投稿者「福岡ビルメンテナンス協会」のアーカイブ

無期転換ルール導入に係る促進キャンペーン周知協力依頼について

「無期転換ルール」は、平成25年4月施行の改正労働契約法第18条で規定され、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込により、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる、というものです。
平成30年4月から始まり、契約社員やパートタイマー、アルバイト、派遣社員などの名称は問わず、契約期間に定めがある「有期労働契約」が同一の会社で通算5年を超えるすべての方が対象です。
無期転換ルールへの対応は、中長期的な人事管理もふまえ、無期転換の役割や労働条件などを検討し、社内規定を整備するなど、一定の時間を要します。円滑な導入を目指して、平成29年9月、10月は「無期転換ルール取組促進キャンペーン」期間となっています。
つきましては、各社においての導入整備および労働者への周知方よろしくお願いいたします。

詳細は無期転換ルールポータルサイト(http://muki.mhlw.go.jp/)を参照下さい。

 

ビルの省エネ指南書(64)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

温度・湿度・日射・風(1
 冷房ではこの4項目の影響を考えながら、省エネチューニングをおこなえばよい。

1、温度・湿度
 外気の温度や湿度が高ければ高いほど、ビルの冷房負荷は高くなる。
窓ガラスは熱を伝えやすいので、「ブラインドとカーテン」の項目で説明したように、ブラインドとカーテンを二重で使用できれば遮光・遮熱・保温に効果があるだろう。室内が暗くなるが照明が点灯しているのならば問題は無いはずだ。冷房がピークとなる日のピーク時間帯だけでもよいので、ビル内の全員が節電に協力できる体制を構築しておきたい。
屋上の熱が下に伝わり、最上階の冷房負荷となるビルでは、天井裏の保温をおこなうことが可能なのかを検討したい。
換気量もできるだけ少なくするのが良いが、調整ができないのであれば、換気扇を間欠運転するのもよいだろう。
外気の湿度も温度と同様だが、湿度の場合は侵入防止を考えるのではなく、不快指数冷房で除湿を少なくするだけでも、冷房負荷を減らすことができる。
エアコンの室外機周囲の温度も低いほうがよい。ショートサーキット状態になっていれば温度が高くなるので、室外機吸い込み側空気温度が外気温度よりも高いようであれば、外気温度に近くなるように工夫をしたい。

2、日射
 日射のある13:00~16:00が冷房ピークの時間帯になるだろう。温度と同様に窓ガラスがポイントだが、できれば窓ガラス自体に日射が当たらないように工夫したい。窓ガラスの外側に葦簀などを立てて日射が当たらないようにできれば非常に効果があるが、1階の窓以外は難しいかもしれない。日射は屋上や壁の温度を上げるので、対策が必要だ。高価な遮熱塗料でなく、白色の塗料を塗るだけでも反射効果はある。壁も白色が良いので、大規模改修時に検討してはどうだろうか。
日射が当たっている白色の壁と白以外の壁を手で触ってみるだけでも、色の違いによる日射効果が分かるはずだ。この熱がビルの中へと伝わっていき、冷房負荷となるのだ。
日射を体感するには自動車が最適だ。真夏のできるだけ風のない時に炎天下の駐車場に停まっている白色の車と濃い色の車の間に立ってルーフを左右の手で同時に触ってみるのだ。
濃い色の車は手を置いておられないほど熱いが、白色の車は暑いとは感じないだろう。この違いを体感できれば、日射が冷房にとっていかに大敵なのかが実感できるはずだ。

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エアコン室外機の放熱フィンに日射が当たっている状態を考えたら、効率的な放熱ができるはずがないことが分かるだろう。
日射は間接的にも室外機に影響がある。壁を背にして設置している室外機は、日射により壁の温度が上がれば、壁の温度により室外機周囲の空気も影響を受けて温度が上がる。
壁の色が濃い色ならば、壁の熱を室外機が吸い込んで放熱効果が悪くなってしまうだろう。壁や床への日射の影響により室外機周囲の温度が外気温度以上に上がるのならば、温度と日射の影響を最小限にする設置方法を考える必要があるだろう。

3、風
 風は建物の表面から熱を奪ってくれる。人間と同じように風があればビルも涼しいので、風が強いほど冷房負荷は少なくなるはずだ。
ビルの場合も車と同様に、白色が最も日射を防ぐ色と云えるのだが、車の場合は走行するという点が大きな違いである。
駐車している車は濃い色の車の車体が熱くても、走行中の車は濃い色の車も白色の車もそれ程表面温度に違いは無いのだ。これも風と同じように空気が温度を奪ってくれる効果なのだ。
ビルの場合は車のように動くことが出来ないので、風は自然任せとなるが、エアコンの室外機はどうだろうか。エアコンはファンで強制的に風を起こし放熱することが出来る。
しかし、同じファンであっても、風通しの悪い置き方をしていれば放熱効果も違って来る。風量は充分にあっても、放熱器全体に風が流れていなければ、放熱器が小さくなったことと同じで、放熱効果が悪くなる。
室外機の設置は、できるだけ建物温度の影響を受けず、ショートサーキットを起こさず、日射が当たらず、風通しの良い場所で風通しが良くなる置き方になるようにしたい。

4、ベランダの室外機
 エアコン室内機で行う不快指数冷房もそうだが、省エネは費用をかけず、手間をかけず、簡単であるのが一番である。これならば誰でもが、今直ぐにでも行うことができるからだ。

