ビルの省エネ指南書(56)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

恒温恒湿(2

6、蒸気加湿による無駄の連続

 冬季は外気湿度が低くなるので、恒湿が必要ならばコンピューター室も加湿が必要だ。室内湿度を上げるために電気ヒーターで水を蒸発させても、外気温度が低いために冷房負荷も少なくなっており、僅かな冷房で恒温は維持できるだろう。外気導入量を増やせば外気だけでも冷房できるかもしれないが、乾燥した空気を導入すれば、それだけ加湿量も増やさなければならない。外気は必要以上の導入を避けたほうがよいのだが、雨天時などの湿度が高い外気を積極的に導入すれば、コンピューター室の冷房も加湿も最小限で済むはずだ。冬季の外気導入は温度的にはメリットがあるのだが、湿度的なデメリットも考慮するならば、外気湿度を優先して導入量を調整するほうが良いだろう。
 
外気を導入すれば同量の排気をすることにもなるが、屋外ではなくビル内に排気して、ビル内の加湿と暖房に利用するという方法もある。
 
中間期も乾燥しているが、外気温度が低くはないので、外気冷房の効果はあまり期待できない。外気導入はデメリットの方が大きいだろう。
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 蒸気加湿で恒湿になった時にはヒーターの熱で室温が上がり、室温を下げるためにまた冷房をしなければ恒温は維持できなくなる。しかし冷房は除湿にもなり、外気が侵入すれば室内がさらに乾燥するので、また加湿する。その結果、室温が上がる。エネルギーを次々と使う、無駄の連続になっているのが分かるだろう。

7、市販の加湿器

蒸気で加湿を行うからこのような無駄の連続になるならば、蒸気での加湿を止めれば、このような無駄は無くなる。代わりに市販されている加湿器が利用できないかを考えてみよう。加湿器はスチーム式、超音波式、気化式がある。スチーム式はコンピューター室では最も用いられている方式なので、同じ方式の加湿器を利用する意味はない。発熱機器の少ない室内ならば電気ヒーターの発熱が暖房を兼ねることもできるが、コンピューター室では発熱が冷房負荷になるだけだ。
 
超音波式は水の細かい粒子を室内に噴霧して蒸発させる方式で、電気ヒーターで加熱する訳ではないので温度的なデメリットはないが、水に含まれているミネラル分も噴霧されるため、静電気を帯びているものに吸着して、電気機器等が真っ白になってしまう。これではコンピューター室の加湿に使うことはできない。
 
気化式は水を加湿器内で蒸発させる方式で、電気機器等が真っ白になる心配はない。ビルの空調で云えば浸透膜式の加湿になる。電気ヒーターを使わないので消費電力も少なく、水の気化熱で室温が下がるという冷房上のメリットもある。水のミネラル分は加湿器内の浸透膜に付着するので定期的な清掃や交換が必要になる。
 
コンピューター室の加湿に最適な要素が揃っているのだが、気化式の加湿器は加湿能力が低いのか、あまり利用されていないようだ。

8、冷風扇

 加湿能力の高い気化式であれば加湿器に限る必要はない。同じ効果があるものに冷風扇がある。最近は色々な能力の機種や、デザイン的に室内で使用しても違和感のない機種が販売されている。家庭用の加湿器と比べてかなり大型なので、加湿器よりも10倍の蒸発能力のある冷風扇ならば、コンピューター室の加湿でも能力が不足することもなく、水が蒸発する気化熱での冷房効果も期待できる。湿度設定のある機種ならば恒湿も可能だ。水は浸透膜や水冷式冷却塔のように充填材に滴下しながら蒸発するので、付着したミネラル分の除去が必要になる点は加湿器と同様だ。問題は水である。蒸発量が多過ぎて水の補給が大変なのだ。室内水栓の有無次第だが、自動で給水できる機種もあるので、コンピューター室の広さなどを考慮して、恒湿維持に最適な機種を選ぶとよい。

 

9、無駄な冷房が無くなる

 

 冷風扇で気化加湿を行い恒湿にする。加湿と同時に、気化熱により温度も下がるため、僅かな冷房で恒温となる。外気侵入と気化加湿により温度が下がっても、コンピューター室内の発熱と相殺できるはずだ。
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 加湿のために室内温度を上げる要素がなく、冷房も少なくて済む。冬季に効率的な恒温恒湿を行うならばこのようになるが、恒湿にこだわる必要がないのならば、70%以上で除湿、40%以下で加湿というように湿度幅を持たせて、できるだけ冬季の加湿と夏季の除湿をしなくて済む設定にできないかを検討してみたい。

10、保存室

 特殊な用途ではあるが、美術館、博物館、図書館等には美術品や古文書、フィルム等を保管するための恒温恒湿の保存室があるだろう。このような保管を目的とした部屋は発熱機器がないため、コンピューター室とは違い、冬季は室温が下がり過ぎるので、恒温のためには冷房ではなく暖房が必要となる。1850%で保存しているとすれば、コンピューター室と同じ湿度50%であっても、絶対湿度はさらに乾燥状態になっている。夏季の外気温湿度を3375%、冬季の外気温湿度を540%と仮定して、コンピューター室、保存室の温度・相対湿度・絶対湿度・エンタルピを比較してみると、夏季は外気よりも温度で15℃、絶対湿度で0.0177(g/g D.A.)下げなければならず、冬季は温度で13℃、絶対湿度で0.0043(g/g D.A.)上げなければならない。
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 エンタルピ的にはコンピューター室よりもかなり下げなければならないが、コンピューター室には発熱機器があるので、夏季の冷房負荷としては同等と考えてもよいだろう。
 
除湿はコンピューター室と同様に家庭用の除湿機で行えばよい。保存室の温度と湿度は低いが、この程度ならばコンプレッサー方式の除湿機でも充分に除湿はできる。デシカント方式の除湿機は除湿能力の低いものが多いので、広い面積の除湿には不向きかもしれない。
 
冬季の加湿量が僅かであっても、冷風扇での加湿では室温が下がってしまう。外気温度が恒温温度以上ならば冷風扇による加湿でも良いのだが、外気温度がさらに低くなると、再熱が必要となる。どうせ再熱するのならば電気ヒーターで水を蒸発させて加湿すれば再熱にもなるので、これで恒温恒湿が維持できるのならば、外気温度が低い時期はこのほうがよいかもしれない。
 
恒温恒湿は全てを自動制御任せにするのではなく、90%以上を手動で調整を行った後の、残り10%以下を自動制御で行うような感じで調整を行うことが、省エネに繋がるだろう。