投稿者「福岡ビルメンテナンス協会」のアーカイブ

ビルの省エネ指南書(54)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

暖房と蓄熱

1、冬の空調運転

冬の空調立ち上げで、温水温度が上がらなくて苦労した経験があるだろう。特に休み明けともなるとビル内が冷え切っているため、かなり早めに熱源の運転を開始しなければならない。

地域冷暖房の場合では温熱デマンドがあるので、温熱を使いたくても使えず、早めに空調機の運転を開始して、時間をかけて少しずつ温水温度と室内温度を上げていくしかない。

しかしこれでは、温水温度が上がって、空調機から暖かい給気が出るまでの間は冷風が出て来るため、冷房しているようなものだ。

このような時に、暖房の立ち上がりを早くしながら、温熱のデマンドを下げる方法があれば、暖房立ち上げ時の苦労もなくなるはずだ。暖房の立ち上がりが早ければ、空調運転開始を早くする必要はなく、暖房が必要になるぎりぎりまで遅くすることができる。理想的には空調機運転と同時に温風が出て来ればベストである。

温熱の使用量を増やさずに、暖房の立ち上がりを早くするということは、正反対のことを行うことになるが、ある日アイデアがひらめいた。

蓄熱すればよいのだ。しかし蓄熱槽はない。

ここで、さらにもう一つアイデアが必要だ。

2、配管蓄熱

蓄熱には蓄熱槽が必要だと思うかもしれないが、蓄熱槽が無くても蓄熱は可能である。

ビル内全ての温水配管内に蓄熱するのだ。

冬季は早朝の空調運転立ち上がり時に暖房ピークが来るので、配管蓄熱は効果的である。

空調機運転開始前に、温水配管内に温水を流して蓄熱しておけば、空調機運転開始と同時に空調機から温風を出すことができるようになる。

配管蓄熱は温水を循環させながら、空調機で暖房をおこなっているビル用の対策であり、地域冷暖房でなくても実施することができる。

温水循環の往還配管内に温水を蓄えるということは、配管の鋼管自体にも熱を蓄えることができるので、暖房立ち上げ時に必要な熱量は蓄熱で賄える。この熱を使いながら空調運転を開始すれば、温熱デマンドを心配することなく暖房の立ち上がりを早くできるのだ。

3、蓄熱方法

蓄熱をおこなう方法は簡単だ。空調機二方弁のバイパス弁を僅かに開けた状態で、熱源と二次ポンプを運転すればよい。空調機は運転していないので、蓄熱中の熱源運転は最低限でよい。
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 例えばバイパス弁のハンドルを全閉から180度開いて、蓄熱に1時間かかるのならば、空調機運転開始1時間前に熱源を運転すればよい。

二次ポンプの流量に合わせてバイパス弁の開度を調整すれば、蓄熱完了までの時間を変えることができるので、空調機と熱源の運転開始時間をできるだけ遅らせ、蓄熱にも無駄な搬送動力を使わないように調整できれば効率的だ。

バイパス弁を開け過ぎると、二方弁全閉時も温水が流れて過剰暖房になるので注意したい。
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 通常の暖房運転ならば還配管内の温水は温度が下がっているが、蓄熱では還配管の温度も往配管と同じ温水温度になるので、循環方式がリバースリターンならばダイレクトリターンよりも還配管が長い分、蓄熱量が多くなる。
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 各系統の往還主配管への蓄熱と、主配管から分岐して空調機までの往還配管に蓄熱をする。
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空調機往還配管の温度計を比べてみれば、温度差で熱コイルが温まっているかどうかは分かる。
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 バイパス弁を開けた空調機は、空調機出入口配管から空調機内部の熱コイルにも温水が流れるので蓄熱効果が高くなる。

各系統の主配管末端にある空調機のバイパス弁を開けておけば、その途中にある暖房負荷が少ない空調機はバイパス弁を開けなくてもよい。

主配管までは温水が来ているのだから、空調機の熱コイルまで暖めていなくても、暖房の立ち上がりは、蓄熱前よりは早くなるだろう。

4、暖房負荷

通常の空調運転は熱源運転と同時に空調機を1台ずつ、時間差を設けて運転していると思うが、それでも中々温水温度が上がらないものだ。

配管蓄熱をしても、空調機運転後に蓄熱を使い切ると温水温度が下がる気がするが、実際はそれ程温水温度が下がらずに温度を維持できる。

暖房負荷には温水温度を上げる温水負荷と室内温度を上げる室内負荷があり、空調立ち上がり時にはこの両方が暖房負荷となる。配管内の温水と空調機熱コイルは、空調立ち上がり時だけの温水負荷なので、これに蓄熱しておけば、温水負荷だったものが逆に熱源となり、空調機運転開始直後の暖房負荷は室内負荷だけとなるので、温水温度がそれ程下がらないのだ。