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 これはベランダに設置している室外機である。このような設置方法はよく目にするはずだ。この室外機の省エネは「温度・湿度・日射・風」の影響を考えておこなえばよい。
エアコンは、室外機の風通しが良くなるように設置すれば、効率的な放熱ができるのだが、この室外機の設置方法は非常に風通しが悪いことが分かる。室外機ファンから出た熱気が前方の壁に当たって跳ね返って来れば、室外機周囲の温度も上がるだろう。手摺りが格子状であればファンからの吹き出し空気が外に抜けるのだが、このような空気を通さない手摺りでは風通しが悪くなってしまうので熱気がこもってしまう。
壁面との距離ももう少し離したほうが良いのだが、それでは益々手摺りとの距離が近くなり、ショートサーキットを起こしやすくなる。
手摺りよりも高い架台に載せて、壁側ではなく手摺り側に設置できれば温風が外に抜けやすくてよいのだが、それでは冷媒配管の固定が問題であり、手間も費用もかかってしまう。
大きな架台では邪魔になるし、小さな架台では転倒防止のために固定しなければ危険だろう。費用をかけてまですることではない。
壁は白色なので日射の影響は最小限で済むが、もし濃い色の壁ならば、日射で壁の温度が上がり、壁の熱が室外機裏側の温度を上げ、その熱が放熱器に流れれば、室外機周囲の温度が上がるのと同じことになってしまう。
しかし白色の壁に日射が当たれば光が反射して、放熱フィンに当たる可能性もある。壁の色は建物だけではなく、エアコン室外機の放熱効果にも影響するのだ。
この写真の室外機の設置方法は簡単であり、転倒等の危険もないが、温度と日射と風の三つの項目においては効率の悪い設置方法である。
省エネのためには室外機の放熱効果が良くなる設置方法を考えなければならない。
お金を使わず、簡単に、室外機に対する温度と日射と風の三つの悪影響を無くすには、どのような設置方法がよいのだろうか。

ビルの省エネ指南書(63)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(12

53、給気温度と風量
給気温度は「微風」運転よりも「強風」運転のほうが高くなるので、「強風」運転で冷気を上手く拡散させれば、風が直接当たっても、「微風」運転ほどは冷たくは感じないはずだ。
しかし、給気風量が多くなれば、給気口正面の人に冷気が当たり、寒く感じるかもしれない。最初は気持ちの良い冷風であっても、長時間同じ風に当たっていると寒くなるからだ。
風向きが下になると、直接人に当たり易くなるので、できるだけ横向きの給気にして、冷気が拡散するようにしたい。
冷気を拡散させる製品もあるので、いろいろと試してみて、仕事に支障のない冷房環境を創りながら、不快指数冷房をおこなえばよい。

54、エアコンによる不快指数冷房
 同じ室内の冷房負荷に対して、エアコンの冷房能力が大きいほうが、余裕のある冷房が出来るので、冷却器での結露が少なくなり、結露しても「強風」運転による風で蒸発しやすくなる。
1室に室内機が2台あるとすれば、1台運転するよりも2台運転して、1台当たりの冷房負荷を軽くすることでも同様の効果がある。
ON/OFF制御のエアコンだとすれば、冷房能力が大きいほうがONの時間が短くなり、OFFの時間が長くなると思えばよい。冷却時間が短くなれば除湿時間も短くなるだけではなく、ONの時間に冷却器で結露しても、OFFの時間で蒸発して室内に湿気が戻ってくるからだ。
インバーター制御の場合は、設定温度になれば周波数を下げて冷房能力を下げるので給気温度が上がり、それだけ除湿量も少なくなる。
1台の室内機にかかる冷房負荷が多いと、コンプレッサーが休みなく動き続け、インバーター制御のコンプレッサーならば運転周波数も上がり、冷房能力の小さなエアコンでは定格周波数以上で運転しなければならなくなるだろう。
コンプレッサーが最大周波数で運転をしていたのでは、除湿が増えるのは避けられない。
これではいくら「強風」運転にしても、結露が多くなり、結露が蒸発せずに排水されてしまえば、不快指数冷房効果が少なくなってしまう。
不快指数冷房は、余裕をもって冷房できる能力のエアコンほど節電効果が高くなり、部屋の冷房に必要な能力以下の余裕のないエアコンになるほど節電効果が期待できなくなるので、全く節電にならない場合もあるかもしれない。

55、ドレン
 ビルの場合はエアコン室内機のドレン配管が露出しておらず、目視できない場合が殆どなので、排水を直接確認することはできないが、家庭ならば室内機のドレンホースを辿っていけばホース先端からの排水量を簡単に確認できる。
「微風」と「強風」に切り替えてドレンホースからの排水を比較すると、「強風」時のほうが、排水が少ないのが分かるので、除湿が少ない冷房ができているのを実感できるだろう。
このように排水が少なくなる冷房をおこなえば、室内の湿度は必ず上昇するはずだ。室内の冷房負荷を減らすことも大切だ。
窓からは熱の侵入が多いので、ブラインドは必ず使用するようにしたい。必要以上の換気も冷房負荷を増やす原因となる。
不快指数冷房は室内湿度が高くなるのだが、換気量が多い室内は通常の冷房でも湿度が高くなることがある。エアコンで除湿をおこないながら屋外から湿気が次々と侵入して室内湿度が高くなる場合だ。室内湿度だけを見て不快指数冷房と混同しないように注意したい。

56、風量と露点温度
 「微風」運転では冷却器を通過する風速が遅くなり、空気が冷やされる時間が長くなる。 給気温度の露点温度は、「強風」運転時よりも低くなるので、給気中に含む水蒸気量が少なくなり、それだけ除湿量が多くなる。給気温度が下がれば下がるほど露点温度も下がり、給気中に含む水蒸気がさらに除湿されて、室内は乾燥状態になる。
「強風」運転にすると冷却器を通過する風速が速くなり、空気が冷やされる時間が短くなる。給気温度の露点温度は、「微風」運転時よりも高くなるので、給気中に含む水蒸気量が多くなり、それだけ除湿量が少ない冷房となる。
夏でも室内が乾燥するので加湿器を運転しているのならば、湿度70%の冷房も可能になるので、無駄な加湿をする必要はなくなるだろう。
「強風」運転で給気温度が高くなっても、給気風量が増えるので室内温度に変化はないが、除湿量が少なくなるので室内湿度だけが上がる。室内に湿度計を置いて「強風」運転にすると、湿度が上がっていくのを確認できるだろう。

