熱源機械室のチューニング〔其の2〕
東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡
熱源機械室のチューニング(2)
チューニングフローチャートをポイント毎に説明する。該当するポイントがなければそのポイントをとばして行えばよいため、熱源廻り図のような設備があるビルならばチューニングが可能だ。
冷房用ではあるが、暖房の場合も温度が逆と考えれば、基本的なチューニング方法は同じである。
① 二次ポンプ吐出バルブ開度
1、チューニングの組立
このチューニングは①から順番に行うのではなく、①から⑨までのポイント全体を徐々に進めていくことが大切である。
二次ポンプの吐出バルブ全開が、最初のチューニングポイントではあるが、開けるだけでは増エネになってしまうこともあるので注意しなければならない。もし②以降を考えずに①の二次ポンプ吐出バルブを全開にしたらどうなるだろうか。ポンプが定流量の場合は流量が必要以上に増えると往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、冷水が二次ポンプと往還のヘッダ間を回るだけとなる。これではポンプの運動エネルギーがその都度冷水に熱を与えて冷水温度を上げることになってしまう。ポンプが変流量制御の場合も周波数の設定次第では同様である。冷房時期なのに電力を使って冷水温度を上げるほど無駄なことはない。吐出バルブを開けるだけではダメなことが分かるだろう。
冷房時のチューニングを考えれば、ポンプの運動エネルギーが冷水に対して、熱エネルギーとして伝わる量をできるだけ少なくしながら、冷水を効率よく循環させなければならない。
⑤の往還ヘッダ自動バイパス弁が極力開かないようにしながら二次ポンプの吐出バルブを開けるのだが、吐出バルブを開くとポンプから吐出された冷水流量が増えるので、その冷水流量全てが空調機やファンコイルに循環するようにチューニングすればよい。そのために写真―1のように空調機の二方弁が全開となるようにするのだ。
冷水流量全てを空調機やファンコイルに流すことができるようにできれば、往還ヘッダ自動バイパス弁を全閉にすることも可能となろう。ならば空調機の二方弁を全開にするにはどうすればよいのか。それには二次流量を減らすか冷水出口温度を上げればよい。このように順を追ってポイント全体を徐々に進めていくのである。
2、二次ポンプ吐出バルブ
ビルは違うが、写真―2と写真―3はどちらも二次ポンプの吐出バルブである。
このバルブは二次ポンプからの吐出量を調整するためにあるのだが、この開度に注目したい。どちらも現在のバルブ開度は全開になっているが、以前の開度位置にはシールが貼ってあるので、バルブ開度が30度程度になっていたことが分かる。
吐出バルブを全開にすると二次側流量が増える。増段の設定値が適切でない台数制御の場合は、流量が台数制御増段値に達すれば、二次ポンプの運転台数が増え流量がさらに増える。
ポンプの定格流量を基準に増段値を設定していればこのように搬送動力が増える可能性がある。
それを防止するために吐出バルブを閉めて吐出量を調整しているのだろう。しかし吐出量を抑えるために二次ポンプの吐出バルブを絞ると、バルブ開度が小さくなればなるほど、出口を失った冷水に対して圧損が生じる。このようにバルブを閉めるだけでは、出口を塞がれた冷水をポンプで圧縮しながら掻き回していることになり、ポンプが電力を使って冷水に与えている摩擦熱は大きなものとなる。また、冷房負荷が多い時に出口を塞いだ状態だと、二次側流量を増やすためにはポンプの運転周波数を上げるかポンプの運転台数を増やさなければならず、さらにポンプが電力を使って冷水に熱を与えることになる。
吐出バルブを閉めるということはポンプからみれば抵抗になるので、全開にすることが最も搬送動力を少なくしながら流量を増やせるのだということが理解できるだろう。
実流量は設計段階では分からないので、吐出バルブを開けた後の実際の流量を確認したうえで、ポンプ台数制御の増段値を決めるのが大切である。
3、シールを貼る
開度のチューニングをする前には写真―2・3のようにシールを貼ることを忘れてはならない。
元に戻せるようにしておけば、チューニングが途中から思うようにいかなくなっても、いつでも最初の状態に戻して、再度チューニングをやり直すことができる。以前はどのような位置に調整されていたのか分からなくなったということのないように気を付けなければならない。
シールを貼ったとしても、シールだけならば剥がれることもあるので、バルブ開度を調整する度に写真を撮っておくこともよいだろう。写真ならば撮影日時が分かるので便利である。
シールを貼る以外にも周波数の設定変更をするならば設定変更前の周波数を、台数制御ならば増段値を記録しておくことも必要だ。
4、吐出バルブ開度
写真―2はインバーター制御の二次ポンプで、定格吐出量60 Hz,132㎥/hの実例である。
吐出バルブが角度で僅か30度程度しか開いていなかったが、吐出バルブを全開にするとインバーター周波数が30.5Hz時で吐出量が132㎥/hであった。ポンプの周波数は約半分なのに定格流量になっているのだ。
この例のように循環ポンプの場合は吐出バルブを全開にして運転すると定格吐出量以上の流量になり、吐出バルブを全開にした結果、定格の3倍以上もの吐出量になった例や4台運転していた二次ポンプが1台運転でも十分だったというビルもある。吐出バルブを閉めるよりも、全開にできるのならば全開にした方が、搬送動力が大幅に少なくなるのが分かるだろう。
5、循環ポンプ
循環ポンプは揚水ポンプと違って揚程はゼロである。もし、ビルの高さを揚程として、ポンプ選定時にこの数値で計算すると、過大なポンプを導入することになり、流量を調整するためには吐出バルブを閉めなければならなくなる。
しかし、インバーターによる回転数制御であれば、ポンプが過大な分だけ周波数を下げて循環させれば適正流量のポンプと同じ流量を維持できるので、むしろ適正流量のポンプを導入するよりも節電効果が高くなるので好都合になる。
重要なのはインバーターの場合は増段値を何Hzに設定するかである。当然に増段値よりも低い周波数で運転できなければならないので、現在の最低周波数の設定値よりも低くする必要がある。
熱源機械室のチューニングは1台のポンプを最大限効率よく利用することが重要なのだ。