ビルの省エネ指南書(55)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

暖房と蓄熱

1、冬の空調運転

ビルで恒温恒湿をおこなっている部屋があるとすれば、コンピューター室が多いだろう。

小規模のコンピューター室では恒湿を行わず、冷房だけで恒温をおこなっていることもある。

コンピューター室は常時かなりの発熱があるため、冬でも室温が下がり過ぎる心配はなく、冷房だけでも恒温は維持できるからだ。

温度制御だけならば、温度が一般の室内よりも低いとはいえ、冷房エネルギーは最低限で済むが、制御が難しいのは湿度である。湿度制御が入ると、加湿や除湿で制御が複雑になり、そのためにエネルギー消費の無駄が多くなる。

室内湿度を上げるのには電気ヒーターによる加熱で水を蒸発させ、室内湿度を下げるにはエアコンで除湿して、室温が設定温度よりも下がると、ヒーター等で再熱するのが一般的であるが、このような恒温恒湿制御では、どうしても無駄なエネルギーを消費してしまう。

コンピューター室は発熱機器の影響で一年中冷房が必要な部屋である。この冷やさなければならない部屋を、加湿のためであっても、再熱のためであっても、ヒーター等で加熱しなければならないのが無駄であり、省エネをおこなうには、この無駄を無くす方法を考えればよい。

2、相対湿度と絶対湿度

外気温湿度が高いのは夏季である。熱は高いところから低いところへ伝わるが、同様に湿気も多いところから少ないところへ伝わる。

空気中に含まれる水蒸気量は相対湿度ではなく絶対湿度で表すので、相対湿度が低くても絶対湿度が高ければ、相対湿度の低いところから相対湿度の高いところへ湿気が伝わる。

3560%は絶対湿度が0.0214(g/g D.A.)

2590%は絶対湿度が0.0180(g/g D.A.)

2590%のほうが相対湿度は高いが、絶対湿度は3060%の方が高いので、空気中の湿気は3060%から2590%の空気に伝わるのだ。

 

エアコンの給気温湿度で制御するのか、室内温湿度で制御するのかの違いはあるが、室内の温度と湿度が2450%になるように恒温恒湿制御されていると仮定して説明していく。

 

夏季の外気ならば温度も相対湿度も絶対湿度も2450%よりは高いので、換気をしていなくても壁面等を通して、外気の熱と湿気がコンピューター室へ伝わって来る。

 

コンピューター室を2450%に維持するとして、この時の絶対湿度が0.0093(g/g D.A.)、夏季日中の外気を3375%と仮定すると、絶対湿度が0.0241(g/g D.A.)。外気との比較では温度的に33℃から24℃に27.3%下げればよいのに、絶対湿度は0.0241(g/g D.A.)から0.0093(g/g D.A.)に61.4%も下げなければならない。

 

夜間ならば外気温度が下がり、雨天ならば外気温度が下がり湿度が上がるので、この低減率の差はさらに大きくなる。夏季に恒温恒湿を維持するには、温度よりも湿度を下げる負担のほうが大きいことが分かるだろう。

 

絶対湿度を61.4%も冷房で下げようとすれば、発熱機器があるとしても室温が24℃以下になってしまうので、24℃まで室温を上昇させるために再熱が必要となるが、再熱の必要が無くなるように恒温恒湿を効率的におこなうことができれば、大きな省エネ効果が期待できるのだ。

 

3、除湿による無駄の連続
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除湿はエアコンで行い、設定湿度になるまで冷房で除湿するのだが、夏季に室内を2450%設定で恒温恒湿をおこなえば、恒湿になった時には室温が設定24℃以下にまで下がってしまう。

そこで室温を上げるために再熱をおこなって恒温となる。外気は常に入って来るので、外気湿度が高い夏季は除湿のために休みなく冷房を行い、そして再熱を行なわなければ2450%の恒温恒湿は維持できないだろう。

これでは、際限のない無駄の連続である。

真夏の外気侵入により、室内の温湿度は常に上昇しようとしているのに、エアコンだけで相対湿度を50%に維持するには無駄が多く、それだけエネルギーを浪費することになる。

コンピューター室を冷房するエアコンだけで恒湿を行なおうとするから、このような無駄の連続となるが、エアコンでの除湿を止めれば無駄の連続を止めることが出来る。

4、夏季の恒湿は除湿機でおこなう

エアコンでは冷房による恒温を主としておこない、除湿は別の除湿機でおこなえばよい。

充分に除湿能力があり、湿度設定のある除湿機ならば恒湿を維持でき、エアコンは冷房による恒温専用として使うことが出来る。これならば再熱することがなくなり。冷やしては暖めるような無駄はなくなるだろう。

除湿機は高価な業務用でなくても、価格の安い家庭用で充分だ。まずは1台設置して様子をみることだ。1台で除湿能力が不足するようならば2台置けばよい。

家庭用の除湿機ならば除湿能力の大きな機種でも消費電力は400W以下なので、エアコンで室温を下げてから再熱で室温を上げる消費電力量と、除湿機の消費電力量の差は想像以上に大きく、チューニング次第ではエアコン消費電力量が50%以上も節電できる可能性がある。

除湿機の貯水タンクはできるだけ容量が大きい機種を選びたい。貯水タンクが満水になれば除湿機が運転を停止するからだ。

貯水タンク容量が5ℓ程度ある機種ならば除湿能力も高いはずなので、機種選定の目安にはなるが、除湿能力18/日で貯水タンクが5ℓの除湿機では7時間以内で満水となり除湿機が停止してしまうので、部屋の面積と除湿能力と貯水タンク容量を考えて、最適な除湿機を選びたい。

ドレン口から直接排水できる除湿機ならば、満水で運転停止になることはないが、それでは除湿量が分からない。面倒であっても貯水タンクに貯めて、毎日時間を決めて貯水タンクの水量を記録してから捨てるようにすれば、どれだけの除湿をしているのかが把握できる。

外気が乾燥する冬季は一滴の水も貯まらなくなる。貯水タンクに貯まる水が少なくなった時点で除湿機の運転を停止してもよいだろう。

5、無駄な動作が無くなる

除湿機で除湿をおこなって恒湿を維持しながら、室温が上がればエアコンで冷房して恒温を維持する。再び外気侵入と発熱機器で温湿度が上がれば、それを除湿機で除湿しながらエアコンで冷房するという循環である。

除湿と冷房に無駄な動作がないのが分かる。
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最初の図と比べて、冷やし過ぎによる「温度低下」と「再熱」が無くなっている。このどちらもエネルギーを浪費するのだから、無くなることはそれだけ省エネになることでもある。

外気はコンピューター室への侵入だけではなく、導入している場合もある。外気を導入すればそれだけ温度と湿度が上昇するので、必要以上の換気を行なわないように気を付けたい。