5、蓄熱効果

配管蓄熱を行う前には、地域冷暖房の温熱最大負荷が3,770MJだったビルが、配管蓄熱を行うと1,300MJにまで下がったので、温熱デマンド契約も下げることができた。

約1/3の温熱量しか使っていなくても暖房の立ち上がりが早くなったので、空調機の運転開始と熱源の運転開始を遅らせることができ、その時間の電力と温熱の使用量も節約できる。

空調機を運転しながら温水温度を上げるには、温水負荷と室内負荷の両方が同時にかかるが、温水温度が上がってから空調機を運転すれば、室内負荷だけとなるのが蓄熱の効果である。

配管蓄熱は空調運転立ち上がり時のピーク抑制のためなので、夏季のように冷房ピークが12時から18時までのような、長時間のピーク抑制はできないが、冷房運転開始時に熱がこもっているようなビルならば、暖房と同様に空調機運転開始時の蓄熱効果が期待できるだろう。

都市ビル環境の日 第7回子ども絵画コンクール

 

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ビルの省エネ指南書(53)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

電気室の熱

1、夏季と冬季
 
ビル内が負圧では外気が侵入して、エントランス近辺は外気温度の影響を受けやすくなる。    夏季は28℃のビル内に35℃の外気が侵入しても、温度差は7℃にしかならないが、冬季は20℃のビル内に5℃の外気が侵入すると、温度差は15℃になり、0℃の外気侵入ならば温度差20℃だ。寒冷地ほど温度差が大きくなるだろう。
 
このように外気侵入における、人への影響は冬季の方が大きいので、ビル内の気圧を高めて、出入り口からの外気侵入防止が効果的だ。
 
しかし空調機等からの外気導入量を増やしてビル内の気圧を高めても、外気負荷が増えることには変わりがない。そこで、冬季に外気負荷を増やさずに外気導入量を増やして、ビル内の気圧を高めるアイデアが必要となる。

2、電気室の熱
 
電気室は変圧器の発熱で冬季でも室温が高くなり、給排気ファンを運転して室温を下げているビルも多いだろう。つまり冬季なのに屋外に排気=排熱しているのだ。
 
電気室のあるビルならば、この熱を屋外ではなくビル内に排熱する方法を考えたい。
 
電気室は臭いのする場所ではないので、居室でも問題なく使うことができるだろう。
 
電気室の温度が20℃以上であれば、ビル内への排熱量がいくら多くても空調の外気負荷にはならず、逆に暖房効果さえ期待できるはずだ。
 
そして、電気室からビル内への排熱量が多くなればなるほどビルの気圧が上がり、出入り口からの外気侵入量が少なくなるだろう。
 
もしビル内の気圧が正圧になれば外気侵入は無くなり、エントランス近辺の人が寒く感じることもなくなるはずだ。
 
電気室の熱を、排気ファンを使って屋外へ排熱するぐらいならば、ビル内へ排熱したほうがどれだけメリットがあるかが分かるだろう。

3、搬送経路
 
外気をどのような経路で電気室から給気場所まで搬送するかを考えなければならない。
 ○空調機の還気で引っ張って給気
 ○電気室から直接給気
 
○ダクトを給気場所まで新設して給気
 
どのような方法を選ぶかは、電気室から給気場所までの距離と工事費用によるだろう。
 
給気場所が居室であれば直接的な暖房効果があってよいのだが、廊下や階段であっても、ビル内の気圧を上げる効果はあるので、居室にこだわる必要はない。
 
写真は空調機の還気で電気室内の空気を引っ張って給気する方法である。
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上下の写真を対比してみていただきたい。
 
電気室排気ファンの排気チャンバーと、1階ロビー用空調機の還気ダクトとを、ダクトで繋いだところだ。これで電気室からの排熱は1階ロビーの暖房とビル内の気圧上昇のために使える。
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 ダクト長は水平距離3m、垂直距離2m程度なので、それほど工事費もかからない。 
 
