投稿者「福岡ビルメンテナンス協会」のアーカイブ

ビルの省エネ指南書(4)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の2〕
全熱交換機(1)

 全熱交換機は排気と導入外気とを熱交換することによって空調負荷を減らしながら換気ができる、多くのビルで使用されている省エネ設備である

1.省エネ設備か増エネ設備か?
 設備単体としてみれば有効な省エネ設備であるが、運転すれば必ず省エネになる訳ではない。適切な使い方をしなければ省エネにならないばかりか、増エネになる可能性があることを認識したい。
 全熱交換機のあるビルとしては、ビル全体を1台の全熱交換機で賄っている場合や空調機に内蔵されている全熱交換機で、その空調区画だけの熱交換をおこなっている場合が一般的であるが、エアコンで冷暖房している部屋では全熱交換型の換気扇が設置されている場合も最近は数多く見受けられるようになってきた。
 しかし、この何れの場合においても、中間期における冷房運転時の全熱交換機は外気冷房効果がなくなるために、電力を使って冷熱負荷を増やしているようなものなので、状況を判断して運転することが大切である。
 特に部屋毎に設置されている全熱交換型換気扇の場合は、各部屋の利用者が利用方法を知っているかが問題となる。
 熱交換をしたほうが省エネになるのか、しないほうがよいのかの判断を利用者に期待することは難しいため、スイッチ部分に分りやすい表示をするか、管理者側で設定をおこない、こまめに見て回る努力が必要だ。

  (株)西部技研製の全熱交換機

  

(株)西部技研提供図

2.夏季と冬季の場合
 冷房中であっても外気が室温よりも低ければ、全熱交換機を停止させて外気冷房と併用した冷房を行うべきだろう。
 全熱交換機が効力を最大限に発揮するのは、外気を冷房に利用できない夏季と冬季の冷暖房時だ。しかしこのような時であっても、全熱交換機が常に省エネ設備になる訳ではない。
 ビルは排気ファンが多く、何もしなければ結果的にビル内は大気圧に対して負圧になるものだ。負圧のビルは必ず外気の侵入があり、最終的にはビルにおける外気導入量と排気量は必ず等しくなるのだから、EA=OAという式が成り立つ。
 排気量よりも外気導入量のほうが多くてビル内が正圧であれば空気は自然に流出し、外気導入量よりも排気量のほうが多ければビル内が負圧となり、外気が自然に侵入してくる。その点を考慮したうえで全熱交換機の有効性を考えてみたい。

ビルの省エネ指南書(3)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中 村  聡

ビル内気圧のチューニングポイント〔其の1〕
エレベーター機械室(2)

1.福岡市市民福祉プラザ
福岡市市民福祉プラザのエレベーター機械室は排気ファンが無く、年間を通してエアコンで冷房をおこなっている。
写真-1 ダンパー全開の排気口

