空調機のチューニングポイント〔其の9〕
東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡
不快指数冷房(4)
12、不快指数とエンタルピ
不快指数を75以上に維持するだけでは快適性と省エネが両立できることにはならない。
ならば不快指数75以上にするには何℃、何%がよいのだろうか。ここが不快指数冷房の最も重要ポイントである。そのためにはエンタルピも同時に考える必要があるからだ。
6月号の表-3を見れば不快指数が同じ75でもエンタルピが全て違うことが分かるだろう。
28.0℃45%の場合が55.26 kJ/㎏で、26.5℃60%の場合が59.84 kJ/㎏となっている。
冷房はエンタルピを下げるものだと考えれば、エンタルピが59.84 kJ/㎏と高くなっている26.5℃60%の方が、不快指数は同じ75なのだから、エネルギーを使わずに冷房が出来ているといえるだろう。
13、表―1(6月号)のグラフ化
不快指数とエンタルピの関係は6月号の表-1をグラフ化することで分かりやすくなる。
グラフ-1 不快指数とエンタルピ
グラフ-1の実線が不快指数で破線がエンタルピを表している。
表―1よりも範囲が広くなって、温度は下に24℃まで、湿度は右に70%までひろがっている。
ここまで範囲を広げると不快指数とエンタルピの関係が分かりやすくなるだろう。
このグラフは28℃、45%、不快指数75、エンタルピ55.26 kJ/㎏を基準としたグラフである。
表-1と対比しながら見て欲しい。
14、グラフ―1の説明
実線上はどの位置でも不快指数75であり、破線上はエンタルピ55.26 kJ/㎏である。
不快指数75を基準とすれば、この実線よりも右上の範囲は不快指数が75より上となるので不快となり、左下の範囲は不快指数が75より下となるので快適となる。
エンタルピ55.26 kJ/㎏を基準とすれば、この破線よりも右上の範囲はエンタルピ55.26 kJ/㎏より上となるので省エネとなり、左下の範囲はエンタルピ55.26 kJ/㎏より下となるので増エネとなる。
エンタルピを基準とした省エネと増エネの関係を間違わないように気を付けたい。室内温度を高くして省エネを行うという考え方と同じように、室内のエンタルピを高く保ったほうが省エネになるのだ。
ここで、グラフ-1の実線と破線で挟まれている範囲を考えて欲しい。快適になる範囲と省エネになる範囲が重なっていることが分かる。
この範囲内ならば28℃45%で冷房するよりも快適性と省エネが両立できるのだ。
15、快適性と省エネ
表-1によればエンタルピ的には28℃45%も25℃60%も大差のないエンタルピであるが不快指数は75.0と72.8で快適性が大きく違ってくるので、同じ冷熱量で快適性を求めるならばこの方が得である。
不快指数的には28℃45%も26.5℃60%も大差のない不快指数であるがエンタルピは55.26 kJ/㎏と59.84 kJ/㎏で省エネ性が大きく違ってくるので、同じ快適性を維持しながら省エネを求めるならばこの方が得である。
これはあくまでも28℃45%を基準とした比較であるが、温度・湿度が違っても、そのポイントを基準とすれば考え方は同じだ。