冬季は電気室の排気ファンを運転せず、空調機はOAダンパー全閉で運転して、電気室で暖めた外気を、RAダクトから引っ張ってロビーに24時間供給するようにしている。
 
排熱利用と通常排気を切り換えるためのダンパーも設けている。冬季以外は排気ファンを運転して屋外に排気するためである。

4、温度効果
 
平成24年1月3日の温度を24時間計測したグラフである。上から電気室温度、空調機給気温度、外気温度を表している。
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1
3日の温度推移グラフ(上)と表(表)
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 年末の御用納めから、御用始め前日の1月3日までは最も電気を使わない期間である。変圧器の発熱を考えれば、13日の電気室内は1年中で最も温度条件の悪い日でもある。
 
グラフ一番上の、のこぎり刃のような電気室温度グラフは室温が上がれば給気ファンを運転、下がれば停止と間欠運転しているためである。


 
電力使用の多い平日ならば常時運転しているので、もっと直線的なグラフになるだろう。
 
直ぐ下の25℃ラインと重なっているグラフは空調機の給気温度である。熱源は運転していないので、この温度は電気室の排熱温度になるが、電気室から空調機までのダクトが長いので、ダクトからの放熱分だけ低い温度になっている。
 
電気室温度の上下動に従って、給気温度も若干は上下しているが、外気温度の影響も受けずに、24時間25℃前後を保っている。
 
電気室の温度センサー取付け位置は人の目線よりも下だが、排気ダクトは天井にあるため、電気室温度と給気温度は同じにはならず、給気温度はある程度一定の温度を保っているようだ。
 
ビルは夜間に外気が侵入して、ビル内が冷え込むことが多いのだが、このグラフによると夜間も25℃を給気場所に排熱しながら、ビル内の気圧低下防止に役立っていることになる。
 
排熱なので費用もかからず、休日明けなどは空調の立ち上がりが早くなるはずである。
 
空調の立ち上がりが早くなるならば、その分の時間、空調運転開始を遅らせることもできるので、それだけ省エネにもなるだろう。
 
一番下は外気温度だ。平均6.3℃と福岡市にしては寒い1日であった。外気の最低温度が4.3℃で、この時の給気温度が25.2℃なので、電気室を経由して外気を導入すれば、最低でも21℃も外気を暖める効果があることが分かる。
 
外気温度は最高と最低では大きな違いがあるが、給気温度には殆ど変化がないのは、電気室の天井高が高いので、暖気が上部にこもって蓄熱状態になり、温度を保っているからだろう。

5、排熱利用
 
大規模ビルになればなるほど、煙突効果による自然排気が多くなり、電気室が数カ所に分散していることもある。このようなビルではメインの電気室の排熱利用だけでは、ビル全体の気圧を外気圧以上に上げるのは難しいかもしれないが、ビル内が冷え込む時間帯である深夜に、熱源なしで排熱を供給できる効果は大きいだろう。
 
電気室を暖房の熱源として利用できるビルは限られるかもしれないが、排熱の搬送経路を見付け出し、排熱利用を実現できるかどうかは、ビルの設備管理員の努力次第である。

 

「接客のプロに学ぶ応対力アップセミナー」開催のご案内

(一財)建築物管理訓練センター主催による「接客のプロに学ぶ応対力アップセミナー」が下記のとおり福岡で開催されます。
本セミナーは、大手航空会社の客室乗務員教官であった方を講師としてお招きし、ビルメンテナンス業に従事するすべての方を対象として、人的サービス力を磨き、居心地の良い雰囲気をつくり出すことによって、ビルのオーナー様から自社への評価を上げることを狙いとするだけでなく、他社との差別化をつけるスキルを学ぶことで、従事される方自身の付加価値やモチベーションも高め、更なる相乗効果を生むことも視野に入れたセミナーとなっております。

《福岡会場》
1.日時    平成27年11月13日(金) 13:00~17:00

2.会場    ももちパレス(福岡市早良区百道2-3-15)

3.募集定員  50名

4.受講料   ・会員価格  6,000円(消費税込)
・一般価格 10,000円(消費税込)

5.申込締切  平成27年10月23日(金)