57、吸気温度と給気温度
冷却器が冷えないと湿度の測定ができないため、冷却器の温度が下がる、エアコン始動10分後と「強風」運転で2時間経過後に、エアコン吸い込み口の温湿度と給気温度を測定した。ondo
全ての給気湿度は測定時に湿度表示が上がっていき、100%になる寸前にデジタル式温湿度計の湿度表示が「OL」になった。100%がオーバーレベルなのだろう。給気は湿度が100%になるまで除湿をしているようである。同じ相対湿度100%であっても15.2℃100%と11.1℃100%では絶対湿度に大きな差がある。この差が通常冷房と不快指数冷房の湿度の差になるのだ。
「強風」は給気温度が高くても風量が多いので、顕熱を下げるための冷熱量は「微風」と同じだが、給気の絶対湿度を高くできれば、潜熱を下げるための冷熱量は少なくて済む。
潜熱低下分を顕熱低下のために使うことができれば、温度的にはエアコンの冷房能力にそれだけ余裕ができ、室温が下げやすくなる。

58、エアコンの冷房能力
 エアコンの冷房能力はエンタルピを下げる能力でもある。エンタルピは空気のもつエネルギーであり、温度と湿度である。
温度を下げるエネルギーと湿度を下げるエネルギーが50:50だと仮定して、不快指数冷房をおこなって湿度を全く下げないで済むとすれば、除湿分の冷房能力を、温度を下げることに使えるようになるので、温度を下げる能力が2倍に増えることと同じなのだ。
室内の冷房負荷に対して相対的ではあっても、エアコンの冷房能力に余裕がでるのならば、インバーターエアコンは周波数を下げて冷房能力を落とす運転となるので、さらに除湿量が減るだけではなく消費電力量も減るだろう。
不快指数冷房は省エネ的にもこのような好循環を生み出していくことが可能となる。冷熱使用量の低減効果以上にエアコンの消費電力量が減るのはこのためである。

59、ファンコイルによる不快指数冷房
 ファンコイルでもエアコンと同じ要領で不快指数冷房をおこなうことができるが、風量を最大にして不快指数冷房をおこなうのは、電動弁で温度による流量制御をおこなっているファンコイルに限られる。風量の切り替えのみで、室温による流量制御をおこなっていないファンコイルでは、熱交換量が増えるだけで不快指数冷房にはならず、増エネになるだけなので注意したい。そのような場合は空調機でおこなう不快指数冷房のように、冷水温度を上げて熱交換量を減らすことで除湿も減らすことができる。
冷水温度を上げることができないのならば、ファンコイル系統への循環流量を減らせばよい。冷水温度を上げられるだけ上げて、あとは流量を調整して、ファンコイルを「強風」で運転しても室内が冷え過ぎないようにするのだ。
冷水温度制御と流量制御と「強風」運転を効率よく組み合わせて、最適に調整したファンコイルでの冷房ができれば、エアコンでおこなう以上の不快指数冷房効果が期待できるだろう。

 

 

 

ビルの省エネ指南書(62)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(11

49、扇風機の風速
 扇風機は首の上下角度によっても風速が変わって来るが、水平に近い状態で使用することが多いだろう。扇風機の背面に壁等があるよりも、部屋の中央に置いたほうが風速は早くなるが、扇風機を部屋の中央に置いて使うこともあまりないだろうから、襖を背にした位置で測定した。 image001

測定箇所によっても風速が変わってくるが、この測定箇所での「強」の風速は5.6㎧であった。 image002

「弱」の風速は2.2㎧で、「強」の約40%の風速であった。

50、エアコンの風速
 冷房能力の大きなエアコンになると風量やファンの音も大きくなるだろうが、ビルではその他の音も発生している。日中ならば外から聞こえる音も大きいはずだ。エアコンの風量や音が気になることは無いだろう。 image003
エアコン吹出し口中央で測定した「強風」での風速は3.8㎧であった。6畳用エアコンの使用であるが、深夜であっても風量や音が気になることはなかった。
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「微風」の風速は2.4㎧で、「強」の63%の風速である。扇風機よりもエアコンのほうが「強」と「微風」の差が小さいことが分かる。

51、消費電力と風量
 この家庭用エアコンの送風時の消費電力は「強風」と「微風」の差が僅か4Wなので、冷房時の消費電力全体から見れば、気になるような電力ではない。「微風」から「強風」にすると風量は1.58倍になるが、消費電力は1.22倍にしかならない。
ベース電力である制御電力は風量にかかわらず一定であり、多分10W程度の電力を消費しているのだろう。 風量は風速×面積で計算する。面積はエアコンでは吹出し口の面積であるが、扇風機では送風面積とするべきだろう。
よって両方とも送風面積と表現する。扇風機は羽根の直径が30㎝なので、送風面積は中央のパネル部分の面積を差し引いても600㎠以上の送風面積があるのに対して、エアコンは60㎝×5㎝=300㎠なので、扇風機の半分の送風面積しかない。
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表の数値でエアコン「強風」と扇       風機「弱」の風速に各々の送風面積をかけて風量として比較すれば、 エアコンの「強風」は、扇風機の「弱」よりも少ない風量となるので、エアコンを「強風」にしても、風が気になることはないだろう。エアコン「強風」の風が気になるのならば、扇風機「弱」の風のほうが気になるはずだ。 家庭の室内では人との距離も扇風機の方がエアコンよりも近いはずなので、体感的な風量は扇風機のほうがさらに大きくなる。 ビルでは、広い室内にある業務用エアコンの位置関係で体感風量が大きく変わって来る。ビルの室内は天井も高く、室内機は壁掛け式よりも天井埋め込み式が多いので、床面までの距離も大きくなり、人との距離も大きくなる。 家庭の場合以上に、エアコンを「強風」運転にしても風量が気になることはないだろう。

