ビルの省エネ指南書(42)

熱源機械室のチューニング〔其の6〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(6

③二次ポンプ台数制御増段値

11、往ヘッダでの圧損

往ヘッダでの圧損とはどのようなものなのか。

ポンプの場合は主として吐出弁を閉めて、水の出口を塞ぐと圧損が発生するが、往ヘッダの場合はヘッダ出口のバルブを閉めるだけではなく、ヘッダの形状・容量・流量等やポンプの運転状況によっても圧損が生じる原因となる。

ヘッダ内での水の流れが悪ければ圧力が高くなり、圧力が高ければ圧損も増えるだろう。

この圧損があるから、ポンプが複数台運転時のヘッダ吐出量は、ポンプ1台の吐出流量×運転台数にはならず、かなり減少した流量になってしまう。

ヘッダでの圧損を減らすにはどうすればよいのかを図で説明するが、ヘッダは千差万別である。

ヘッダが千差万別ならば、そのヘッダに合ったアイデアがビルの設備管理技術者一人ひとりに湧いて出て来るようになってほしい。

台数制御、流量制御、圧力制御等の自動制御任せにするのではなく、チューニングを行いながら、自動制御を上手くコントロールすることも設備管理技術者の仕事であり、ヘッダ内でどのように水が流れるのかを想像して、最も効率の良い台数制御をおこなうことも設備管理技術者でなければできない仕事なのだ。

12、左右対称のヘッダ

実際は系統毎の吐出側配管や往還ヘッダバイパス管もあるだろうから、このような図にはならないかもしれないが、ヘッダ内の水流を考えるには分かりやすい図である。

  ポンプが②の一台運転ならば、ヘッダに入った水がそのまま真向いのヘッダ吐出口から出ていくのでヘッダでの圧損が最も少ないと思われる。

しかしポンプ①と②、①と③のように2台運転の時はどうなるだろうか。

ポンプ①の水が、②の水とスムーズに合流して出ていくだろうなどと思う人はいないはずだ。
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写真のポンプの吐出量は0.25㎥/minである。

これは1秒間に4.167リットルになる。

これだけの水が、決して太いとは云えないヘッダに対して直角に流入するのだから、①や③から流入した水が、抵抗も無くスムーズに曲がって中央のヘッダ出口から出ていくはずはないのだ。

ポンプ①からの水は、ヘッダに入ると対面の壁にぶつかって跳ね返りながら渦となり乱流となる。そこに新たな水が次々と流入して来て、常時ぶつかり会うのだから、スムーズに流れることが出来ずに圧損が生じて当然だ。その後ヘッダ出口方向に向かう水は、1台運転でなければ、ポンプ②や③から吐出した水にぶつかってさらに圧損が生じ、ヘッダ出口側の配管径やバルブ開度次第では、またここでも圧損が生じる。

ポンプ①と③の2台運転ならば①②や②③の2台運転よりも圧損が増えることは想像できるだろう。左右から流れて来た水がヘッダ中央で正面衝突するからだ。この場合ポンプ①がインバーターでポンプ③が定回転の場合を想像すれば、ポンプ③の吐出圧が①のヘッダ入口まで影響して、ポンプ①からの水はヘッダに入る時点でも圧損を生じてしまう。水流的にはヘッダの入口と出口は最短距離が最も効率が良いので、図のようなヘッダの場合は、ポンプ2台運転時は①③同時運転を避けるのが良いが、台数制御との兼ね合いもあるだろうから、ポンプ①or③どちらかのスイッチを「切」にして、定期的に切り替えて使うなどの工夫が必要となる。3台運転が必要ないのならば、①②か②③のどちらか2台での台数制御をおこなうのだ。

13、出口側が端に寄ったヘッダ

ポンプからの吐出配管が立ち上がって直ぐにヘッダに繋がっている。ポンプとヘッダの位置が近ければ、この図のようになるだろう。比較的小規模のビルに多いヘッダである。
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図のように出口側配管がどちらか端に寄ったヘッダは一般的には多いのではないだろうか。

この場合はヘッダへの入口と出口が最短距離にあるポンプ④が、最も圧損が少なくなるのは分かるだろう。2台運転の場合は、もう1台はどのポンプを運転するのが良いのかを考えてみよう。

前項では①②や②③のように隣接したポンプ運転が良いと説明したが、このようなヘッダの場合はできるだけ遠いポンプ①を運転するほうが良い。

隣にあるポンプ③は出口には近いのだが、それよりも遠くにあるポンプ①の方が良いだろう。

ポンプ④を停止させた2台運転ならば、ポンプ③とポンプ①が良いだろう。出来るだけ出口に近いポンプを1台運転して、2台目は運転ポンプから離れたポンプを運転するのだ。その条件から考えればポンプ①と②の2台運転は最悪である。

それでは何故、離れたポンプ同士を運転したほうが良いのだろうか。

ポンプ②からヘッダに入った水は瞬間に周囲に広がり、①や③の流入口にも向かう。特に出口側の③への影響が大きいだろう。ポンプ①から入った水の圧力は左側へは逃げることができないので、②への影響はさらに大きなものとなる。これがポンプ①と②の2台運転が最悪になる理由である。

14、入口と出口が逆方向のヘッダ

ポンプとヘッダの位置が離れていれば、この図のようにヘッダ上面のみに配管があるはずだ。大規模ビルの場合はこのような形状が多いだろう。
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このようなヘッダの場合も出口側に近いポンプを優先的に運転させ、次に①か②のポンプを運転させればよい。

ポンプ①からヘッダに入った水は乱流であっても、④の近くまで来るときには層流となっており、乱流同士がぶつかることは無いだろう。

15、インバーター制御のポンプ

これまでの説明では出口側配管が1カ所としてきたが、実際は系統別にあることの方が多いだろう。

ポンプが全てインバーターによる流量制御をおこなっていれば、水がヘッダに入った瞬間の乱流の影響は緩和されるはずだ。

しかし周波数を低く運転しても、回転数に見合ったポンプ定格吐出量×運転台数は実流量にはならない。回転数が下がってポンプ1台当たりの圧損が減る代わりに、運転台数が増えたのでは、1台当たりの圧損は減っても、全体で見れば同じような圧損量になっているからだろう。

最も効率の良い増段のアイデアを見つけるために、実際のヘッダと配管の図を描いて、同じ流量時でのポンプ運転台数と運転周波数と圧損の関係とインバーター制御の有無を考慮しながら、どのようにポンプを運転すれば圧損が少なくなるかを、台数制御の面から検討していただきたい。