ビルの省エネ指南書(74)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

電力のチューニングポイント

稼働電力と待機電力(2

4、トランス
変圧器の二次側電力が〔0VA〕であれば、無負荷損は待機電力と考えることもできるが、僅かでも二次側に電力があれば待機電力ではないことになる。変圧器は各自が簡単に電源を切ることができないので、夜間に全く電力を使用していない変圧器の無負荷損を待機電力とはいえないかもしれないが、負荷が無くても電力を消費しているのならば、変圧器の無負荷損も待機電力として対策を考えたほうがよいだろう。
変圧器の容量適正化や統合で無負荷損を減らすことができるので、ビルを管理する者としては、少しでも無負荷損を減らせるようにしたい。
ビルは将来の電気設備増設に備えて容量の大きな変圧器を入れていることが多いが、最近では照明のLED化やポンプやファンへのインバーター導入等により機器の省エネ化が進み、逆に変圧器容量に余裕ができてしまっている。
2台の変圧器を統合して1台にできれば、1台分の無負荷損が無くなるのだが、50%以下の負荷しかない変圧器が2台並んでいるとも思えないので、1台に統合するのは難しいだろう。それならば統合容量に合わせて変圧器を大きなものに換えるか、統合はせずに1台毎の変圧器容量を小さなものに換えるしかない。
変圧器容量の2%の無負荷損があると仮定して、変圧器容量合計で500KVAの容量があるビルが400KVAにできれば、100KVAの2%、約2kWの節電になり、電力単価が20円/kWhだとすれば、年間の節約金額は2kW×20円/kWh×24h×365=350千円
変圧器台数によっても交換費用は変わって来るが、この節約金額では投資を回収するのに、数10年の年数が必要となってしまう。
これでは直ぐに取り換えるのは無理だが、リニューアルの時期であればアモルファス等の高効率な変圧器に交換して、負荷損も同時に減らすことができるだろう。

5、ゲーム機用ACアダプター
 小さなACアダプターも変圧器である。パソコン周辺機器に用いられており、家庭ではゲーム機等でよく使われている。
通電されているコンセントに差し込んでいれば電力を消費するので、これも待機電力である。
写真はゲーム機で使われている定格容量18VAのACアダプターである。内部は変圧器と平滑回路で構成されている簡単な回路である。平滑回路には整流器と電解コンデンサが3個使用されている。このコンデンサは充電・放電を繰り返すものだが、ゲーム機が接続されていなければ、微量の自然放電だけである。これが待機電力となる。
image001
ACアダプター単体の待機電力を、ワットチェッカーで測定してみた。ワットチェッカーの最低測定単位が0.01kWhのため、ACアダプターを長時間、コンセントに差したままにして測定した結果、32時間後に0.01kWhとなった。
0.01kWh÷32h=0.0003125kW=0.3125W
1年中コンセントに差したままでは
0.3125W×24h×365=2,737.5Wh
3kWh/年の損失にもならない。
家庭の電気料金でも100円/年以下だ。変圧器の容量が18VAなので
0.3125÷18=0.01736
1.7%程度の損失になる。ビルの変圧器と殆ど同率の損失である。気にしなければならないような待機電力ではないが、ACアダプターをコンセントに差したままでは、電解コンデンサを常時充電状態にしておくことになる。電解コンデンサは故障することが多く、発熱の原因にもなるので、待機電力よりもそちらのほうが心配になる。
故障して買い替えることにでもなれば、10年間分の待機電力料金よりも高くつくので、待機電力節約とは関係なく、不必要なACアダプターは抜いておくほうがよいだろう。

6、ノートパソコン用ACアダプター
 ノートパソコン用のACアダプターはゲーム機用よりも容量が大きく、構造も違う。
65WのACアダプターをワットチェッカーで測定すると82時間後に0.02kWhとなった。
20Wh÷82h=0.2439W
1年中コンセントに差したままでも、
0.2439W×24h×365=2,136.6Wh
2kWh/年強の待機電力量にしかならない。ゲーム用のACアダプター以下である。ノートパソコンのACアダプターも待機電力を気にする必要はないことになるが、発熱が原因によるリコールもあるので、万が一を考えて、長時間ノートパソコンを使用しないのならば、コードを抜いておいた方が賢明だろう。

7、デスクトップパソコン
 OA機器の代表はパソコンである。
待機電力が多いと思われるが、各自専用のデスクトップパソコンならば、一人ひとりの意思で本体とディスプレイの待機電力を、プリンターのような外付け機器も含めて、節電タップを使用すれば簡単に無くすことができる。
パソコン本体の待機電力量を測定すると20時間で30Whであった。待機電力1.5Wである。
19型ディスプレイの待機電力量は26時間30分で20Whであった。待機電力0.75Wである。両方の待機電力を合計すると2.25Wになる。
パソコンを使っていない時間が年間7,000時間とすると、節電タップを使って切ることで
2.25W×7,000h=15.75kWhの節電となる。1台当たり約300円/年の節約である。節電するべきなのか悩ましい金額ではある。
image002
このようなパソコンが1,000台あるならば、年間に30万円ほどの節約となる。

8、ノートパソコン
 ノートパソコンはバッテリーがあるため節電タップは意味がない。
完全に放電した状態のノートパソコンをACアダプターに接続して、4時間30分後のフル充電になるまでの消費電力を測定するとACアダプターの電力も含めて70Wh であった。
このフル充電状態からが待機電力になる。3回測定した待機電力は、①27時間測定の平均電力2.2W、②63時間測定の平均電力1.57 W、③33時間測定の平均電力1.5 Wになった。
完全に充電されているはずなのだが、計測値が回を追って少なくなっている原因は分からない。3回目に計測した1.5Wを待機電力とするが、パソコンの機種によっては違ってくるだろう。
待機電力が1.5Wということは。
1.5W×24h×365=13,140Wh=13.14kWh
ACアダプターの電力を差し引けば、ノートパソコン本体は11kWh/年の待機電力量である。
消費電力量13.14kWh/年は、待機電力にはならないパソコン使用中の稼働電力も含むが、それでも1日1円にもならない電気料金である。
ノートパソコンは、節電よりも安全のために節電タップを使うと考えたほうがよいだろう。