ビルの省エネ指南書(72)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

吸収式冷温水機

1、運転台数
 同じ冷凍能力のガス焚き吸収式冷温水機2台で冷房をおこなっているビルがあるとする。2台運転ならば冷房能力に十分な余裕があるが、1台運転だと若干だが冷房能力が不足する。
ガス焚きとするのは、正確に使用量を把握できるので、説明する便宜上である。
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1台の吸収式冷温水機を冷凍能力以上の冷房負荷で運転すると、設定した冷水出口温度を維持できなくなり、冷水温度が徐々に上昇するとともに、冷房中の室内温度も上昇する。
2台運転すればよいのだが、『吸収式冷温水機本体+一次ポンプ+冷却水ポンプ+冷却塔ファン』、これらの電力だけでも相当に大きなものとなるので、電力デマンドを考えて、できるだけ1台運転で我慢をしているビルもあるはずだ。
2台運転すれば、設定した冷水出口温度を余裕で維持できるので、吸収式冷温水機の効率も良くなり、ガス使用量が減ることは間違いない。
吸収式冷温水機は100%負荷1台運転よりも50%負荷2台運転の方が省エネになるのだ。
これらのことが分かってはいても、ガス使用料金節減よりも電力の基本料金のほうが大きいと考えれば、2台運転できないのが実状だろう。

2、水使用量
 冷却塔での水使用量はどうなるのだろうか。
2台運転ならば水使用量も2倍になると思っている設備員もいるのではないか。
冷却塔で蒸発する水の気化熱はビルの冷房で奪った熱量とガスが燃焼した熱量の合計である。この熱量は、吸収式冷温水機が1台運転でも2台運転でも同じであり、2台運転すれば熱量が2倍になるわけではないので、吸収式冷温水機2台運転時の冷却塔1台当たりの放熱量は、吸収式冷温水機1台運転時の半分になるはずだ。
吸収式冷温水機を2台運転した結果、効率が良くなってガスの使用量が減れば、ガスの燃焼による熱量はさらに減ることになる。
冷却水温度を下げるための気化熱が少なくて済むので、冷却塔での水使用量は、吸収式冷温水機を2台運転したほうが少なくなるはずだ。

3、冷却塔
 冷却塔だけで考えても、2台運転ならば単純に冷却面積が2倍になり、放熱量当たりの冷却風量が増えることにもなるので冷却水温度が下がり、吸収式冷温水機の効率もよくなる。
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冷却塔1台当たりの水の蒸発量が半分になれば冷却塔周囲の湿度も下がる。
周囲の湿度が下がれば水の蒸発効率は上がる。その結果冷却水温度が下がれば、冷却塔ファンが停止する時間も増える。まさに好循環である。ただし1台運転でも冷房負荷が80%しかないような時にまで2台運転する必要はない。

4、二次ポンプ電力
 ガスも水も吸収式冷温水機2台運転のほうが、使用量が減るのならば、問題は電力である。『吸収式冷温水機本体+一次ポンプ+冷却水ポンプ+冷却塔ファン』の電力は確実に増える。特に冷却水ポンプの電力が大きい。ならば増えた電力以上に、減らすことができる電力はないのかを考えてみたい。
まず考えられるのは二次ポンプだ。
二次ポンプの場合は、吸収式冷温水機を2台運転して冷水出口温度を下げれば、空調機二方弁が閉まるので流量が減る。その結果、二次ポンプが回転数制御ならばインバーター運転周波数が下がり、台数制御ならば二次ポンプの運転台数が減って電力が減るはずだ。しかし二次ポンプの電力はそれほど減らないものである。
流量を減らすことを考えるよりも、空調機二方弁が丁度全開になるように、冷水温度をできるだけ高くコントロールする不快指数冷房をおこなったほうがよい。冷水出口温度を下げて搬送動力低減をおこなう二次ポンプの節電量よりも、不快指数冷房の省エネ量のほうが、エネルギー的にも金額的にも効果的なはずだ。
吸収式冷温水機2台運転で、冷水出口温度を下げる余裕ができても、実際の運転では下げるのではなく、室温を維持できるギリギリまで冷水出口温度を上げるようにするのだ。冷房能力不足による冷水出口温度上昇と、冷水出口温度が高くなるようにチューニングするのとでは、吸収式冷温水機の効率が違って来るからだ。
二次ポンプ電力の削減を考えるのならば、二次ポンプの吐出しバルブが閉まっていたら開けるように、往還ヘッダの圧力調整弁が開いていたら閉まるように、インバーターであれば最低周波数を必要最低限まで下げるように省エネチューニングをおこなうほうが効果的である。

5、空調機
 次に考えられるのは空調機だ。
空調機のSA・RAファンがインバーターによる回転数制御であればという条件付きである。
吸収式冷温水機1台運転で冷水出口温度が高くなり、冷房設定温度よりも室内温度が上がれば、空調機はSA・RAファンの回転数を上げて風量を増やし、室内温度を下げようとするが、最大周波数になっても室温は下がらなくなる。
回転数が上がれば消費電力も多くなる。吸収式冷温水機2台運転で冷水出口温度が上がり過ぎないようにできれば 、SA・RAファンの回転数を上げなくても室温が設定値になるため、SA・RAファンの消費電力は少なくなる。
インバーターでSA・RA量を制御する空調機が何十台もあるならば、『吸収式冷温水機本体+一次ポンプ+冷却水ポンプ+冷却塔ファン』で増える電力よりも、SA・RAファンで減る電力のほうが多くなるため、吸収式冷温水機2台運転の方が節電になるだろう。吸収式冷温水機を1台運転で頑張っても、ガスも水も電力も節約にならない可能性のほうが高いのだ。
冷水温度とは関係なく、単にSAダンパーが閉まってファンの回転数が上がっているのならば、ダンパーを全開にするだけでもファンの回転数が下がるので、ファン電力の節電になるだろう。
ポンプのバルブやファンのダンパーが閉まっていることが多いのでできるだけ全開にしたい。

6、空調機二方弁
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 空調機二方弁開度が1 00%以上になるような冷水温度では、室温をコントロールできない冷房になり、SA・RAファンの電力は最大となる。
空調機二方弁が100%開の時が、最も流量が増える時であり、二次ポンプの消費電力が増える時でもあるが、最も省エネになる時でもある。
二方弁の開度を90%~100%でコントロールできる冷水温度が、室温も維持できて、不快指数冷房としても省エネになり、SA・RAファンの節電にもなるベストの冷水温度となるだろう。