ビルの省エネ指南書(5)

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の2〕
全熱交換機(2)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

3、ビル全体での全熱交換機
 最初にビル全体を1台の全熱交換機で賄っている場合を考えてみたい。このようなビルの場合は外気導入をこの全熱交換機だけでおこなっていることが多いため、給気量と排気量が等しい全熱交換機では、建物内が負圧になり外気が侵入してくるはずだ。ビルには排気ファンが数多く設置されており、ビルに排気がある以上はその排気量と同量の外気が必ずビル内に入ってくるためだ。
 この時に全熱交換機の排気ファンを止めて給気ファンだけを運転すればどうなるだろうか。つまり熱交換せずに外気だけを導入するのである。
 これで建物内の負圧が解消されて、ビル全体としての給排気バランスがとれるのならば、この方が排気ファンを停止できるだけ省エネになるのだ。
 全熱交換機単体で給排気バランスがとれていても、侵入した外気による空調負荷が熱交換量以上になるのならば熱交換する意味はない。ビルに入ってくる外気負荷が、排気ファンを止めた全熱交換機の給気ファンによるものか、外気侵入によるものかの違いだけである。

写真13 出入口からの外気侵入 

ビルは1階が最も負圧になりやすく、このようなビルならば、(写真―13)のように開口部面積の広い1階出入口からの外気侵入が最も多く、ドアが開けば外気が勢いよくビル内へ入ってくる。 外気侵入とは窓の隙間や出入口から入ってくる外気のことであり、粉塵的には好ましい空気ではない。それよりも全熱交換機のフィルターを通して入ってくる空気のほうが綺麗だと考えるべきである。空調用の外気取入口はビルの上層部にあることが多いため、1階ほどは粉塵を含んだ外気で
はないはずだ。
 普段は省エネ設備として意識せずに運転している全熱交換機も、省エネ面での使い方と空気環境面での使い方を考えなければならない。動いていれば省エネになり、空気環境が良くなると思うのは早計なのだ。全熱交換機があるビルは、この有効な省エネ設備が増エネ設備となっていないか、一度調べてみてはどうだろうか。

4、増エネ設備の全熱交換機
 全熱交換機の排気ファンは、停止させたほうがよい場合があるということを説明したい。
 全熱交換機の効率は100%ではないために、全熱交換機の効率が70%ならば、全熱交換機を運転した場合の外気負荷は30%となる。侵入外気の外気負荷が100%ならば、全熱交換機運転時の外気負荷は合わせて130%になる。
 全熱交換機の排気ファンだけを停止させれば、熱交換しない外気が入ってくるが、その結果、ビル内が正圧になり侵入外気が無くなるのならば、全熱交換機からの外気導入負荷が100%となっても、侵入外気による30%の外気負荷が減ることに
なり、外気負荷は100%だけで済む。
 排気ファンとローターの電力も不要になるので電気の省エネにもなるのであるから、全熱交換機は電力と熱の増エネ設備だったことになる。
このように全熱交換機の省エネ効果はビル全体の気圧で考えるべきであり、外気と排気のバランス次第では省エネ設備ではなく増エネ設備となる場合もあるということに注意したい。