ビルの省エネ指南書(29)

空調機のチューニングポイント〔其の11〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

空調のチューニングポイント

不快指数冷房(6

23、省エネと快適性の両立とは 

不快指数を基準とした冷房を行えば、温度を下げてもよいと思っているかもしれないが、不快指数が低いのに、さらに温度を下げる必要はない。不快指数冷房はさらに快適にするためにあるものではなく、現在が快適なビルならば、その分のエネルギーを省エネのほうに振り向けた方がよいだろう。

不快指数冷房は快適なビルをさらに快適にするためにあるのではなく、もっと温度を上げたいが、これ以上室温を上げると室温が29℃や30℃になり、室温を上げたくても上げることができないというビルのためにあるのだ。

室温を30℃にできなくても、それと同等以上の省エネ効果があり、それよりも不快指数が下がると考えればどうだろうか。省エネと快適性が両立できているはずだ。

24、不快指数と省エネ 

室温を高くすれば省エネになるものではないのと同じように、不快指数も高ければ省エネになるものでもない。省エネになるのは室内のエンタルピが現在よりも高くなったときである。

それならば、同じエンタルピで不快指数を低くした冷房をするほうがよいに決まっている。

グラフ-2で不快指数とエンタルピの関係を説明する。

実線は不快指数線で、不快指数73から77までの各線である。

破線は30℃40%を基準としたエンタルピ57.25 kJ/㎏を表すエンタルピ線である。

破線上は同じエンタルピなのであるから、同じエンタルピでもグラフ左上の不快指数77の場合もあれば、グラフ右下の不快指数74の場合もあることになる。

同じ量のエネルギーを使って冷房をするならば、不快指数77よりも不快指数74のほうがよいと誰でもが思うだろう。

グラフ-2 不快指数と省エネ

室温で考えれば、同じエネルギーを使って室温が30℃の場合と26℃の場合はどちらがよいかと云うのと同じなのである。

エンタルピ線の右上側はエンタルピが57.25 kJ/㎏よりも高くなる、省エネゾーンであり、左下側はエンタルピが57.25 kJ/㎏よりも低くなる、増エネゾーンである。

30℃40%と26℃65%の不快指数を比較すれば、不快指数が高い方が増エネになり、不快指数が低い方が省エネになるという、逆転現象が起きることがあり得ると分かるだろう。

これならば不快指数が低くて省エネになるほうが良いに決まっている。

25、目指す温湿度

グラフ-3にある①の室内温湿度26℃45%で不快指数72.5、エンタルピ50.17 kJ/㎏で冷房しているビルは多いのではないだろうか。このようなビルが省エネを行うために室内温度を上げるにしても、②の29℃45%で不快指数76.3、エンタルピ57.94 kJ/㎏にできるだろうか。

温度だけを上げて省エネを行おうとしても、3℃上げることは難しいだろう。

③の26℃59%で不快指数74.1、エンタルピ57.79kJ/㎏ならばどうだろうか。②と同等の冷房エネルギーであるが、これならば実行可能だろう。無理をして室温を上げ不快指数76.3にするよりは、この方が現実的である。

グラフ-3 不快指数冷房を目指す方向

②も③もエンタルピは殆ど同じなのに、①の位置から上を目指すか、右横を目指すかで大きな違いとなるのだ。

26、エンタルピ線上にある2点の比較

②と③、この二つの点を比較すると、29℃45%はエンタルピ57.94 kJ/㎏、26℃59%はエンタルピ57.79kJ/㎏、殆ど同じエンタルピである。

グラフ-3をみればこの二点は、基準となるエンタルピ線上にある。このエンタルピ線上はどの位置でも同じエンタルピになるので、冷房による冷熱使用量は同じである。

エンタルピ線は不快指数線とは角度が違うが、不快指数線が平行になるのと同様に、数値の違うエンタルピ線どうしは平行になるので、目指すエンタルピがあれば、グラフ-3のエンタルピ線と平行になるように破線を追加すればよい。

27℃63%ならば不快指数76でエンタルピ63.12 kJ/㎏である。これならば29℃45%で冷房するよりも不快指数が低く、エンタルピが高いので、快適性と省エネの両立ができる。

27、目指す方向

皆様のビルはこのグラフ-3ではどの位置なのか、印をつけていただきたい。

そして、少しでも省エネを目指すならば、グラフ-3の現在の位置から真上を目指して温度を上げるのではなく、室温が28℃ならば真横を、28℃以下ならば28℃を越さない範囲で右上を目指せばよい。

温度と湿度の両方が低いビルならば、エンタルピ線と直角方向に右上を目指していけば、効率のよい不快指数冷房ができるだろう。

温度を上げることができないビルでも、湿度が50%以下のビルは多いだろう。このようなビルならば湿度だけをあげる余裕があるので、温度を上げる代わりに真横を目指していけばよい。

不快指数冷房はこのように湿度を上げることを基本として、室内のエンタルピを上げながら不快指数をできるだけ維持するテクニックであり、現在よりも快適性を目指すものではない。

28、温度と湿度の正確性

モニター画面で各室内センサーの温湿度を見ることができるビルもあるが、壁面のセンサーは壁の温度の影響で、夏は高めに冬は低めに表示されることがある。当然に温度との相対湿度である湿度表示も当てにはならないので、モニター画面の温湿度を100%信じてはならない。

私自身、デジタル式の温度計や温湿度計を6台使っているが、どれひとつとして同じ温度ではなく、温度が比較的近い値を示している温湿度計であっても湿度が10%も違っていたりする。

夏は高めに出ていた温度が冬になると低めに出るなどの逆転もあるから、どの温湿度計を信じてよいのか分からなくなる。

空気環境測定で使っている測定機器も感度が悪く、正確な温湿度を表示するまでには時間がかかるので、短時間で測定した場合などの数値は信頼性に欠ける。アスマン通風乾湿計も温度が安定するには時間がかかり、湿球のガーゼの湿り具合でも湿球温度が変わってくることを経験した方は多いだろう。

どのような温湿度計を信じればよいのかを経験的に言わせていただくならば、感度が良いものがよいだろう。感度の悪い温湿度計ほど、体感的でも分かるほどの誤差があるからだ。

1台の温湿度計を決めて、その温湿度を基準に不快指数冷房をおこなうことを推奨する。