ビルの省エネ指南書(45)

熱源機械室のチューニング〔其の9〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

⑥   往還ヘッダ差圧
 1、差圧による流量調整

この図の搬送設備は往還ヘッダ差圧によって二次側への冷温水流量を調整している。
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インバーターによる回転数制御と台数制御を併用して、設定したヘッダ差圧にするのだ。

負荷が減少して差圧が上がれば、往還ヘッダ自動バイパス弁が開き、往ヘッダの圧力を還ヘッダへ逃がして差圧を調整することもある。

往還自動ヘッダバイパス弁が全閉時に差圧が不足していれば、インバーターの周波数が上がり、周波数が設定上限に達した時点で差圧が不足していれば、台数制御によりポンプの運転台数が増える。

差圧設定を下げれば流量が減るので、冷温水の往還温度差が大きくなり、搬送動力が少なくて済むのだが、往還ヘッダ自動バイパス弁が開きやすくなるということでもあるので注意したい。

台数制御と回転数制御と往還ヘッダ自動バイパスの連携が上手くできていないビルも見受けられるが、冷暖房負荷のピーク時には何台のポンプが何Hzで運転して、負荷が少なくなればポンプ1台が何Hzで運転すれば、往還ヘッダ自動バイパス弁が開くことがないという調整が必要だ。

2、循環方式

差圧を下げて流量を少なくすれば、搬送動力の省エネになるのだが、循環方式によっては流量が不足することがあるので、循環方式も考えて差圧を設定しなければならない。

ファンコイルは系統毎でのリバースリターンが一般的だが、空調機の場合はダイレクトリターンになっていることも多く、管理するビルがどちらの循環方式なのかを調べて欲しい。竣工図を見ても分かるが、空調機械室でも分かる。
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写真は空調機械室の冷温水配管である。一番右が上方向への往配管、右から二番目が上方向への還配管、三番目が下方向への還配管。還配管が上下方向へ2本あるのが分かる。これがリバースリターンだ。還配管が下方向へ1本しかなければダイレクトリターンとなる。

このビルの場合は熱源機械室が地階にあるので、往還配管がこのような上下方向になるが、熱源が屋上にあれば循環方向が上下逆になることは説明するまでもないだろう。

ビルによっては両方の循環方式を併用している場合もあるので気を付けたい。途中までがダイレクトリターンで、そこから先がリバースリターンという場合やその逆もあるのだ。

3、ダイレクトリターン

空調機毎に往還配管の長さが違っている。

下の図では熱源に最も近い一番下の空調機が最も短く、一番上の空調機が最も長い配管長となる。

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配管長が短ければ短いほど管路抵抗が減るので、その空調機への冷温水は流れやすくなる。

差圧が高くて流量が充分に多ければ管路抵抗はそれほど問題にならないが、搬送動力を減らすために差圧を低くすると、管路抵抗の多い空調機への冷温水流量が不足して、抵抗の少ない空調機の二方弁が閉まって、二次側流量に余裕が出るまでは冷暖房の効きが悪くなることがある。

このような場合は最も管路抵抗の多い空調機を基準として運転開始時間と差圧を考えていけばよい。

遠くにある空調機から運転を始めて、時間差をとって順番に運転するような工夫が必要となる。

または冷暖房負荷に応じて差圧を変えていくという方法もある。空調機運転開始時は高めの差圧にして、室温が設定値に近くなれば差圧設定を下げていくのだ。冷暖房負荷に応じて流量を変えるのは少々手間がかかるかもしれないが、熱源機械室は設備管理員が頻繁に足を運ぶ場所でもあるので、できないことはないだろう。

冷暖房負荷が少なくなっているのに、高い差圧のまま運転する無駄を無くすことが大切である。

手動のバルブを絞って流量差を調整することもできるが、バルブを絞れば抵抗を増やすことにもなるので、基本的には手動のバルブは全開にしたい。

4、リバースリターン

空調機毎の往還配管の長さが等しくなっている。

4台の空調機への管路抵抗が等しくなっているので、冷暖房負荷の多い空調機を基準として差圧を決めればよい。
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差圧は低いほうが配管抵抗と搬送動力が減少するが、低過ぎると冷暖房ピーク時には空調負荷の多い空調機への冷温水流量が不足するため、空調負荷に応じた最適な差圧に調整するのだ。

リバースリターンであっても、負荷に応じて差圧を変更して流量を調整することがベストではあるが、それだけ設備管理員の仕事量が増えることにもなる。冷暖房ピーク時も含めて、年間を通して運用ができる、出来るだけ低い差圧設定に固定できればベストではある。

5、系統毎のダイレクトリターン

下図ではリバースリターンが2系統描かれている。

しかしリバースリターンだからと云って安心はできない。各系統内の4台の空調機はリバースリターンではあるが、右側系統と左側系統の系統別で見れば、ダイレクトリターンとなっていることが分かるだろうか。明らかに右側系統の方が、往還配管が長くなっているので配管抵抗が違ってくる。
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このような場合は、右側系統の冷暖房負荷が多い空調機を基準として差圧を決めなければならない。

リバースリターンだからと云って、8台全ての流量が均等になる訳ではないのだ。

ビルは縦方向の配管長よりも、横方向の配管長の方が圧倒的に長い。特に建築面積の広いビルの場合は高さよりも幅と奥行はそれ以上なので、系統別の配管長はかなり違ってくる。

10階建のビルを例とすると縦方向の配管は30mそこそこであるが、横方向はもっと長いはずだ。

各系統の中央にヘッダを置いているビルもあるが、よく考えられたレイアウトと云える。

空調機とは逆にファンコイルはフロア毎の横方向のリバースリターンで、フロア別の縦方向はダイレクトリターンが多い。この方が空調機よりも系統別の配管抵抗の差は少ないと云える。

循環方式を考え、管路抵抗を考え、空調負荷を考え、搬送動力節減を考えながら、最も無駄のないヘッダ差圧に調整してほしい。