写真-1のような手動ダンパーで開閉ができる排気口が2か所あり、ダンパーが全開であるため、エレベーターシャフトを通ってエレベーター機械室へ侵入した暖かい空気は、エレベーター機械室で冷房され、そのまま写真‒2のように気圧により自然排気されていた。まさに暖かい空気を冷やしては排気していたのである。
写真2-気圧による自然排気
これは夏季の冷房時でのことであり、無駄にエネルギーを捨てているという意味が分かるだろう。
2.負圧の建物
福岡市市民福祉プラザは建物内が負圧で1階出入口からはドアが開く度に外気が侵入してくるのだが、エレベーター機械室は煙突効果により気圧が上がり、このようなことになるのである。
冬は暖房により暖められた空気をエアコンで冷やしては排気し、建物内にはその分の外気が侵入して暖房負荷となる。煙突効果は空調機停止中も自然発生するため、夜のうちに暖かい空気が排気されてビル内の温度が下がり、朝の暖房負荷が増えることにもなる。
3.ダンパーを閉じる
このようなエネルギーの無駄を失くすために、2ケ所の排気口ダンパーを冷暖房期間中は全閉することにした。ビル最上部には外気に面した開口部は無いほうがよいのだ。煙突効果が発生する最上部を閉じることにより1階の空気が6階に上がることはあるかもしれないが、同じビル内であるから負圧の原因にはならない。
この方が夏季には冷やした空気を捨てることもなく、冬季は建物内の暖かい空気を逃がさなくてすみ、エレベーター機械室の温度を一定に保ちながら、ビル内の負圧を減少させ、結果的にはエアコンの電力消費も減らすことができる。
4.気圧コントロール
中間期の場合は冷房を止めた状態で排気口を全開として、エレベーター機械室の温度が冷房設定温度以下を保てるならば、排気口全開のままでもよいが、保てないのならば全閉のままがよい。
この煙突効果はビル内の温度差が大きくなる冷暖房期間中は大きな効果となり、中間期は小さくなるために、煙突効果だけの気圧上昇による自然排気では機械室の温度を低く保つことは難しいだろう。空調機により外気導入量を増やして気圧を高めることも必要だ。ビル内の気圧と煙突効果をどこまでコントロールできるか次第である。空調機からの給排気量を考えながら、季節毎の最適な調整ができるまで試行錯誤を繰り返す努力が必要となる。写真‒2にあるような道具を作り、エレベーターのドアが開いた瞬間の気流をみれば、その階の煙突効果の有無を見ることができるので、自作してはいかがだろうか。リボン1本の長さ30㎝、幅15㎜を推奨する。

ビルの省エネ指南書(2)

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
   室長 中 村  聡

エレベーター機械室(1)

1、捨てられるエネルギー
 エレベーター機械室はビル内気圧のチューニングポイントだ。しかし、エレベーターそのものがポイントではなく、エレベーターシャフトと機械室がポイントなのだ。調整次第では省エネにもなるが、現実は無意識のうちに無駄にエネルギーを捨てている場所となっている。必要のないエネルギーは捨てたほうが省エネになるが、必要なエネルギーまで捨てていたのでは省エネはできない。

2、エレベーターシャフト
 エレベーターシャフトはビル内では最も煙突効果が発生する場所だ。このエレベーターシャフトが地階から屋上まであるというビルが多いだろう。この煙突効果により暖かい空気が上に押し上げられた結果どのようなことになるのかを考えてみたい。
 エレベーターシャフトは密閉されているから空気の流れがなく、煙突効果はそれほど発生しないと思っておられるかもしれないが、それは間違いである。実際は、ドアの隙間からシャフト内に常時空気を吸い込んでは暖かい空気を押し上げてい
るのだ。休業日のビルで、排気ファンも空調機も停止している時であっても煙突効果が発生しているため、ビル内の空気は自然排気されて、休日明けのビル内は外気と入れ替わっている可能性もある。これは特に冬季において暖房開始時の大きな空調負荷となっている。

3、エレベーター機械室
 エレベーター機械室の下はエレベーターシャフトであり、機械室の床にはワイーヤーが通っている開口部があるため、煙突効果により押し上げられたシャフト内の暖かい空気が、この開口部より機械室に侵入してくる。冷房設備があるエレベーター機械室ならば排気口がない場合もあるが、冷房設備のないエレベーター機械室ならば排気ファンか排気口があるだろう。この排気口が常時開いていれば、ビル内の空気⇒エレベーターシャフト⇒エレベーター機械室⇒排気口、というように自然排気の流れができて、ビル内には外気が常時侵入して空調負荷となる。

