病院の環境衛生管理の立場から その(1)

公益社団法人 福岡県ビルメンテナンス協会
副会長 古賀 修

1.はじめに
 建築物清掃は、ごみ・ほこり・汚れを計画的に排除し、建築物の美観を向上させ、建材を保護し、衛生的
な環境を確保することが目的ですが、病院においては、更に「衛生的な環境」の意味を深く考える必要が
ある。
 即ち、病院清掃の目的は、患者に対し常に清潔で衛生的な生活環境を提供し、快適な療養生活が過ごせる場所を保持することである。それを適切に行うことによって、治療と看護がより効果的に行われることとなり、ひいては清掃業務が間接的に医療の一環としての重要な役割を担っているとも言える。
 また、単なる清掃業務ではなく、医学的根拠に基づいたシステムと管理手法を構築し、遂行することによって、高度な衛生的環境を確保する中心的な役割を果たさなければならない。このような観点から、病院
において清掃業務を遂行する際の基本的方針を再確認したい。
2.病院清掃の特殊性
 病院清掃をするにあたっては、配慮されなければならない特殊な条件として、年中無休の患者の治療と生活の場であることによる作業時間の制限や、場所別による作業内容の相違等が挙げられる。よって、病院清掃の特殊性を十分に理解し、その条件下で適切に清掃を行わなければならない。
 また、病院ではゾーニング(清浄度区分)に従って、清掃用具の区別、作業計画、作業方法等を確立しておくことが、院内感染防止の面からも特に重要である。
3.管理体制と教育の実態
 病院清掃における組織は、受託責任者を中心として、病院側の業務責任者を窓口として医療関係者及
び設備関係者との連携を図り、随時協議することが必要であるにもかかわらず、それぞれの管理体制が
確立されているだろうか。
 例えば、感染対策委員会への参加や協力の面においても情報の関連部署への提供等で不十分な場合がみられる。一方では、受託責任者の能力、知識、人格などが病院清掃を実施していくうえで重要な課題
である。果たして、受託責任者に該当する者の育成が適正になされているであろうか。なぜならば、受託責任者は、適切な知識や技術の習得に努めるとともに、従事者に対しては、病院清掃に必要な知識、技能などを備えさせるために継続的な教育を行っていくことが求められている。なお、医療法施行規則(第9条の15)では、受託責任者の要件として、「相当の知識と経験」があり、また、従事者の要件として、「必要な知識」が定められている。
 ここでいう「相当の知識」とは、作業計画の作成・作業の方法・作業の点検及び業務の評価等に関する知識であり、「相当の経験」とは医療機関の清掃業務を含む3年以上の実務経験である。これらの条件を満たすよう教育・指導し、配置しなければ委託基準に適合した管理体制とはいえない。
 このような状況を建築物衛生法の諸法規に定められた建築物清掃業の登録基準の内容と比較してみる。まず、事業登録の中心となっている清掃作業監督者の役割は、登録基準の各項目について、指揮・指導・監督にあたり、より良い清掃業務の実現に向けて管理することである。その意味で、受託責任者においても共通の役割が求められている。以上の観点から、強固な管理体制を確立できるかどうかは、受託者側の企業理念に基づいた教育訓練体制の整備が必要不可欠である。