システムのまま、湿度をコントロールするにはどのような方法があるのだろうか。
湿度のコントロールには次の方法がある。
(1)加湿をして湿度を上げる
(2)除湿をして湿度を下げる
(3)除湿をしないようにして湿度を維持する。
このうちの(1)は暖房時が主であり、(2)は冷房時の結果として行なわれていることである。
(3)は聞いたこともない湿度のコントロールだろう。夏季に出来るだけ除湿をしない冷房をするための湿度コントロールなのである。
湿度をできるだけ下げずに冷房ができたときに初めて不快指数冷房が可能となるので、この、(3)の方法で湿度をコントロールできるようにならなければならない。
17、冷房時の加湿
室内の湿度が低いときに室内湿度高くするには加湿という方法がある。ビルの空調機ならば加湿器が備えられているだろう。しかし、いくら湿度を上げるためとはいえ、真夏の冷房時に加湿は行わないだろう。外気湿度の高い夏季は空調機の加湿器で加湿しようとしても、水の蒸発効率が悪く、蒸発しなかった水はそのまま排水されてしまうために、無駄な水となってしまう。
むしろ空調機で加湿をするよりも、冷風扇を室内で使って加湿をしたほうが効果的である。
冷風扇ならば水を循環させて使うために、蒸発しなかった水は蒸発するまで何度でも使うことができるので、無駄な水は一滴もないからだ。
冷房で室内が乾燥しているならば、水もよく蒸発して、気化熱により温度を下げる効果も期待できるだろう。
18、(3)の湿度コントロール
夏季に室内湿度を高く保つには、前述の加湿器や冷風扇を用いる方法があるが、できるだけ除湿量を少なくするという方法もある。
外気の湿度が高いのだから、除湿したり加湿したりするのではなく、除湿しなければ室内の湿度が高く維持できるはずだ。
ビルでは空調機を使ってのセントラル方式や各種エアコンを使っての局所式で冷房をおこなっている。
水を冷媒としている空調機と、ガスを冷媒として使うエアコンでは冷媒の温度が違ってくるので、空調機とエアコンに分けて、湿度のコントロール方法を考えてみたい。
19、空調機での(3)の湿度コントロール
空調機の場合は循環する冷水温度に余裕をなくすことが一番である。
冷水出口温度をできるだけ高くすれば、自然と除湿量が減ってくるので分かりやすい。しかしあまり冷水出口温度を高くしすぎると、冷房条件の悪い空調区画の冷房に支障が出てくることがある。配管が熱源機械室から系統別に分かれていれば、距離的に遠くにある系統の空調機に冷水が流れ難くなるからだ。
配管方式がダイレクトリターン方式かリバースリターン方式かでも違ってくる。
リバースリターン方式であれば同一系統の空調機に流れる冷水量は等しいのだが、ダイレクトリターン方式の場合は二次ポンプの往ヘッダから近い空調機ほど水が流れやすいので、距離的に遠くにある空調機には冷水が流れ難くなる。
ダイレクトリターン方式で距離的に遠くにある系統の最上階の空調機が最も冷房条件の悪い空調区画となるだろう。最上階には熱が上昇しやすく、屋上からの熱の影響もあるので、冷房条件としては最悪だ。この区画の空調機を基準として冷水温度と流量を決めていけばよいだろう。
20、エアコンでの(3)の湿度コントロール
エアコンの場合はガスを冷媒として冷房しているので、冷水のように温度を変えることができない。ガスの温度は冷水よりも温度が低いので除湿量が増えることは仕方がなく、不快指数冷房は無理だと思われるだろう。
ここでコンピューター室の実例を紹介したい。
コンピューター室はパッケージエアコンで冷房をおこなっている。室温は22℃~24℃の場合が多い。真夏にこれだけ冷やせばさぞかし除湿量が多いと思われるかもしれないが、多くても1秒に1滴程度のドレンがある程度である。排水口が完全に乾いて、ドレンが全くなかったようなエアコンさえもある。
一般家庭の6畳用エアコンでも糸を引くようにドレンが流れ落ちてくるのに、広いコンピューター室の大きなエアコンが一般家庭用の小型エアコンよりもはるかに少ない除湿量なのは何故であろうか。
コンピューター室は温度を下げるために過度の冷房をした結果、湿度が下がってしまっているから除湿量が少ないと思われるかもしれないが、意外に湿度が高く70%前後はあるのだ。
コンピューター室は一般的な事務室よりも冷房負荷が多いので、常時コンプレッサーは動いており、湿度が70%もあればかなりのドレンがあってもおかしくはないのだが、相対湿度だから高くなるとしても、これだけ湿度が高いのに除湿量が少ないのは考えられない。
コンピューター室でおこなわれていることを、一般室でおこなうことができれば、除湿量を減らす不快指数冷房のヒントになるはずだ。
21、コンピューター室の湿度
コンピューター室のエアコンが何故除湿しないのか、私の知っている限りのコンピューター室での冷房状況を考えてみることにする。
第一番目の特徴は必要以上のエアコン台数を運転していることだ。
コンピューター室には故障時も考えて多めのエアコンが設置されている。多めに運転していれば1台が突然に故障しても冷房に支障はないが、多めのエアコンを運転するということは冷房負荷が分散するので、エアコンがON・OFF制御であればコンプレッサーが停まる時間が増える。
コンプレッサーが停まっても送風ファンは常時動いているので、冷却器に付着している結露がドレンとして流れるよりも先に、ファンの風により蒸発して室内に戻ってしまうようだ。
インバーターによる冷房能力を制御しているエアコンの場合は、運転台数が多いほど1台あたりの冷房負荷が減る。コンプレッサーは低回転での運転となり、冷却器の温度が上がれば冷却器に付着する結露自体が少なくなり、直ぐにファンの風で蒸発して、ドレンとなる量は殆どなくなってしまう。
このようにエアコン1台あたりの冷房負荷が少ないのに、送風ファンの風量が多いことが、除湿量が少ない原因とするならば、次の2点が除湿量を減らすポイントとなる。
○ 室内機1台あたりの冷房負荷が少ない。
○ 送風ファンの風量が多い
22、マルチエアコン
マルチエアコンで冷房しているビルも多い。
室外機が1台で室内機が複数台あれば、節電と思って室内機の運転台数を少なくすれば、運転中の室内機に冷房負荷が集中して除湿量が増える。これが普通のビルであろう。
室内機の運転台数を多くすれば、冷房負荷が分散して除湿が減る。風量は自動にしている場合が多いようだが、強風にして結露の蒸発を促す。
このようにして節電だと思っていることの逆をおこなえば室内の湿度も上がるだろう。
その他にもブラインドの積極的利用や必要以上の排気を減らすなどして、冷房負荷を減らすことも除湿量を減らすことになるので、不快指数冷房には大切なポイントである。