*案内チラシおよび申込書はこちら⇒

平成27年度「前期研修セミナー」(九州ビルヂング協会)開催のご案内

九州ビルヂング協会の主催による平成27年度の前期研修セミナーの開催

1.日時    平成27年11月4日(水) 15:00~17:00

2.会場    電気ビル共創館 3階 Aカンファレンス

福岡市中央区渡辺通2-1-82

3.テーマ   「ビル経営をめぐる法的諸問題について」

講師:吉田修平法律事務所
弁護士 吉田修平 氏

4.定員    160名(先着順)

5.受講料   3,000円

6.申込締切日  平成27年10月23日(金)

*案内はこちら→

第21回都市ビル環境の日

Ⅰ.クリーンアップ福岡(9:30~11:00)
福岡県内主要都市中心部
*福岡市内においては、大博通り沿線を実施予定

Ⅱ.シンポジウム(15:00~17:00)
会場:水環境館 多目的ホール(北九州市小倉北区船場町1-2)
15:00~ 開会挨拶
15:05~ 来賓挨拶
15:15~ 第8回子ども絵画コンクール入選作品発表
15:25~ 特別講話 演題「北九州市の水・環境国際政策」
北九州市環境局 環境国際戦略部 環境国際戦略課 企画調整係長 金子滋夫
15:55~ 基調講演 テーマ「水まわり設備の進化と課題」
公立大学法人 福岡女子大学 国際文理学部 環境科学科 准教授 豊貞佳奈子

Ⅲ.第8回子ども絵画コンクール
〔北九州地区〕展示期間:平成27年10月1日(木)~10月7日(水)
展示場所:水環境館 展示コーナー(北九州市小倉北区船場町1-2)
〔福岡地区〕展示期間:平成27年10月10日(土)~10月14日(水)
展示場所:あいれふコミュニティプラザ(福岡市中央区舞鶴2丁目5-1)
〔久留米地区〕展示期間:平成27年10月19日(月)~10月28日(水)
展示場所:久留米市役所2階 ホワイエ(久留米市城南町15-3)

ビルの省エネ指南書(52)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

ポンプの搬送動力

1、冷却水大温度差運転
 冷温水の往還温度差を大きくすれば、ポンプ搬送動力の省エネになるといわれるが、果たしてそうであろうか。ビル空調における大温度差運転の意味と可能性を考えてみよう。
 
ビル空調には主に一次ポンプ、二次ポンプ、冷却水ポンプがあるが、現状のままで大温度差運転ができるとすれば二次ポンプだろう。できれば台数制御だけの二次ポンプよりも、インバーターによる回転数制御をおこなっているポンプのほうが、大温度差運転の省エネ効果は大きい。大温度差にするには、冷水ならば往水温度を下げるか、還水温度を上げなければならない。
 
冷房時の冷水往温度が10℃で、還温度が13℃であれば往還温度差は3℃となるが、往温度を7℃にして還温度が13℃のままであれば往還温度差が6℃となり、流量が半分となる。冷凍機の冷水出口温度を3℃下げるだけで流量が半分になるならば、インバーターによる回転数制御では1/8の搬送動力になるはずだが、実際はそう簡単にはいかない。冷水出口温度を3℃下げることは簡単であっても、二方弁が閉まり易くなるので、還温度を13℃のまま維持することが難しいのだ。

2、空調機還水温度
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 この写真は12月中旬に撮った暖房時での空調機の往還冷温水配管の温度計である。
 冷温水(還)の温度計が20℃になっている。時期的には暖房負荷がそれほど多くはない時なので二方弁はかなり閉まった状態だ。
 
二方弁が閉まって来ると温水還温度が、空調機のSA温度近くになるので、このように低い還温度となる。冷房の場合ならばほぼ室温と同じ、冷水還温度28℃といったところであろうか。 

3、空調機往水温度
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 空調機は違うが、同じビルの冷温水(往)の温度だ。48℃になっている。熱源は同じなので、往水温度はどの空調機も殆ど同じはずだ。このくらいの温水温度のビルも多いだろう。
 
空調機の往還温度差は48℃-20℃=28℃になる。これが、二方弁が閉まりかけた状態での温度差である。このように暖房負荷よりも熱供給量が多ければ二方弁が閉まりやすくなるので、簡単に大温度差運転となってしまうが、これを大温度差運転と思ってはいけない。温度差が大きければよいというものではないからだ。

4、空調機二方弁
 
空調機二方弁が徐々に閉まるのは、熱供給量に対して空調負荷が減っているからである。熱使用量が減れば往還温度差が小さくなるような気がするのだが、実際は二方弁が全閉になる瞬間が最大の往還温度差となる。
 