52、業務用マルチエアコン
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業務用エアコンの室内機は、天井埋込形では写真のような4方向吹出し形以外にも、2方向吹出し形、1方向吹出し形、床置形、壁掛形など種類が多い。 ビルは天井高の低い事務室でも家庭の天井より高く、扇風機を併用している部屋もすくないので、人の側で使用する扇風機と人から離れた位置にある業務用エアコンの風量を比較する意味はない。
「強風」時の音もビル外からの音の方が大きいはずなので気にはならないだろう。「強風」運転を試してみることだ。 マルチエアコンを使っているビルでは、それほど暑くない日や、在室人数の少ない時などは、冷房負荷が少ないので、室内機の運転台数を減らしていないだろうか。
例えば1部屋に2台の室内機があり、節電になると思って室内機を1台停止させて1台で「自動」運転や「微風」運転している場合は、たとえ1台運転で充分に冷房できるとしても、2台共「強風」で運転するほうが節電になる。 室内機1台運転よりも2台運転のほうが、冷房負荷が分散されるので、室内機1台当たりの冷却量が半分になり、給気温度がそれだけ上がり、除湿量も減るからだ。
室内機の運転台数が多いと、室内機の消費電力は多くなるが、たいした電力ではないので、「不快指数冷房」でそれ以上の節電が出来るのならば、室内機運転台数は多くても良いのだ。
しかし、室内機を2台運転したとしても、片方だけ温度を低く設定すると、その1台に冷房負荷が集中して給気温度が下がり除湿量も増えるので、1台運転と同じ結果になってしまう。
室内の温度分布もあるだろうが、できるだけ室内機2台の冷房負荷が均等になるように、設定温度も同じぐらいの温度にしたほうがよい。 室内機が複数台ある室内の場合は、「強風」にするだけで「不快指数冷房」ができる訳ではないので注意が必要である。
外気が乾燥する時期になると加湿が必要になる。 人の多いビルならば5月や10月でも冷房しているが、外気が乾燥しているので、「通常冷房」では室内湿度が40%以下になることもある。このような時期には、人が出す湿気を除湿しない冷房で、室内湿度を上げる効果がある。

ビルの省エネ指南書(61)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

不快指数冷房(10

44、エアコンでおこなう不快指数冷房

「不快指数冷房(5)」に、除湿量を減らすポイントは「送風ファンの風量が多い」とある。
まずは室内機ファンの風量を増やしてみよう。 エアコンの室内機風量は「自動」か「微風」に設定しているビルや家庭が多いだろう。
風量の「自動」は、室温とエアコン設定温度との差が大きい時は「強風」になり、温度差が小さくなるにつれて「弱風」「微風」と風量を自動調整するので、「微風」運転の時間が長くなる。
「強風」運転よりは「自動」運転のほうが、風量が少なく、ファン電力も減るので、節電になると思って「自動」にしているのではないか。 もしここで、風量は「自動」や「微風」よりも「強風」にしたほうが節電になると云われたら、それを信じられるだろうか。 室内機の消費電力量がファン電力分は増えるのだが、実際にエアコンの室内機+室外機の合計消費電力量を計測すると、「自動」や「微風」よりも「強風」運転のほうが、消費電力量が少なくなるのは実験結果の通りである。 「強風」にするとエアコンの給気温度が上がるので露点温度も上がり、湿度の高い給気となる。もし冷房時に室内が乾燥するので加湿しているのならば、加湿の必要はなくなるだろう。 室内温度が同じで湿度が上がれば不快指数も高くなるが、気流は増えるので、PMVとして考えた方がよい場合も出て来るだろう。 風量を増やす不快指数冷房は、温度設定は同じままで、風量設定を「強風」に切換えるだけなのでお金もいらず、3秒もあれば誰でも簡単にできるので手間がかからず、リスクもない。 この節電対策はエアコンでの冷房であれば、ビルでも家庭でも実施可能なので、ぜひ試していただきたい。

45、風量設定
冷房時に冷風を「強風」運転で室内全体へ循環できれば、温度ムラのない室内となるだろう。 我が家のエアコンでは、風量を「自動」にすると、沈み込んだ冷気によって足元が冷えるので、扇風機を「微風・首振り」で併用していたが、エアコン風量を「強風」にすると、扇風機が無くても足元が冷えることがなかった。「強風」運転で床面の冷気が掻き混ぜられているのだろう。 室内機ファン「自動」+扇風機「微風」よりも、室内機ファン「強風」だけのほうが、ファン電力が少なくて済むので、扇風機を併用するよりも節電になる。エアコンと扇風機を併用したほうがよいとよく耳にするが、「強風」運転を体験してから扇風機の必要性を決めればよい。 ただし、フィルターが埃で詰まっているようでは、いくらファンが「強風」でも、実質的な風量は減少する。「微風」や「弱風」の風量にまでなると、「強風」運転による「不快指数冷房」効果が少なくなってしまうので、フィルターの清掃は早めにおこなうように心がけたい。 フィルターが目詰まりすれば、除湿にエネルギーを使うことになるが、ある程度目詰まりさせて除湿器として使う考えならば、除湿器よりもエアコンの方がはるかに除湿能力は高い。

46
、床面温度
54日間の消費電力量計測と同時に、床面から40㎝の位置に温湿度計を2台設置した。 これは毎日7:00時点での平均温度をグラフにしたものである。image001
単位:℃  ●通常冷房 ○不快指数冷房

