空調のチューニングポイント
東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡
温度・湿度・日射・風(1)
冷房ではこの4項目の影響を考えながら、省エネチューニングをおこなえばよい。
1、温度・湿度
外気の温度や湿度が高ければ高いほど、ビルの冷房負荷は高くなる。
窓ガラスは熱を伝えやすいので、「ブラインドとカーテン」の項目で説明したように、ブラインドとカーテンを二重で使用できれば遮光・遮熱・保温に効果があるだろう。室内が暗くなるが照明が点灯しているのならば問題は無いはずだ。冷房がピークとなる日のピーク時間帯だけでもよいので、ビル内の全員が節電に協力できる体制を構築しておきたい。
屋上の熱が下に伝わり、最上階の冷房負荷となるビルでは、天井裏の保温をおこなうことが可能なのかを検討したい。
換気量もできるだけ少なくするのが良いが、調整ができないのであれば、換気扇を間欠運転するのもよいだろう。
外気の湿度も温度と同様だが、湿度の場合は侵入防止を考えるのではなく、不快指数冷房で除湿を少なくするだけでも、冷房負荷を減らすことができる。
エアコンの室外機周囲の温度も低いほうがよい。ショートサーキット状態になっていれば温度が高くなるので、室外機吸い込み側空気温度が外気温度よりも高いようであれば、外気温度に近くなるように工夫をしたい。
2、日射
日射のある13:00~16:00が冷房ピークの時間帯になるだろう。温度と同様に窓ガラスがポイントだが、できれば窓ガラス自体に日射が当たらないように工夫したい。窓ガラスの外側に葦簀などを立てて日射が当たらないようにできれば非常に効果があるが、1階の窓以外は難しいかもしれない。日射は屋上や壁の温度を上げるので、対策が必要だ。高価な遮熱塗料でなく、白色の塗料を塗るだけでも反射効果はある。壁も白色が良いので、大規模改修時に検討してはどうだろうか。
日射が当たっている白色の壁と白以外の壁を手で触ってみるだけでも、色の違いによる日射効果が分かるはずだ。この熱がビルの中へと伝わっていき、冷房負荷となるのだ。
日射を体感するには自動車が最適だ。真夏のできるだけ風のない時に炎天下の駐車場に停まっている白色の車と濃い色の車の間に立ってルーフを左右の手で同時に触ってみるのだ。
濃い色の車は手を置いておられないほど熱いが、白色の車は暑いとは感じないだろう。この違いを体感できれば、日射が冷房にとっていかに大敵なのかが実感できるはずだ。
エアコン室外機の放熱フィンに日射が当たっている状態を考えたら、効率的な放熱ができるはずがないことが分かるだろう。
日射は間接的にも室外機に影響がある。壁を背にして設置している室外機は、日射により壁の温度が上がれば、壁の温度により室外機周囲の空気も影響を受けて温度が上がる。
壁の色が濃い色ならば、壁の熱を室外機が吸い込んで放熱効果が悪くなってしまうだろう。壁や床への日射の影響により室外機周囲の温度が外気温度以上に上がるのならば、温度と日射の影響を最小限にする設置方法を考える必要があるだろう。
3、風
風は建物の表面から熱を奪ってくれる。人間と同じように風があればビルも涼しいので、風が強いほど冷房負荷は少なくなるはずだ。
ビルの場合も車と同様に、白色が最も日射を防ぐ色と云えるのだが、車の場合は走行するという点が大きな違いである。
駐車している車は濃い色の車の車体が熱くても、走行中の車は濃い色の車も白色の車もそれ程表面温度に違いは無いのだ。これも風と同じように空気が温度を奪ってくれる効果なのだ。
ビルの場合は車のように動くことが出来ないので、風は自然任せとなるが、エアコンの室外機はどうだろうか。エアコンはファンで強制的に風を起こし放熱することが出来る。
しかし、同じファンであっても、風通しの悪い置き方をしていれば放熱効果も違って来る。風量は充分にあっても、放熱器全体に風が流れていなければ、放熱器が小さくなったことと同じで、放熱効果が悪くなる。
室外機の設置は、できるだけ建物温度の影響を受けず、ショートサーキットを起こさず、日射が当たらず、風通しの良い場所で風通しが良くなる置き方になるようにしたい。
4、ベランダの室外機
エアコン室内機で行う不快指数冷房もそうだが、省エネは費用をかけず、手間をかけず、簡単であるのが一番である。これならば誰でもが、今直ぐにでも行うことができるからだ。
これはベランダに設置している室外機である。このような設置方法はよく目にするはずだ。この室外機の省エネは「温度・湿度・日射・風」の影響を考えておこなえばよい。
エアコンは、室外機の風通しが良くなるように設置すれば、効率的な放熱ができるのだが、この室外機の設置方法は非常に風通しが悪いことが分かる。室外機ファンから出た熱気が前方の壁に当たって跳ね返って来れば、室外機周囲の温度も上がるだろう。手摺りが格子状であればファンからの吹き出し空気が外に抜けるのだが、このような空気を通さない手摺りでは風通しが悪くなってしまうので熱気がこもってしまう。
壁面との距離ももう少し離したほうが良いのだが、それでは益々手摺りとの距離が近くなり、ショートサーキットを起こしやすくなる。
手摺りよりも高い架台に載せて、壁側ではなく手摺り側に設置できれば温風が外に抜けやすくてよいのだが、それでは冷媒配管の固定が問題であり、手間も費用もかかってしまう。
大きな架台では邪魔になるし、小さな架台では転倒防止のために固定しなければ危険だろう。費用をかけてまですることではない。
壁は白色なので日射の影響は最小限で済むが、もし濃い色の壁ならば、日射で壁の温度が上がり、壁の熱が室外機裏側の温度を上げ、その熱が放熱器に流れれば、室外機周囲の温度が上がるのと同じことになってしまう。
しかし白色の壁に日射が当たれば光が反射して、放熱フィンに当たる可能性もある。壁の色は建物だけではなく、エアコン室外機の放熱効果にも影響するのだ。
この写真の室外機の設置方法は簡単であり、転倒等の危険もないが、温度と日射と風の三つの項目においては効率の悪い設置方法である。
省エネのためには室外機の放熱効果が良くなる設置方法を考えなければならない。
お金を使わず、簡単に、室外機に対する温度と日射と風の三つの悪影響を無くすには、どのような設置方法がよいのだろうか。