二方弁が全閉に近くなっている空調機の還温度を温度計で確認すれば、冷房時ならば室温以上に、暖房時ならば室温以下になっているだろう。冷房時ならば、冷水出口温度を下げれば、二方弁が閉まりやすくなり還温度が上がるので、結果的には大温度差運転になってしまうのだ。
 
このような意味のない大温度差であっても、温度差しか見ていなければ、大温度差運転だと勘違いしてしまうかもしれない。
 
空調負荷は多い時もあれば、少ない時もある。空調負荷と熱供給量の増減によって、空調機二方弁の開度が違って来るのならば、温度差は成り行き次第となってしまい、大温度差運転をおこなっているとは云えなくなる。
 
同じ流量であっても、往ヘッダ圧力が高くて二方弁が絞られた状態と往ヘッダ圧力を下げて二方弁が全開の状態とでは搬送動力が違って来る。往還ヘッダ差圧が高ければ空調機二方弁が閉まりやすくなり、二方弁が閉まれば大温度差になる。このような大温度差では、逆に搬送動力が増える大温度差運転になる可能性もある。

5、空調機内部の温度
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 これは空調機の伝熱フィン出口部分である。空調機内を流れる伝熱フィン手前の気流は還気+外気である。暖房時に空調機二方弁が殆ど閉まった状態で、少量の温水が熱コイルに流れているとすれば、還気+外気により熱コイルの温水温度は熱コイル入口で一気に下がってしまい、48℃の温水が熱コイル出口ではSA温度近くになるだろう。外気量が多ければ、20℃以下のSA温度になることもある。
 
往ヘッダの圧力が上がれば往還ヘッダ自動バイパス弁が開いて圧力を逃がすだろう。インバーターによる回転数制御であっても最低周波数を下げるには限度があるので、結局は圧力を逃がすことになる。大温度差であっても最低限の搬送動力は必要となるのならば、その搬送動力を無駄に逃がすよりも使ったほうが良いはずだ。

6大温度差運転の基準
 
大温度差運転をおこなうには何を基準とするのかを示す必要がある。基準を決めずに大温度差で搬送動力を削減するといっても、温度差が大きければよいのかと誤解をすることになる。
 
二次側の冷温水循環経路で考えれば、空調機の二方弁開度100%が基準として分かりやすい。100%ならば無意味な大温度差になることは無い。この基準を示さずに、成り行き次第の開度で大温度差運転といっても意味はないのだ。
 
大温度差運転とは空調機二方弁が閉まっての小流量大温度差ではなく、二方弁全開での小流量大温度差で搬送動力の低減を目指すことだ。
 
二方弁全開で冷温水がゆっくりと循環する状態を想像してほしい。二方弁が全開となるように、冷温水温度を調整しながら往還ヘッダ差圧を下げて、台数制御ならばできるだけ少ない運転台数で、回転数制御ならばできるだけ低い周波数で運転するのだ。このほうが、二方弁が閉まる大温度差運転よりも、熱コイルでの流量は増えて、温度差も小さくなるだろうが、往還ヘッダ差圧を下げて送水圧力を低くしているので、二方弁の影響による圧損はなくなり、バイパス弁での無駄な逃げもなくなる。
 
空調機熱コイルでの熱使用量が同じだとすれば、余裕のある冷温水出口温度と往還ヘッダ差圧により二方弁が閉まった状態での28℃の大温度差運転よりも、余裕のない冷温水出口温度と往還ヘッダ差圧により、二方弁が全開となった運転のほうが、流量が増えたとしても搬送動力が少なくて済み、熱の省エネにもなるのだ。
 