4、総合図書館
 総合図書館には冷房設備のないエレベーター機械室が4か所ある。各エレベーター機械室には排気ファンがあり、温度設定により運転するようになっているが、35℃に設定しているため運転しているのは夏季の日中だけだ。しかし、冬季で電源
を切っている排気ファンが勢いよく回転していた。エレベーターシャフト内の暖かい空気は当然に煙突効果により上昇するのだが、その空気はエレベーター機械室に入り、機械室の気圧が大気圧より高くなるために、この圧力による排気で排気
ファンが自然に回ることになる。高層ビルになるほどこの煙突効果が大きくなるため、ビル内が負圧で外気が侵入しているような状態であっても、エレベーター機械室は正圧となり、年間を通した1日24時間の自然排気をすることとなる。
 最上部に位置するエレベーター機械室から排気される空気は温度の高い空気であり、中間期ならば排気したほうがビル内の外気冷房効果を高めるためにも有功のため、このような場合は積極的に自然排気を利用している。しかし、冬季に暖かい空気を排出することは必要な熱を捨てていることになるため、冬季になると排気ファンをビニールで覆って、暖房に利用できる暖かい空気を逃がさないようにした。そして外気冷房が有効な時期になると、この覆ったビニールを取り外すのだ。

ビルの省エネ指南書(1)

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
    室長 中 村  聡

 一般的なビルならば、最もエネルギー使用量が多い設備は照明であり、次が空調だろう。照明の省エネとなると、無駄な点灯を減らすか、あるいは高効率の器具に交換するしか方法がないが、これらは設備管理員だけで行うことはできず、ビルのオーナーや利用者全員の協力も必要となる。
 しかし、空調の省エネならば設備管理員だけでも行うことが可能である。空調の省エネにおいても設備投資が必要な省エネを行うことはできないが、お金をかけない省エネを行い、成果を出すことができれば、設備管理員の技術力が大きな経費削減効果となることを実証でき、ビルメンテナンス会社への信頼度も大きく変わってくるであろう。
 空調で熱を供給する熱源設備を一次側、空調設備となる空調機や排気ファンを二次側とすると、冷温水出口温度などで一次側を管理しているビルは多いが、二次側を温度・湿度・CO2濃度等のように空気環境として管理ができていても、気圧まで管理ができているビルは少ないだろう。
 ビル内の気圧を測定すると、窓が開いているビルの1階と8階では3hPaの気圧差があっても、窓が閉まっている正圧のビルでは、1階出入口の内側と外側の気圧差は測定できない程度の差である。しかしその僅かな気圧差であっても、ドアが開けば中から外へと空気が勢いよく流出するのだ。
 ビル内が正圧・負圧といっても気圧差とはその程度の違いであるが、空気の流出・侵入量は大きな差となって表れてくる。ビルは必ず換気が必要なため機械換気が行われている。機械換気には給気ファンと排気ファンを使用する第一種機械換気、給気ファンだけを使用する第二種機械換気、排気ファンだけを使用する第三種機械換気があるが、これら機械換気も二次側の一部であり、ビル内の空気環境と気圧を左右する重要な要素となる。
 排気ファンを運転中のビルは、空調を行っていない時は第三種機械換気となり、空調を行うと第一種機械換気となるが、機械換気だけではなく自然排気もあるため、ビル全体で見ると圧倒的に排気量が多くなり、第三種機械換気状態となってしまう。
 ドアが開くたびに外気が中へ吹き込んで来るビルが多いのはこのためである。
冷暖房時に外気導入量よりも排気量が多ければ、第三種機械換気のようにビル内は大気圧よりも負圧となり、その分は外気が侵入して空調負荷となる。逆に排気量のほうが少なければ第二種機械換気のようにビル内は正圧となり冷暖房空気を流出させることになる。
 冷暖房時にビル内の気圧が高過ぎても低過ぎても空調負荷となるのならば、排気ファンと自然排気と空調機による換気量を季節毎にバランスよく調整して、CO2濃度を適正に維持しながら、ビル内の気圧を最も省エネになるようにコントロールすることが大切だということが理解できるはずだ。
 この中でも自然排気は電力を使わない排気であり、冷房時に吹き抜け上部にこもった熱気を気圧と煙突効果を利用して押し出せば、電力と熱の省エネにもなる。
次号ではこのビル内気圧のチューニングポイントを紹介する。