設定温度が28℃でも、床面は沈んだ冷気で、さらに温度が低くなっていることが分かる。 「●通常冷房」は温度のバラツキが若干あるが25℃のライン上が多い。「○不快指数冷房」は温度のバラツキが少なく、26℃のライン上が殆どだ。「●通常冷房」と「○不快指数冷房」の床面温度は1℃の差になっていると云えるだろう。 エアコンは吸い込み口で温度を測定しているため、天井付近の温度が28℃でも、「●通常冷房」の「微風」では床面の冷気が循環せずに沈み込んだままになり、床面付近の温度が25℃にまで下がるのだろう。 「○不快指数冷房」の「強風」では床面の冷気も循環しているのだろうか、床面付近の温度が若干上がって26℃になっている。 「○不快指数冷房」の方が、温度ムラが少なくなっているはずなので、「●通常冷房」よりも床面から1mならば涼しく感じるはずだ。 暑いようならば目標とする不快指数になるように温度設定を下げてもよい。 室温28℃に設定した場合、「○不快指数冷房」で温度が26℃ならば、湿度70%の時は不快指数75.4である。75以上の不快指数ならば無駄のない冷房だと云えるだろう。

47、床面湿度
同じく毎日7:00に、2台の温湿度計で測定した平均の温度と相対湿度を使って、絶対湿度に換算したグラフである。室内空気の湿度は、温度によって変化する相対湿度ではなく、絶対湿度の水蒸気量で比較する。 image002
単位:g/gD.A. ●通常冷房 ○不快指数冷房

温度とは類似性のないグラフとなっている。 「●通常冷房」は比較的上下のバラツキが少ないグラフである。外気湿度に関係なく、一定のレベルまでは除湿しているようだ。 「○不快指数冷房」は上下のバラツキが多いグラフである。除湿量が少ないために、外気湿度の変化がそのまま表れているのだろう。 グラフの右辺では外気湿度が低くなっているのか、湿度の低い日が多く、「●通常冷房」と「○不快指数冷房」の湿度差が小さくなっている。 温度差は1℃でほぼ一定なので、消費電力量の差がグラフの右辺で小さくなっているのは、絶対湿度の差が影響しているからだろう。 エアコンで温度を設定しても湿度は成り行きである。これだけ湿度が違えば体感的な差も大きくなるので、室内湿度に応じて冷房温度を変え、不快指数が75になるようにできれば、体感的な差もなくなり、無駄も冷房も少なくなる。 これが「不快指数冷房」の目的の一つでもある。

48、ファンの消費電力
エアコンを「送風」運転にして、「強風」運転時の消費電力を計測すると22W、「微風」運転時は18Wだった。「強風」と「微風」の消費電力には僅か4Wの差しかなかった。 業務用エアコンではもう少し消費電力差が大きくなるかもしれないが、室外機も含めたエアコン全体での消費電力量からみれば、室内機送風ファンの電力量は僅かの差である。 風量を気にする人がいるかもしれないので、比較するために扇風機と家庭用エアコンの風量を「強風」と「微風」に分けて測定する。 扇風機の風量は「強・中・弱」で、エアコンは「強風・弱風・微風」となっているので、扇風機の「弱」はエアコンの「微風」と対比させる。 エアコンによっては風量が4段階や5段階に切り替えできる機種があるが、その時は一番弱い風量を「弱」とすればよいだろう 風量は風速×送風面積なので、風速計で「強」と「弱」の風速を測定して比較する。  

ビルの省エネ指南書(60)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

 不快指数冷房(9

38、保温工事
 天井裏全面に湿度侵入防止も兼ねて、片面にアルミ箔を貼ったグラスウールを敷き詰めたので、除湿器に溜まる水がかなり減ると予測した。
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 翌朝、保存室の除湿器を見に行くと、タンクに溜まった水は工事前と同じ量であり、夏季になると除湿量は保温工事前と同じく、タンク満水の5L×2回の除湿量であった。
片面アルミのグラスウールで湿度の侵入を防げなかったということは、天井から侵入しているのではないのだろう。毎日これだけの湿度が何処からどのような経路で保存室へ侵入するのかという疑問は残るが、外壁からの伝導か小さな隙間からの侵入と思うしかない。
湿度のコントロールが難しく、侵入を防ぐことも難しいのならば、いくら除湿をおこなっても際限のない無駄の繰り返しになってしまう。
湿度的には全く効果のなかった天井裏の保温工事であったが、温度的には非常に効果があった。温度は天井から侵入していたのだろう。
保存室の保温工事後はビルの消費電力量が3%減ったのは、この保存室のエアコン電力削減効果だと思われる。

39、保温工事の結果

 湿度の侵入は防ぐことができなかったが、温度の侵入は防ぐことができたので、エンタルピと不快指数の数値的な比較だけではなく、実践的にも温度を下げて湿度を下げない不快指数冷房の省エネ性が確認できた。
温度も湿度も高いところから低いところへ伝わり、その差が大きくなればなるほど伝わりやすくなり、それだけ伝導量も増える。
冷房温度を下げて外気温度と室内温度の差が大きくなっても、保温により外気温度の室内への侵入や伝導を防ぐことができる。
室内を除湿しないようにすれば、外気湿度と室内湿度の差が大きくならないので、外気湿度の室内への侵入や伝導が最小限に抑えられる。
不快指数冷房をビルや家庭のエアコンでおこなうと、どれだけの節電効果があるのか、実際におこなってみることにした。

40、ワットチェッカー

 小規模ビルや家庭ならば、エアコンで冷房をおこなっているだろう。不快指数冷房をビルの空調機ではなく、エアコンでおこなうことができれば、ビルでおこなえるだけではなく、家庭でもおこなうことが出来るので、全国的な節電効果は非常に大きなものになる。
ビルのエアコンで不快指数冷房の節電効果実験をしたかったが、ビルの場合は数部屋掛け持ちのマルチエアコンも多く、人の出入りが多ければ室内冷房負荷も一定ではなくなる。天候によっては日射の影響も違って来る。これでは正確な比較ができるはずもない。
室外機1台と室内機が複数台で、電源も室外機は三相の場合などもあり、エアコン1台の消費電力量を計測するのも簡単ではない。
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 その点、家庭ならば壁のコンセントにワットチェッカーを取り付けるだけでよいので、1部屋1台のエアコン消費電力量の計測が容易である。
ビルのエアコンでも家庭のエアコンでも不快指数冷房効果は同じなので、家庭のエアコンで計測して、消費電力量を比較することにした。

