熱源機械室のチューニング(13)
東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡
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空調機二方弁開度(2/3)
3、PID制御
空調機二方弁がどのような制御になっているのか、PID設定値を調べたことがあるだろうか。空調機毎に写真のようなデジタル指示調節計があるはずだ。この機種は比較的新しい型であるが、基本的には旧型も同じような外見をしている。
写真のデジタル指示調節計は暖房中の温度を表しており、設定値が23.5℃で、現在の指示値が24.6℃となっている。還気温度で制御しているのだが、設定温度よりも1.1℃も高い還気温度になっていることに留意したい。
PID、意識的も。
設定温度表示の下にLEDが横に10から3灯目までが点灯している。このLEDが二方弁の開度を表している。
設定温度よりも指示温度が1.1℃高いので、二方弁が約3/10開いている状態を表すためにLEDが3灯点灯している。1/10単位毎の開度表示ではあるが、これだけでも大体の開度が分かるので空調状態の把握はできる。
二方弁の種類や設置位置によっては、直接開度を確認することが難しい場合もあるが、二方弁を見なくてもこのLEDが二方弁の開度を表しているので、現在の開度が一目で分かって便利である。
ボタン操作でディスプレイに開度が表示される機種もあるので確認してほしい。
4、比例(P)値
写真はディスプレイを比例値に切り替えた時の表示である。比例値が4.0となっており、温度に直すと±2℃を表している。1.1/4は2.75/10なのでLEDが3個点灯しているのだ。
このデジタル指示調節計は4.0の表示がそのまま温度となるので分かりやすいが、機種によっては12.0が4℃を表す場合等もあるので注意したい。
積分値と微分値を「0」にして、設定温度と指示温度の差に対する二方弁の開度を見れば、比例値に対する開度が分かるが、設定温度と指示温度が一致している状態では、比例値に関係なく開度が50%となり比例値の見当が付かない。設定温度と指示温度に1℃程度の温度差がある時に調べたら開度との比較で比例値が逆算できるだろう。
冷房時の二方弁開度と設定温度28℃の関係を比例値±1℃でグラフ化すると次のようになる。
縦軸が二方弁開度で横軸が温度である。
冷房温度を28℃設定時に指示値が29℃以上になれば空調機の二方弁が全開、27℃以下になれば全閉となる。27℃~29℃の間は温度と二方弁開度が比例する冷房時の比例制御のグラフである。
5、設定温度と指示温度
前述のデジタル指示調節計は暖房時の23.5℃設定で比例値±2℃なので次のグラフとなる。 温度表示写真の設定温度、指示温度、二方弁開度を表すLED点灯個数をこのグラフと比較してみれば比例動作であることが分かる。
一見何の問題もないように思えるグラフだが、よく見れば疑問が生じるだろう。指示値が設定温度と一致するのは、二方弁が50%開の時だけなのだ。
これでは設定値を維持できる訳がない。
負荷が常に変動している実際の空調において、指示値と開度50%が一致することは極まれであり、指示値と設定温度に差があって当然だ。
1.1℃もの温度差が出るのはこのためである。
このデジタル指示調節計の比例値では、指示値が±2℃違ってくることもあるので、比例制御だけでは設定温度を維持できないことが分かる。
冬季はこれを利用して比例値を大きく設定するという手もある。例えば設定温度を現在よりも1℃低めに設定して、比例値を±2℃から±3℃にすれば、同じ指示温度であっても二方弁開度が小さくなるため、指示値が設定温度を3℃も超えることはなくなり、二方弁が若干は開いた状態になる。
冬季に二方弁が全閉している空調機の給気温度は室温以下の冷たい空気になるが、若干でも開いていれば給気温度が上がるため、給気口の真下に居る人が寒く感じることもなくなるだろう。
6、積分(I)値
写真のデジタル指示調節計は「0」であった。
取扱い説明書では、積分動作はオフセットをなくすように働く動作だと説明が成されているが、これでは積分動作の意味が理解し難いだろう。
空調機二方弁の動作だけを考えると、次のグラフのようになると考えたほうが、ビルの設備管理員としては分かりやすいはずだ。
比例値の折れ線がそのまま左側に移動したグラフである。28℃の時は開度が90%となっている。
開度を90%にして設定温度を維持しているのだ
次のグラフはそのまま右側に移動したグラフである。28℃の時は開度が10%となっている。開度を10%にして設定温度を維持しているのだ。
これらのグラフのように折れ線を左右に移動させて、温度に対する二方弁開度が変化できるならば、設定温度と指示値を一致させることができる。
これを行うのが積分動作と思えば分かりやすい。