大温度差という言葉と水温に惑わされずに、供給熱量と使用熱量のバランスを考えて、省エネに繋がる大温度差運転をおこなってほしい。

ビルの省エネ指南書(51)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

水冷冷却塔

1、冷却水ポンプ

冷却水温度によって流量を変えることができれば冷却水ポンプの省エネになるだろう。

ファンのON・OFF制御で水温を調整している冷却塔は多いが、冷却水ポンプでの変流量制御をおこなっている冷却塔はまだ少数である。

冷却水ポンプの吐出バルブを絞っている場合も多いので、冷却水温度に応じた変流量制御をおこなっても支障はないはずだ。

ポンプの回転数を制御して冷却水流量を減らす省エネ効果は大きいが、夏季だけしか運転しない冷却水ポンプの運転時間が短いため、設備投資回収までに時間がかかるだろう。

電力デマンド低減効果も考えたうえで、インバーターの導入を検討したい。

冷却水ポンプは一次ポンプ等よりも大容量であり、温度制御まで含めると、インバーター導入にはかなりの費用が必要となる。

そこで設備管理員だけでできる、費用のかからない冷却塔の省エネ対策を紹介する。

2、冷却塔

冷却塔には、循環する冷却水を冷却塔内に直接散布して冷却する開放式冷却塔と、冷却水が密閉配管内を循環して、冷却塔内の散布水で間接的に冷却する密閉式冷却塔がある。どちらの冷却塔の場合でも、節水のために電気伝導率を高く設定していると、冷却塔内の水が濃縮して、汚れと共に濁ってくるのが分かるはずだ。

冷却水が濃縮すると水の蒸発効率が悪くなり、冷却水温度が上がれば、吸収式冷温水機やターボ冷凍機等の冷凍機の効率が悪くなる。冷房ピーク時には冷水出口温度が思うように下がらないことを経験した設備管理員もいるだろう。

冷却水温度を下げるために、電気伝導率を低く設定してブロア量を増やしたほうが、蒸発効率の向上と水温の低い上水の給水量増加とで冷却水温度が下がり、冷凍機の効率も良くなるはずだ。このほうが省エネになることが分かっていても、水道料金を考えると電気伝導率を上げざるを得ないのが現状であろう。

3、雨水利用のビル

ブロア量を増やしても水道料金が上がらないビルがある。それは雨水を中水として、トイレ等で再利用しているビルだ。

オフィスビルや商業ビルでは、トイレで使う中水は、梅雨時以外は雨量が足りないために上水や中水を補給しているはずだ。中水として使用する水の90%以上が補給水だというビルも多いのではないだろうか。せっかく浄化設備があるのに、上水や中水を中水槽へ補給して使用するのは勿体無い話である。中水槽に補給するぐらいならば上水を冷却塔のブロア水として一度使い、冷却塔からオーバーフローした水を雨水槽に回収して中水として使えば、同じ水を二度使うのだから効率的であり、水道料金を増やさずに冷却水の電気伝導率を下げることができる。

試しに冷却水の電気伝導率設定を下げて、中水槽への補給水が無くなるぐらいにブロア量を増やしてみればよいだろう。冷却水温度が下がり、冷却塔下部水槽の水が綺麗に澄んで来るのが実感できるはずだ。

無駄なブロアは避けたい。特に雨天時は雨量、雨水貯水量、電気伝導率を考慮して、ブロア量を調整したい。雨水槽が満杯で放流するようになってまでブロアを続ける必要はないからだ。

4、オーバーフロー

冷却塔からオーバーフローする水は、冷却塔で冷却された冷却水とブロア水である。このように温度の下がった冷却水をオーバーフローさせるよりも、冷却塔上部から温度の高い冷却水を抜く方が、冷却水温度を低下させるという意味では効率的だ。冷却した水を排水するよりも、水温が高いままで排水させ、その量の上水をブロアさせたほうが、冷却水温度が下がるからだ。

写真の矢印のような上部水槽に入る手前の位置にドレン管を設ければ、運転中のみ屋上に排水できる。ドレン管にバルブを設けて開度を調整できれば、電気伝導率で制御していない冷却塔であってもブロア量の調整が可能となる。
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オーバーフローさせる方が簡単ではあるが、下部水槽の水位が高いので、冷却塔停止時に冷却塔上部水槽の水が下部水槽に落ちて来ると全てがオーバーフローしてしまう。

冷却塔上部から抜く方法ならば、冷却塔下部水槽の水位はボールタップの水位なので、オーバーフローすることはないだろう。

オーバーフローさせるのは運転中だけでよい。

5、開放式冷却塔

雨水を利用していないビルでも、ビル内の排水を浄化した後、中水として再利用しているビルであれば、排水した冷却水を処理水槽まで導くことができるならば再利用は可能である。