41、消費電力量の比較

 グラフは家庭の6畳間にあるコンセントにワットチェッカーを取り付けて、エアコンの温度設定は28℃のまま、今日は「通常冷房」、翌日は「不快指数冷房」というように1日置きに切り替えて、毎日の消費電力量を計測したものだ。前年同月の消費電力量と比較するよりも、この方が正確な比較ができるだろう。
 エアコン運転時間は2300~翌700までの8時間で、夜間なので室内にも室外機にも日射の影響は全くない。外気温度の影響はあっても、1日置きに切り替えての計測なので、外気負荷が平準化されて、計測期間中を合計した消費電力量の比較にはそれほど影響はないだろう。室内はテレビも無いし照明も点灯していない。人は私一人だけなので、室内での冷房負荷は8時間一定に保つことができる。
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単位:kWh 通常冷房日(ピンク色) 不快指数冷房日(緑色)

 グラフを見ると、結果は一目瞭然である。

 平成26727日から918日までの54日間の計測合計では、通常冷房日が34.62kwh不快指数冷房日が24.52kwhで、不快指数冷房にすると約30%の節電効果があった。
日毎の消費電力量が違うのは、外気温度の影響である。9月に向けて徐々に外気温度が下がると共に、消費電力量も減っているのが分かる。
グラフの消費電力量は、外気湿度の影響を受けているのか、「通常冷房日」は全体的に上下にバラツキの多いグラフだが、外気湿度の影響を受け難い「不快指数冷房日」は上下のバラツキが少ないグラフなのが特徴的である。

42、冷房負荷と節電率

 グラフでは消費電力量が減るに連れて節電率も減っている。外気温度だけではなく、湿度も7月をピークとして徐々に低くなっているのだろう。湿度が低ければ不快指数冷房の節電効果も低くなるから節電率も低くなるのだ。
家庭の場合は人の出入りが少なく、換気もおこなっていない場合が多いので、外気が入って来る機会が少なく、除湿に使うエネルギーはそれ程多くはないだろう。ビルの場合は人が多くて、換気と外気侵入が多いほど除湿に使うエネルギーが多くなるので、家庭よりもビルのほうが、除湿に使うエネルギーを少なくする不快指数冷房の節電効果は高くなるはずだ。
冷房だけの節電効果なので、年間での節電量は5%程度かもしれないが、夏季はエネルギー使用量の50%前後を冷房で使っているビルが多いので、冷房電力の30%が節電できれば、電力デマンドが15%下がる計算になる。これだけの節電効果があれば、電力会社の電力供給力にも余裕が出ることだろう。

433秒でできる不快指数冷房

 エアコンで不快指数冷房をおこなうのは、空調機でおこなうよりも簡単だ。3秒もあればビルや家庭のエアコンでできるからだ。
3秒で費用もかけずに簡単に実施でき、冷房電力の30%が節電できて、デマンドが15%下がるのならば、文句の付け様がないはずだ。試してみる価値と時間はあるだろう。もし駄目でも3秒で元に戻せるのだ。
次に不快指数冷房をおこなう方法を説明する。

ビルの省エネ指南書(59)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室  
室長 中村 聡

 不快指数冷房(8

33、温度と湿度の省エネ効果比較

 今度はエンタルピと絶対湿度で比較してみよう。
室温は28℃で絶対湿度が違う場合だ。
2015-04-07_1027

 外気の温湿度が3570%の時に、室内を2870%で冷房すると、温度が20%下がり、エンタルピが29.1%下がり、絶対湿度が33.7%下がる。
 
室内を2845%で冷房するとエンタルピが44.6%下がり、絶対湿度が57.9%下がる。エンタルピは44.6%-29.1%=15.5%の差で、絶対湿度は57.9%-33.7%=24.2%の差だ。エネルギーを15.5%多く使うと、絶対湿度が24.2%多く下がるということになる。
 
次に室内の絶対湿度が同じで、室温が違う場合を比較してみる。
2015-04-07_1028

 室内を2457%で冷房すると、温度が31.4%下がり、エンタルピが48.7%下がる。エンタルピは48.7%-44.6%=4.1%の差で、温度は31.4%-20.0%=11.4%の差だ。エネルギーを4.1%多く使うと、温度が11.4%多く下がるということになる。率的には湿度を下げるよりも温度を下げるほうにエネルギーを使った方が効率的である。

34、外気温度と湿度
 
 
外気温度のほうが室内よりも高くて、湿度が低い場合はどうなるだろうか。
2015-04-07_1028_001

 外気温湿度2850%は、夏季前後の中間期に見受けられる温度と湿度である。冷房中のビル内温湿度2670%は、人からの水蒸気発生があるので、外気よりもビル内の方が絶対湿度が高くなることもあるだろう。温度は外気の方が2℃高いので、屋外からビル内へ熱伝導するが、絶対湿度はビル内の方が高いので、逆にビル内から屋外へ湿度の伝導があるはずだ。わざわざ除湿をしなくても伝導で自然に除湿ができるのだから、不快指数冷房で温度を下げることだけにエネルギーを使えばよい。
 
エンタルピは外気の方が低いので、外気導入量を増やせば外気冷房になるが、外気温度は高いので、不快指数冷房で温度だけを下げるのだ。

35、外気の冷房負荷

 外気が冷房負荷となるには温度と湿度がある。どちらもビル内よりも高いほど冷房負荷となるので、外気冷房として利用する以外はビル内への影響を減らす工夫が必要だ。
 
外気の導入や侵入があれば外気のエンタルピがビル内へ直接入ってくるのだが、窓も無く換気もせず人も居ない密室の場合はどうなるであろうか。外気の熱が壁から伝わって室内へ伝導するのと、外気の水蒸気が壁を通して伝導するのとでは、エネルギー的にどちらが多く入って来て、冷房負荷になるのかを考えなければ、エンタルピの比較だけで、湿度が高い方が省エネになり快適になるとは言い切れないはずだ。
 
