ビルの省エネ指南書(48)

熱源機械室のチューニング(12)

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

⑨   
空調機二方弁開度(1/3

1、冷熱供給量

 空調機の二方弁が閉まるということは、冷水の温度と流量に余裕があるからだ。冷熱供給量に余裕があればエネルギーの損失に繋がるため、空調機二方弁が丁度全開となるように冷水の温度と流量をチューニングして無駄な損失を無くしたい。
 二方弁が全開になっても往還ヘッダ差圧を現在よりも低く設定できれば搬送動力がそれほど増えることはない。往還ヘッダ差圧が高いビルが多いようなので、差圧を下げる余地はあるだろう。
 空調機の二方弁が閉まっていたほうが、搬送動力が減り、省エネになるような気もするのだが、往還ヘッダ自動バイパス弁が開くようでは搬送動力が減る訳もなく、冷水温度が低いと配管からの放熱や空調機での除湿量が増えるため、搬送動力が減る以上に冷熱使用量が増えてしまう。
 冷水温度を下げて、往水と還水の温度差が大きくなるようにしたほうが、搬送動力が減ると云われるが、往還温度差が変わらなければ、冷水温度を下げても搬送動力が減る訳もない。それよりも冷水温度を上げながら往還温度差を大きくすることを考えるべきである。空調機の二方弁全開状態で往還ヘッダ差圧をできるだけ下げて、往還温度差を大きくするチューニングをおこなうのだ。
 流量が増えるのは空調機の二方弁が徐々に開いていく過程である。空調機の二方弁が全開になるまで冷水温度を上げていき、全開となった時点で冷熱供給量が不足して充分な冷房ができない空調機があった場合にだけ、流量をさらに増やすか、冷水温度を下げるかを考えればよい。
 しかし、搬送動力を減らすために往還ヘッダ差圧を下げ過ぎると、冷水流量が不足する空調機が出て来る。特に配管方式がダイレクトリターンの場合は影響が大きい。配管抵抗の大きな空調機には冷水が流れ難くなり、空調機毎の流量に差が出て来ると、冷房に支障が出る空調機もあるだろう。
 搬送動力削減を考えるよりも冷水温度を上げることを優先させたほうが、省エネ効果は大きくなる。搬送動力が増えたとしても、冷水温度を上げることによる省エネ効果のほうが大きいので、搬送動力の僅かな増加は気にする必要もないだろう。
冷水温度を上げて除湿量と放熱を減らした結果として冷熱使用量が減れば、その分の搬送動力が減るので、このほうが効率的な削減ができる。
 経験的にではあるが、空調機の二方弁が丁度全開となる位置での冷水の温度と流量の、省エネ的にバランスがとれた点が最善であろう。
 冷水温度が低くて冷水流量が少なければよいものでもなく、冷水温度が高くて冷水流量が多ければよいものでもないのだ。

2、二方弁

 空調機の二方弁が全開になった時点で、それ以上は二方弁での流量調整ができないということでもあり、ヘッダ差圧を手動で調整しなければ流量が不足して、室内温度が高くなってしまう。
 空調設定温度よりもプラス0.5℃以内になるように冷水流量を調整し、プラス0.5℃以上になる時は冷水温度を下げて対応すればよい。
 壁面に設置されている室内温度サンサーは、壁面温度の影響を受けて、夏は高く冬は低く出る傾向があるため、設備管理員はビル内を巡回して、体感により空調温度を確かめることも必要である。
 この写真は夏季の14:00~15:00の間に、あるビルの空調機6台の二方弁を撮ったものである。空調機はこれ以外にもあるのだが、この写真のような視認性の良い二方弁だけを撮っている。

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 冷房ピーク時間帯の二方弁は全て全開である。丁度全開となるように、時間によって刻々と変化する冷房負荷に対応する冷熱の供給量を、手動により冷水温度と流量で調整しているのだ。