処理水槽は地下にあることが多いだろう。冷凍機もその近くにあるならば回収経路を調べたい。

冷却水が冷凍機を出た後にドレン管があればそこから抜けばよいが、処理水槽に繋がっていて水を回収できなければ再利用はできない。

このように冷却水配管のドレンから直接水を抜くことができるのは開放式冷却塔の場合だ。

ドレンを利用する場合の注意点は、ドレンのバルブを冷凍機運転の都度手動で開閉しなければならないことだ。冷却塔の上部から抜くのならば、冷却水ポンプの吐出圧力を利用して、運転中だけ抜くことが出来ても、冷却水配管の最下部から抜くとなると、停止時にも抜けてしまうので、冷凍機運転中だけバルブを開けて、停止させるときにはバルブを閉め忘れないようにしなければならない。閉め忘れると不必要な水道料金が増えるだけである。

最下部から水を抜くメリットは冷却水配管下部に沈殿した粉塵等の汚れを除去できることだ。

開放式冷却塔と冷凍機の設置位置に高低差があれば、冷却塔下部水槽の底に沈殿しているような粉塵的な汚れが、冷却水配管の最下部にも沈殿していて当然だ。このような汚れをドレンから抜くことができるのだ。

5、密閉式冷却塔

密閉式冷却塔は、冷却塔から直接水を抜いて回収しなければならない。屋上の冷却塔から地下の処理水槽までとなると冷却水を回収するのは難しいので、雨水槽へ回収できなければ冷却水の再利用はできないかもしれない。

冷却水の回収の可否等を調査してほしい。

意外な回収経路が見つかるかもしれない。

若干のドレン工事費が掛かるが、冷却塔上部の温度の高い水を抜いたほうがよいのは、開放式冷却塔の場合と同じである。

6、薬剤注入

冷却塔に薬剤を注入しているだろうか。

ブロア水量を多くした結果、冷却塔下部水槽の水が澄んで来るということは、薬剤の濃度も薄くなっているということでもある。

薬剤の注入量を増やして薬剤濃度を維持するべきか、薬剤の注入を止めるべきかの判断が必要となる。電気伝導率の下がった冷却水の水質検査等を行ってから検討するのも良いだろう。

冷凍機が停止する1時間程前にブロアを停止させてから薬剤注入を開始するという方法もある。翌日運転を開始するまでの間は、薬剤の入った冷却水になっているので、レジオネラ菌対策にもなるだろう。これならば薬剤注入時間が短いので、高価な薬剤の節約にもなる。

安全面、メンテナンス、経費、省エネ等を考えて、最も適切と思われる方法を選べばよい。

ビルの省エネ指南書(50)

熱源機械室のチューニング(14

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

  1. 空調機二方弁開度(3/3)

7、積分動作
 あるビルでは、全ての空調機に比例値と積分値が設定されていたが、空調機毎に設定値が違っていた。竣工時に自動入力で設定しているからだろう。
 
一般的には積分値は「120」が入力されている場合が多いようだ。この数値がそのまま「秒」を表しているのならば分かりやすいが、念のために数値と秒の関係は確認しておいたほうが良いだろう。
 
空調機毎に設定値を変える必要がなければ、全てのデジタル指示調節計に同じ積分値が入っていたほうがメンテナンス的にも分かりやすい。
 
積分値が大きくなればなるほど、二方弁の動作が遅くなり、小さな値にすればするほど、二方弁の動作が速くなる。入力された積分時間で比例値のグラフを左右に移動させながら、二方弁の開度を変化させて、指示値を設定値に近づけているのだが、あまり小さな値にすると設定値を行き過ぎるオーバーシュートや指示温度が上下に振動するハンチングが起こりやすくなるので、小さければよいものでもない。初期値を「120」にしてから、いろいろと試して、ビルに合った最適な積分値を探し出せばよいだろう。

8、地域冷暖房とPID制御
 地域冷暖房の場合は熱にデマンドがあるので、全ての空調機の二方弁が同時に全開になって欲しくないこともある。このような場合はわざと大きな比例値と積分値を入れて、二方弁の動きを遅くするのもよいだろう。一斉に流量が増えることが無くなるので、デマンド管理はやりやすいはずだ。

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 これは比例値を±3℃に設定したグラフである。二方弁の動作がかなり緩やかになっていることが分かるだろう。
 
±1℃ならば1℃の差で全開になるが、±3℃ならば1℃の差があっても、開度63%にしかならないので、それだけ熱交換量も少なくなり、地域冷暖房でのデマンド対策にもなる。
 