外気の導入や侵入や伝導。室内での人や電気機器の冷房負荷。これらを総合的に判断した時の最も効率的な冷房方法を求めて、温度と湿度のどちらを下げてどちらを下げないようにすればよいのかを実践的に探し出す必要がある。

36、温度と湿度の侵入

 室内の換気をおこなえば、外気が直接入って来るので、これを外気の導入と云うならば、侵入は自然に入って来る外気である。ビル内が負圧であればあるほど外気が多く侵入して来る。これも外気導入と同様に冷房負荷になる。
 
外気導入量を増やしてビル内が正圧になれば、侵入口から逆にビル内の空気を押し出すことになるので外気侵入はなくなるが、必要以上の外気導入は冷房負荷が増える原因ともなる。
 
丁度、外気侵入が無くなるように導入量を調整するのが、外気負荷が少なくなるポイントだ。この導入や侵入以外にも間接的に入って来るものに熱伝導がある。水蒸気も壁に伝わり、壁から室内に伝わって来るという意味では熱と同じく水蒸気も伝導である。伝導はビル内の気圧に左右されずに、正圧でも負圧でも、壁や天井、窓から伝わって入って来るのが特徴である。
 
侵入は気圧差の影響を受けるが、伝導は気圧差ではなく、温度差と湿度差の影響を受けてビル内へ入って来るという違いがあるのだ。
 
熱の場合は日射が窓ガラスに当たればガラス自体が熱くなり、その熱が室内に伝導すると同時に、ガラスを透過した日射が室内に直接熱を与える。これが伝導と透過である。
 
外気と室内のエンタルピを比較するだけでは、温度を下げて湿度を下げない冷房をおこなったほうが省エネになるが、数値の比較だけではなく、外気の温度と湿度、つまり外気の熱と水蒸気のどちらがビル内への伝導量が多いのかで、不快指数冷房の調整方法も違って来るはずだ。
 
温度の方が湿度よりも伝導しやすいのであれば、室内温度を下げれば下げるほど外気の熱が伝導して冷房負荷が増える。逆に温度の高い冷房をおこなえば、熱は伝導し難くなる。
 
湿度の方が温度よりも伝導しやすいのであれば、室内湿度を下げれば下げるほど外気の水蒸気が伝導して冷房負荷が増える。逆に湿度の高い冷房をおこなえば、水蒸気は伝導し難くなる。
 
室内温度と湿度の伝導しやすいほうを下げないようにしながら、伝導し難いほうを下げたほうが、エンタルピとしての伝導量が少なくなるので、それだけ冷房負荷も減るだろう。

37、保存室の保温

 1850%の保存室での例である。エアコンで除湿を行なっていたが、除湿をすれば室温が下がり過ぎて、真夏でも再熱を行わなければならなかったので、除湿器1台を追加してエアコンでの除湿負荷を減らすことにした。
 
エアコンと除湿器の併用で、室温が設定以下にならないような除湿ができれば、再熱で無駄な電力を使う必要もなくなるだろう。
2015-04-07_1030

  この保存室は窓も無く、人の出入りも殆どない密室である。ドアはパッキンで密封されており、ドアの室内側にもう一枚のドアがある風除室的な二重のドアである。保存室に入るには外側のドアを開けて入り、閉めてから内側の開けるというようになっている。この外側ドアの手前スペースも外気が入らない狭いエレベーターホールなので、給排気ファンを運転しない限りは、直接保存室に外気が入ることはない。
 
壁と床はコンクリートで囲われており、室内側の壁と天井は石膏ボード覆われている。ここまでは窓やドアを別とすれば通常の部屋と同じだが、さらに室内側全面が木材で覆われている、室内に木製の部屋がある二重構造の保存室だ。
 
天井裏だけは石膏ボードと木材による二重天井の上が、広い空間となっている。ほぼ完全密閉状態のこの保存室が周囲から温度・湿度の影響を受けるとすれば、この天井裏からの可能性が高いだろう。そこでこの天井裏に片面アルミのグラスウールを敷き詰めることにした。これならば保温にもなり天井裏からの湿気の侵入や伝導も減少すると考えたからだ。

新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金の申請受付開始について【厚生労働省】

 

厚生労働省ではこのほど、標題の助成金の申請受付を開始しましたので、お知らせいたします。

本助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響により小学校等が臨時休業等となり、仕事を休まざるをえなくなった従事者に対し、有給(賃金全額支給)の休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除く)を取得させた事業主に対して助成されるものです。具体的な助成内容は「有給休暇を取得した対象労働者に支払った賃金相当額×10/10」、申請期間は2020年3月18日~6月30日となっています。

詳しくは添付のリーフレット及び厚生労働省のウェブサイト(下記URL)をご確認いただくとともに、学校等休業助成・支援金等相談コールセンター(0120-60-3999)までお問い合わせください。

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ビルの省エネ指南書(58)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室  
室長 中村 聡

空調のチューニングポイント

不快指数冷房(7

29、指標

 体感的な温度を表す指標は他にもあるが、なぜ不快指数を使うのかと云えば、ビルの空調で設備管理員が調整できるのが温度と湿度だからだ。 
 冷房は除湿になるが、自動で湿度制御はできないだろうから、手動調整により除湿量が少なくなるようにするテクニックが必要となる。
 冷水を循環させて空調機やファンコイルで冷房しているのであれば、冷水温度をできるだけ高くすることで除湿量がコントロールできる。
 冷水温度が高くなり冷熱供給量が不足するようならば、流量を増やして補えばよい。冷房は空気のエンタルピを下げることであり、エンタルピは温度と湿度で表される。不快指数も温度と湿度で表される。これが重要なのだ。
 エンタルピと不快指数は比例している訳ではないので、同じ不快指数ならば、できるだけエンタルピを下げない冷房をおこなえば、それだけ少ない冷熱で、同じ快適性を得られる。
2015-03-06_1751

