ビルの省エネ指南書(71)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(8

27、デマンド要注意日
 電力や地域冷暖房の冷熱・温熱使用量がピークとなる時間帯は、冷暖房がピークとなる時間帯でもある。『温度・湿度・日射・風』を観察してピークを事前に予測できるようにしたい。
夏季は外気温度が高い日がデマンドピークだと思われるが、意外と温度が最も高い日ではなく、日差しが強くて無風の日のほうが要注意だ。日差しが強いとビル自体が熱せられるが、風があればその熱を奪ってくれる。しかし無風では熱がビル内に侵入して冷房負荷となるからだ。日差しの強さは天気予報では分からないので自分自身の肌で感じて判断することが大切だ。
これにビル内の状況によっては内部的な要因もプラスされる。一時的な催し物があるビルなどが該当するだろう。発熱源になる人が通常よりも多ければ、冷房負荷が増えて当然である。
冬は逆に外気温度が低く、湿度が低く、日差しが弱く、風の強い日がデマンドピークになる。
冷房にとっては負荷となる人や照明やOA機器などの発熱は、暖房にとっては熱源である。これは暖房負荷が減る効果があるので、デマンド的には冷房のほうが余裕がなくなるだろう。
暖房ピークは特に冷え込む、年に数日の暖房立ち上がり時間。病院等の夜間も暖房をおこなっているビルでは、外灯が点灯する夕方に暖房ピークになることがある。この時間帯が電力や地域冷暖房のデマンド要注意時間帯である。

28、夏季のデマンド対策
 夏のデマンド要注意日は、冷房がピークとなる7月下旬の梅雨明けから9月上旬までだろう。ピーク時間帯はオフィスビルでは昼休み後の13:00~16:00になる場合が多い。
ホテル等では稼働客室が増え、外灯が点灯する時間帯の電力デマンドがピークになりやすい。
夏季はピーク期間もピーク時間も長いので、一時凌ぎ的な対策よりも、できるだけ多くのデマンド対策を継続的におこなう必要がある。
昼休み中に冷房を停止させているオフィスビルもあるが、エアコンの場合は起動時の電力消費が多くなるので、停止させないほうが良い。
在室者が少ないのであれば排気を停止させたほうが効果的である。空調機のEAファンや室内にある換気扇を停止するのだ。人が少なくなる昼休み中ならば、室内のCO2濃度が高くなることもないだろう。この方がエアコンを停止させるよりも無理がなく、省エネ効果も高い。
空調機やエアコンに中性能フィルターがあれば取外す。不快指数冷房もおこないたい。
給水を高置水槽でおこなっているビルであれば揚水ポンプがあるだろう。数㎾のポンプであっても、照明を消灯させての数㎾節電は大変だが、ポンプでの節電ならば簡単にできる。オフィスビルならば13:00に満水になるように手動で揚水しておけば、昼休み後の冷房ピーク時間に揚水ポンプが自動運転することもない。
デマンド計測時間30分のうち20分が経過した時点でデマンドに余裕があれば、残り10分間に手動で揚水してもよい。手間が掛かるが設備員しかできない方法でのピークシフトである。
電気ポットやコーヒーメーカーを数多く使っているならば、電力デマンドピークに合わせて全ての電源を切るだけでも、かなりの節電が出来る。最も簡単で効果的なデマンド対策かもしれないが、全員の協力が必要である。
必要時は迅速に協力してもらうために、今日の『温度・湿度・日射・風』と天気予報で冷暖房ピークを予測して、デマンドに余裕がないと思われる日は、デマンド予報をビル内に出せるようにしておけば、協力も得られやすいだろう。
「本日○○時頃はデマンド要注意です!」と。

29、冬季のデマンド対策
 暖房ピークの時間帯は冷房ピークの時間帯と比較すれば短時間であり、外気温度が極端に下がる日も年に数日である。この数日でデマンドが決まってしまうことが多いはずだが、たった数日のためにデマンドが超過するようでは勿体無いので、この時間帯をいかに凌ぐかが大切だ。
始業時に一斉に暖房が入らないよう、早めに暖房をおこなうことも有効であり、配管蓄熱が可能なビルならばおこなうほうがよいだろう。
明日寒波が来て冷え込むことが分かっているのならば、部屋によっては夜間も暖房を停止させずに入れたままにすれば、早朝の暖房ピークは抑えられるだろう。無駄な温熱消費のようだが、数日であれば大した消費量ではない。寒波の来る前夜に人のいない部屋での暖房の効果を試してみるのもよい経験である。勿論OAは最小限でEAは停止させておこう。実際におこなってみると、それ程エネルギーの無駄にはならないことが分かるはずだ。デマンドを心配しながら暖房を立ち上げるよりもましである。
使用量が増えても使用料金は増えないように、ビル内の暖房負荷に合わせながら、デマンドを考えて光熱費の削減を最優先する空調運転管理をおこなうようにしたい。

30、冬季にナイトパージ?
 冬季のオフィスビルの休日明けはビル内が冷え込んで暖房の立ち上げが大変である。特に年末年始のように長い休日明けは中々暖まらずに苦労をしているだろう。このような日と寒波が重なると、デマンド的には厳しいものとなる。
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写真はエレベーター機械室の排気口から、暖かい空気を自然排気しているところである。
屋上にエレベーター機械室があり、機械室の排気口が開いていると、高層のビルほどエレベーターシャフトの煙突効果でエレベーター機械室の気圧が上がり、自然排気をするのだ。
僅かな隙間があれば、ビル内のどこからでも自然排気した量の外気が侵入することになる。
夏季ならばこの煙突効果による自然排気を上手く利用できれば、効果的なナイトパージができるが、冬季もこの状態ならば、寒いのに暖気をナイトパージする結果となり、ビル内が冷え込んで、休日明けは暖房ピークとなってしまう。
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冬季にナイトパージをしないためにも、排気口にダンパーがあるならば閉めるようにしたい。
気が付かずに冬季にナイトパージをしているビルもあるはずなので注意してほしい。
排気ファンがあるだけで、排気口にはダンパーがない機械室も多いはずだ。風圧でダンパーが開く排気ファンもあるが、ファンが運転していなくても、煙突効果により高くなった気圧でダンパーが開き、自然排気が行われることもある。
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風圧式ダンパーの有無に関係なく、写真のように排気ファンにビニールを被せるだけでも、自然排気を防ぐことができる。春になればビニールを取り外すことを忘れないようにしたい。