デマンド対策にはなっても、それだけ二方弁開度が小さくなるので、設定温度に達するのに時間がかかるが、デマンド対策として一部の空調機を停止させるよりはましだろう。
 
比例値と積分値は初めから大きな数値を入力せず、現在の数値から徐々に大きくしていき、室温とデマンドの妥協点を探し出せばよい。

9、微分(D)値
 写真のように微分値は「0」になっている場合が多いようだ。微分値が入力されているデジタル指示調節計を見たことがないので、微分動作は空調ではあまり使われていないのだろう。
 
微分動作は温度の急激な変化を抑える動作なのだが、空調の場合はそれほど急激に室温が変化することはないので必要がないのかもしれない。

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 10、入力ミス
 以前、設備管理をおこなっていたビルでの話だが、ある空調区画だけ冷房の効きが悪く、結果的にこの空調機が基準となって、他の空調機から見れば余裕のある冷水出口温度と流量になっていた。
 
その頃は二方弁の開度に気を配ることもなく、冷房の効きが悪いのだから、冷水温度を上げることを考えることもなかったのだが、後にこの空調機だけ二方弁開度が50%から殆ど変化しないために、流量が不足していたのが原因だと判明した。
 
十数台ある空調機の制御は比例制御のみで、この空調機だけ比例値が異常に大きかったのだ。竣工時からの初期設定時の入力ミスであろう。
 
設定値と指示値の温度差により比例値に対応した二方弁の開度が決まるのだが、比例値が±50℃になっていればどのようになるのか考えてみたい。
 
次のグラフのように二方弁開度が50%から殆ど動かないことが分かる。設定温度よりも1℃上がっても開度は51%にしかならない。これでは二方弁が開度50%から殆ど動かないのと同じである。

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 冷房であれば設定温度より50℃も上がらなければ二方弁が全開とはならないのだ。28℃設定ならば室温が78℃になった時に全開になるのだから、あり得ない話である。たった1台の空調機の単純な入力ミスのために冷水出口温度を上げることもできず、その他の空調機にとっては必要のない余裕のある冷水を無駄に供給していたのだ。
 
これでは熱源チューニングができる訳がない。この単純ミスに気付くかどうかが省エネとの分かれ目であり、気づいて幸いであった。省エネのポイントはこのようなところにも隠れているのだ。
 
二方弁のチューニングは開度のみに注目するのではなく、ビル内にある空調機全てのPID制御による動作までを含めてチューニングしなければならないことが実感できた、貴重な経験であった。

11、手動制御
 次のグラフは冷房時のPI制御で、設定温度が28℃の時に二方弁が丁度全開となっている。 これ以上は二方弁を開方向に自動制御できないので、ここからは手動で冷水温度や流量を制御しなければならない。もしこのまま何もしなければ、室内温度が28℃以上に上がっても冷熱供給量は増えないので、暑いというクレームが来ることは必定である。手動で冷水温度を下げるか流量を増やして、二方弁全開のまま28℃を維持できるように、冷熱供給量を調整するのが手動制御である。

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 設定温度を維持するために二方弁開度を自動制御するPID制御と比較して、設定温度を維持するために、熱の供給量を手動で調整して、常に二方弁が全開となるようにするのだからかなり難しい。
 
二方弁が丁度全開となるように室温に目を配りながら、PI値も考慮した冷水温度と流量を判断して冷熱供給量を調整しなければならない。
 
設備管理員の仕事量が大幅に増える手動制御は、技術力に自信がなければできない制御でもある。

12、空調機の日常点検
 設備管理の業務として、空調機の日常点検を行っているはずだ。その点検項目に空調機の二方弁開度を記入する項目があるだろうか。無ければ作られることをお勧めする。前述のような単純な入力ミスを発見することに繋がるだけではなく、どの時間帯はどの空調機が最も空調負荷が高くなっているのかを、開度を見て把握できるようになる。
 
空調機のSA,RA,OA,EAの各ダンパーの開度も二方弁開度に影響するので記録しておくべきだろう。
 
冷温水配管の圧力計等は常に同じ数値である。このような変化のない数値を毎回記録していたのでは、日常点検が点検のための点検となってしまい、問題点があっても見過ごしてしまうだろう。
 
点検は常に考えながら行い、疑問を持ち、問題点が発見できるような点検でなければならない。
 そのためには冷温水温度や二方弁開度のように、常に変化している数値や、ダンパーのように手動で変化させている開度の記録は重要である。