ビルの省エネ指南書(50)

熱源機械室のチューニング(14

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

  1. 空調機二方弁開度(3/3)

7、積分動作
 あるビルでは、全ての空調機に比例値と積分値が設定されていたが、空調機毎に設定値が違っていた。竣工時に自動入力で設定しているからだろう。
 
一般的には積分値は「120」が入力されている場合が多いようだ。この数値がそのまま「秒」を表しているのならば分かりやすいが、念のために数値と秒の関係は確認しておいたほうが良いだろう。
 
空調機毎に設定値を変える必要がなければ、全てのデジタル指示調節計に同じ積分値が入っていたほうがメンテナンス的にも分かりやすい。
 
積分値が大きくなればなるほど、二方弁の動作が遅くなり、小さな値にすればするほど、二方弁の動作が速くなる。入力された積分時間で比例値のグラフを左右に移動させながら、二方弁の開度を変化させて、指示値を設定値に近づけているのだが、あまり小さな値にすると設定値を行き過ぎるオーバーシュートや指示温度が上下に振動するハンチングが起こりやすくなるので、小さければよいものでもない。初期値を「120」にしてから、いろいろと試して、ビルに合った最適な積分値を探し出せばよいだろう。

8、地域冷暖房とPID制御
 地域冷暖房の場合は熱にデマンドがあるので、全ての空調機の二方弁が同時に全開になって欲しくないこともある。このような場合はわざと大きな比例値と積分値を入れて、二方弁の動きを遅くするのもよいだろう。一斉に流量が増えることが無くなるので、デマンド管理はやりやすいはずだ。

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 これは比例値を±3℃に設定したグラフである。二方弁の動作がかなり緩やかになっていることが分かるだろう。
 
±1℃ならば1℃の差で全開になるが、±3℃ならば1℃の差があっても、開度63%にしかならないので、それだけ熱交換量も少なくなり、地域冷暖房でのデマンド対策にもなる。
 
デマンド対策にはなっても、それだけ二方弁開度が小さくなるので、設定温度に達するのに時間がかかるが、デマンド対策として一部の空調機を停止させるよりはましだろう。
 
比例値と積分値は初めから大きな数値を入力せず、現在の数値から徐々に大きくしていき、室温とデマンドの妥協点を探し出せばよい。

9、微分(D)値
 写真のように微分値は「0」になっている場合が多いようだ。微分値が入力されているデジタル指示調節計を見たことがないので、微分動作は空調ではあまり使われていないのだろう。
 
微分動作は温度の急激な変化を抑える動作なのだが、空調の場合はそれほど急激に室温が変化することはないので必要がないのかもしれない。

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 10、入力ミス
 以前、設備管理をおこなっていたビルでの話だが、ある空調区画だけ冷房の効きが悪く、結果的にこの空調機が基準となって、他の空調機から見れば余裕のある冷水出口温度と流量になっていた。
 
その頃は二方弁の開度に気を配ることもなく、冷房の効きが悪いのだから、冷水温度を上げることを考えることもなかったのだが、後にこの空調機だけ二方弁開度が50%から殆ど変化しないために、流量が不足していたのが原因だと判明した。
 
十数台ある空調機の制御は比例制御のみで、この空調機だけ比例値が異常に大きかったのだ。竣工時からの初期設定時の入力ミスであろう。
 
設定値と指示値の温度差により比例値に対応した二方弁の開度が決まるのだが、比例値が±50℃になっていればどのようになるのか考えてみたい。
 
次のグラフのように二方弁開度が50%から殆ど動かないことが分かる。設定温度よりも1℃上がっても開度は51%にしかならない。これでは二方弁が開度50%から殆ど動かないのと同じである。

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 冷房であれば設定温度より50℃も上がらなければ二方弁が全開とはならないのだ。28℃設定ならば室温が78℃になった時に全開になるのだから、あり得ない話である。たった1台の空調機の単純な入力ミスのために冷水出口温度を上げることもできず、その他の空調機にとっては必要のない余裕のある冷水を無駄に供給していたのだ。
 
これでは熱源チューニングができる訳がない。この単純ミスに気付くかどうかが省エネとの分かれ目であり、気づいて幸いであった。省エネのポイントはこのようなところにも隠れているのだ。
 
二方弁のチューニングは開度のみに注目するのではなく、ビル内にある空調機全てのPID制御による動作までを含めてチューニングしなければならないことが実感できた、貴重な経験であった。

11、手動制御
 次のグラフは冷房時のPI制御で、設定温度が28℃の時に二方弁が丁度全開となっている。 これ以上は二方弁を開方向に自動制御できないので、ここからは手動で冷水温度や流量を制御しなければならない。もしこのまま何もしなければ、室内温度が28℃以上に上がっても冷熱供給量は増えないので、暑いというクレームが来ることは必定である。手動で冷水温度を下げるか流量を増やして、二方弁全開のまま28℃を維持できるように、冷熱供給量を調整するのが手動制御である。

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 設定温度を維持するために二方弁開度を自動制御するPID制御と比較して、設定温度を維持するために、熱の供給量を手動で調整して、常に二方弁が全開となるようにするのだからかなり難しい。
 
二方弁が丁度全開となるように室温に目を配りながら、PI値も考慮した冷水温度と流量を判断して冷熱供給量を調整しなければならない。
 
設備管理員の仕事量が大幅に増える手動制御は、技術力に自信がなければできない制御でもある。

12、空調機の日常点検
 設備管理の業務として、空調機の日常点検を行っているはずだ。その点検項目に空調機の二方弁開度を記入する項目があるだろうか。無ければ作られることをお勧めする。前述のような単純な入力ミスを発見することに繋がるだけではなく、どの時間帯はどの空調機が最も空調負荷が高くなっているのかを、開度を見て把握できるようになる。
 
空調機のSA,RA,OA,EAの各ダンパーの開度も二方弁開度に影響するので記録しておくべきだろう。
 
冷温水配管の圧力計等は常に同じ数値である。このような変化のない数値を毎回記録していたのでは、日常点検が点検のための点検となってしまい、問題点があっても見過ごしてしまうだろう。
 
点検は常に考えながら行い、疑問を持ち、問題点が発見できるような点検でなければならない。
 そのためには冷温水温度や二方弁開度のように、常に変化している数値や、ダンパーのように手動で変化させている開度の記録は重要である。