熱源機械室のチューニング〔其の7〕
東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡
熱源機械室のチューニング(7)
④ インバーター最低周波数
二次ポンプがインバーター制御でなければ、この項目は飛ばして次の項目へ進めばよい。
1、インバーターの活用
インバーター制御であれば、インバーターが有効な設定になっているかを確認することから始めよう。50Hzや60Hzのような商用周波数で動いているインバーターでは有効な設定とはいえない。
商用周波数で定格電流のまま運転しているポンプのインバーターは意外と故障が多いので、低回転で運転できるように最低周波数の設定を変えたい。
インバーター制御ポンプが1台にしろ、全台にしろ、インバーターの周波数が下がらないような設定で運転していたのでは、インバーターの省エネ性を生かすことはできない。
インバーターの周波数が下がらなければ、負荷が少ない時は空調機の二方弁が閉まるとヘッダの圧力が上がり、往還ヘッダ自動バイパス弁が開く。これでは定回転ポンプと同じである。インバーターを十分に活用できているとはいえない。
インバーター制御ならば、負荷が少ない時は周波数を下げることでヘッダの圧力を一定に保ち、往還ヘッダ自動バイパス弁は閉まったままになる。
このようにヘッダの圧力をインバーターで調整できるように最低周波数を調整しなければ、インバーターを活用することにはならない。
往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、圧力を逃がして調整するような設定では駄目なのだ。
2、インバーター最低周波数
複数台ポンプによる台数制御で1台だけがインバーター制御ならば定格周波数で運転することがあるかも知れないが、空調負荷が軽い時は周波数が低くなる設定になっているだろうか。
インバーター機器によっては最高周波数や最低周波数を設定できる範囲が違うが、できるだけ低い周波数で使う方が、ポンプの消費電力が周波数の3乗に比例するのだから、省エネ効率が良くなることは当然である。
最高周波数は台数制御により、運転台数が増えれば自動で周波数が下がるだろうが、最低周波数が高いままでは、空調負荷が少なくなっても二次ポンプの吐出量が減らず、往還ヘッダ自動バイパス弁が開いて、往ヘッダの圧力を下げることとなるので、最低周波数設定を見直す必要がある。
空調負荷が最も少ない時でも往還ヘッダ自動バイパス弁が開かないぐらいまで、周波数を下げることができればよいのだが、最低周波数設定下限値が30Hzのインバーターでは設定下限値まで下げても往還ヘッダ自動バイパス弁が開くことがあるだろう。その場合は冷水の出口温度を上げるか、温水ならば出口温度を下げて二次側流量を増やすようにすれば、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かない方向で、ある程度の調整はできるはずだ。
3、二次ポンプ吐出量
二次ポンプの吐出バルブが少しでも閉まっていた場合、吐出バルブを開くと吐出量が増えるので、吐出量を同量にするためにインバーターの周波数が自動で下がる。このように吐出バルブを開くだけでも吐出量を維持したまま、ポンプ搬送動力の省エネができるのだが、やはり最低周波数設定値までしか下がることはない。
インバーター最低周波数の設定値が高かければ、負荷が少ない時はヘッダ圧力を回転数制御だけでは調整できずに、往還ヘッダバイパス弁が開いて圧力を下げることになる。これでは冷水は二次ポンプ⇒往ヘッダ⇒往還ヘッダ自動バイパス弁⇒還ヘッダ⇒二次ポンプの順でポンプと往還ヘッダ間を廻るだけとなり、ポンプ動力を無駄な循環に使っているだけになる。この無駄を無くす調整だということを常に頭の中に置いておきたい。
このような循環は摩擦熱が増える要因となるので、省エネチューニングをすることで冷熱と搬送動力の省エネ効果は想像以上に大きなものとなる。
省エネチューニングの結果、冷熱損失が減少すれば冷水出口温度を高くすることができる。冷水出口温度を高くすることができれば冷凍機等が熱源の場合は冷凍機効率も良くなり、空調機での除湿量も減るので、冷熱使用量はさらに減るはずである。一つが良くなれば次々と良くなる。正に好循環である。この好循環に導くのが熱源機械室省エネチューニングの目的である。
同じ項目のチューニングを何度も繰り返して行い、満足のいく点を探し出していただきたい。
4、3台の二次ポンプとインバーター
この写真のポンプ設備があるビルは、冷房ピーク時の冷熱使用量が3,770MJであり、30㎾ポンプが3台運転していた。この程度の熱量ならばポンプ1台を定格周波数で運転すれば丁度よい流量であるが、冷熱負荷が少ない時は、最低周波数が45Hzと高いのでポンプ1台運転でも過大な流量になる。
省エネチューニングの結果、冷熱使用量が1,400MJまで下がったが、当然に二次側流量は減少する。
これ以上は運転台数を減らすことができないので、18Hzまで最低周波数の設定を下げて、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かないようにしたが、これだけ低い周波数でも冷水の循環に問題はなかった。
5、台数制御と回転数制御
二次ポンプの台数が多ければ、予算的に1台だけがインバーター制御ということがあるが、3台程度であれば全てがインバーター制御になっていることが多いだろう。3台のポンプがインバーター制御であれば運転周波数を下げて調整することが出来るが、冷熱負荷の減少量に見合っただけ周波数が下がらなければ、結局は往還ヘッダ自動バイパス弁が開いて調整することになる。
このインバーター周波数をどこまで下げることが出来るのか。どこまで下げて使っているのか。どこまで下げれば往還ヘッダ自動バイパス弁が開かなくなるのかがチューニングのポイントだ。台数制御と回転数制御をスムーズに連携させて、最も搬送動力が少なくなる流量制御を目指してほしい。
空調負荷の少ない時期の、少ない時間帯に合わせて、インバーターの最低周波数を、往還ヘッダ自動バイパス弁開度を見ながら、数年かけるつもりで下げていけばよい。急いで下げる必要はない。
インバーターの取り扱い説明書をみれば、周波数の許容設定範囲が書かれているはずだ。例えば30Hzが最低であれば30Hzにするしかないが、30Hz以下に設定できるインバーターであれば、30Hz以下は、1Hzずつ様子を見ながら下げていきたい。モーターが共振する可能性もあるので、安全を確かめながら下げていくのだ。
このように空調負荷が最も少ない時でも、往還ヘッダ自動バイパス弁が開かなくなるように、インバーター最低周波数を少しでも低くできれば、それだけ搬送動力の省エネになり、電力と冷熱の省エネだけではなく、電力デマンド低減効果も大きなものとなるだろう。
6、モーターの冷却
モーターには冷却ファンがあり、周波数が下がれば冷却ファンの回転も下がるので、モーターの冷却に支障があると思うかもしれないが、モーターの消費電力が周波数の3乗に比例して下がるのだから、冷却効果が下がる以上に発熱が減ることになる。モーターの表面を手で触ってみればよく分かるだろう。商用周波数で運転しているポンプのモーターは熱くてとても触れたものではないが、30Hz以下になるとずっと手を置いておける温かさだ。この温度差を実感できれば、できるだけ低い周波数でポンプを運転したほうが、インバーターとモーター本体にも良いことが分かるはずだ。
モーターの冷却を心配する必要はないのだ。