    現在の室内温度と湿度でエンタルピと不快指数を計算して、同じ不快指数で現在よりも高いエンタルピとなるように温度と湿度を調整すれば省エネになるのだ。
 温度と湿度以外の要素が入る指標を使うとこのような計算ができなくなるので注意したい。
 単に快適性を表すために不快指数を使うのではなく、同じ快適性を維持しながら、できるだけ高いエンタルピにして、省エネ冷房をおこなうための換算値的に使うのが目的なのだ。

30、エンタルピと不快指数
2015-03-06_1752

 この表では27℃60%は28℃45%よりもエンタルピが高く、省エネ性を重視した設定だが、不快指数が僅かに高くなっている。
 26℃65%は28℃45%よりもエンタルピが高く、省エネ性を重視した設定のまま不快指数は低くなっており、28℃45%と比較すれば、省エネと快適性の両立ができている。
 省エネ性はエンタルピで表し、快適性は不快指数で表しているからこそ分かることであり、設備管理員もこれらの数値を参考にして、省エネと快適性の両立を目的とした温度と湿度に調整することができるだろう。
 不快指数の欄がPMVのような指標ではどうなるだろうか。着衣量や代謝量などの人間的要素が入った指標では、ビルの設備管理員が調整できるものではなく、気流にしても設備管理員が調整できる余地はあまりなく、室内給気が変風量ならば自動で風量が変わるので、指標も常時変わることになり、設備管理員は対応できないだろう。このように温度と湿度以外の、設備管理員が調整できない要素が入ると、エンタルピとの比較ができなくなり、温度と湿度をどのように調整すれば省エネになり快適になるのかが分からなくなってしまう。
 PMVは設備管理員が温度と湿度を調整して省エネをおこなうために使う指標ではなく、体感的な快適性を評価するための指標なのだ。
 不快指数冷房で使う不快指数は、体感的な快適性を評価するだけが目的ではなく、〔温度・湿度〕〔不快指数〕〔エンタルピ)の三者を関連させて、より省エネになるように〔温度・湿度〕を調整するための指標となるものだ。
 現在の室内状況に応じて、不快指数を上げてもよいし下げてもよいので、その不快指数を目標にエンタルピを考えながら、最も省エネになるように温度と湿度に調整するのだ。

31、温度と湿度

 不快指数冷房を知るうえで、室内の温度を上げる代わりに湿度を下げて省エネ行う場合と、温度を下げる代わりに湿度を上げて省エネを行うのでは、どちらがより省エネになるのかを次の表で比較してみたい。
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 現在の室内温湿度が28℃50%であったとして、これを32℃35%にすると、エンタルピは大差がないのに不快指数は2.6も高くなっている。
 32℃に温度を上げて省エネをしているつもりが、大した省エネにはならず、不快指数が上がるだけで、無駄な我慢をするだけとなる。32℃の冷房はあり得ないにしても、温度をこれだけ上げても省エネにならないことが分かるだろう。
 逆に温度を25℃に下げて、代わりに湿度を70%にまで上げると、エンタルピが32℃35%の時よりも上がり、エンタルピを下げない冷房ができている分だけ省エネになる。
 不快指数は28℃50%よりも1.8下がり、32℃35%と比べれば4.4も下がっている。
 表では25℃70%の時が最も省エネになり快適になることが分かる。表の比較だけでは温度を下げて湿度を下げない冷房を行うのが、快適性の面でも省エネの面でも得だということになる。
 温度を上げて湿度も上げれば最も省エネ効果はあるのだが、それでは冷房とは云えない。
 ビル内の快適な環境を目指すための冷房であるならば、できるだけエネルギーを使わずに快適性を追求するのがビルの設備管理員の技術力であり仕事だとも云えるだろう。それを実現するのがこの不快指数冷房なのである。

32、不快指数冷房の効果

 比較のためだけの表ではなく、実際に冷房をおこなった場合を想定した数値で、不快指数冷房の省エネ効果を算出してみよう。
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 外気の温度と湿度が35℃70%はかなり蒸し暑い日だ。室内の温度と湿度28℃45%はビルの冷房ではよくある温度と湿度である。同じく26℃67%は不快指数冷房をおこなった場合の例である。同じ体感温度を得る場合の省エネ効果を比較するために不快指数は75にしている。
 実際の冷房では不快指数が75を超えることもあるが、冷房は外気の不快指数との差も影響する。表のように外気不快指数が88.9もあれば室内不快指数75でも涼しく感じるのだが、外気の不快指数が77~78の時に室内の不快指数が75ではかなり不快感があるだろう。
 表の28℃45%では外気よりもエンタルピが44.6%下がり、26℃67%では37.6%下がる。その差は44.6%―37.6%=7.0%である。
 苦労して不快指数冷房をおこなっても、今までの冷房と比べて7%の省エネ効果しかないのかと思うかもしれないが、実際におこなってみると、この何倍もの省エネ効果があるのだ。
 冷房とは単に外気と比較するのではなく、換気量の差もあり、壁からの熱伝導もある。濃い色の壁ならば熱を吸収しやすく、それだけ熱伝導で入って来る熱量が増える。白い色の壁ならば日射を反射するので、熱伝導は少なくなる。窓ガラスへの日射の有無でも違って来る。伝導は熱だけではなく、水蒸気も伝導で入ってくる。室内人数が多ければ、人が発生する熱や水蒸気も多くなる。電気機器の発熱もある。それらが全て不快指数冷房に影響するので、ビルの構造と使用状況毎に、不快指数冷房をおこなった場合の省エネ効果が大きく違ってくるだろう。