ビルの省エネ指南書」カテゴリーアーカイブ

ビルの省エネ指南書(60)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

 不快指数冷房(9

38、保温工事
 天井裏全面に湿度侵入防止も兼ねて、片面にアルミ箔を貼ったグラスウールを敷き詰めたので、除湿器に溜まる水がかなり減ると予測した。
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 翌朝、保存室の除湿器を見に行くと、タンクに溜まった水は工事前と同じ量であり、夏季になると除湿量は保温工事前と同じく、タンク満水の5L×2回の除湿量であった。
片面アルミのグラスウールで湿度の侵入を防げなかったということは、天井から侵入しているのではないのだろう。毎日これだけの湿度が何処からどのような経路で保存室へ侵入するのかという疑問は残るが、外壁からの伝導か小さな隙間からの侵入と思うしかない。
湿度のコントロールが難しく、侵入を防ぐことも難しいのならば、いくら除湿をおこなっても際限のない無駄の繰り返しになってしまう。
湿度的には全く効果のなかった天井裏の保温工事であったが、温度的には非常に効果があった。温度は天井から侵入していたのだろう。
保存室の保温工事後はビルの消費電力量が3%減ったのは、この保存室のエアコン電力削減効果だと思われる。

39、保温工事の結果

 湿度の侵入は防ぐことができなかったが、温度の侵入は防ぐことができたので、エンタルピと不快指数の数値的な比較だけではなく、実践的にも温度を下げて湿度を下げない不快指数冷房の省エネ性が確認できた。
温度も湿度も高いところから低いところへ伝わり、その差が大きくなればなるほど伝わりやすくなり、それだけ伝導量も増える。
冷房温度を下げて外気温度と室内温度の差が大きくなっても、保温により外気温度の室内への侵入や伝導を防ぐことができる。
室内を除湿しないようにすれば、外気湿度と室内湿度の差が大きくならないので、外気湿度の室内への侵入や伝導が最小限に抑えられる。
不快指数冷房をビルや家庭のエアコンでおこなうと、どれだけの節電効果があるのか、実際におこなってみることにした。

40、ワットチェッカー

 小規模ビルや家庭ならば、エアコンで冷房をおこなっているだろう。不快指数冷房をビルの空調機ではなく、エアコンでおこなうことができれば、ビルでおこなえるだけではなく、家庭でもおこなうことが出来るので、全国的な節電効果は非常に大きなものになる。
ビルのエアコンで不快指数冷房の節電効果実験をしたかったが、ビルの場合は数部屋掛け持ちのマルチエアコンも多く、人の出入りが多ければ室内冷房負荷も一定ではなくなる。天候によっては日射の影響も違って来る。これでは正確な比較ができるはずもない。
室外機1台と室内機が複数台で、電源も室外機は三相の場合などもあり、エアコン1台の消費電力量を計測するのも簡単ではない。
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 その点、家庭ならば壁のコンセントにワットチェッカーを取り付けるだけでよいので、1部屋1台のエアコン消費電力量の計測が容易である。
ビルのエアコンでも家庭のエアコンでも不快指数冷房効果は同じなので、家庭のエアコンで計測して、消費電力量を比較することにした。

41、消費電力量の比較

 グラフは家庭の6畳間にあるコンセントにワットチェッカーを取り付けて、エアコンの温度設定は28℃のまま、今日は「通常冷房」、翌日は「不快指数冷房」というように1日置きに切り替えて、毎日の消費電力量を計測したものだ。前年同月の消費電力量と比較するよりも、この方が正確な比較ができるだろう。
 エアコン運転時間は2300~翌700までの8時間で、夜間なので室内にも室外機にも日射の影響は全くない。外気温度の影響はあっても、1日置きに切り替えての計測なので、外気負荷が平準化されて、計測期間中を合計した消費電力量の比較にはそれほど影響はないだろう。室内はテレビも無いし照明も点灯していない。人は私一人だけなので、室内での冷房負荷は8時間一定に保つことができる。
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単位:kWh 通常冷房日(ピンク色) 不快指数冷房日(緑色)

 グラフを見ると、結果は一目瞭然である。

 平成26727日から918日までの54日間の計測合計では、通常冷房日が34.62kwh不快指数冷房日が24.52kwhで、不快指数冷房にすると約30%の節電効果があった。
日毎の消費電力量が違うのは、外気温度の影響である。9月に向けて徐々に外気温度が下がると共に、消費電力量も減っているのが分かる。
グラフの消費電力量は、外気湿度の影響を受けているのか、「通常冷房日」は全体的に上下にバラツキの多いグラフだが、外気湿度の影響を受け難い「不快指数冷房日」は上下のバラツキが少ないグラフなのが特徴的である。

42、冷房負荷と節電率

 グラフでは消費電力量が減るに連れて節電率も減っている。外気温度だけではなく、湿度も7月をピークとして徐々に低くなっているのだろう。湿度が低ければ不快指数冷房の節電効果も低くなるから節電率も低くなるのだ。
家庭の場合は人の出入りが少なく、換気もおこなっていない場合が多いので、外気が入って来る機会が少なく、除湿に使うエネルギーはそれ程多くはないだろう。ビルの場合は人が多くて、換気と外気侵入が多いほど除湿に使うエネルギーが多くなるので、家庭よりもビルのほうが、除湿に使うエネルギーを少なくする不快指数冷房の節電効果は高くなるはずだ。
冷房だけの節電効果なので、年間での節電量は5%程度かもしれないが、夏季はエネルギー使用量の50%前後を冷房で使っているビルが多いので、冷房電力の30%が節電できれば、電力デマンドが15%下がる計算になる。これだけの節電効果があれば、電力会社の電力供給力にも余裕が出ることだろう。

433秒でできる不快指数冷房

 エアコンで不快指数冷房をおこなうのは、空調機でおこなうよりも簡単だ。3秒もあればビルや家庭のエアコンでできるからだ。
3秒で費用もかけずに簡単に実施でき、冷房電力の30%が節電できて、デマンドが15%下がるのならば、文句の付け様がないはずだ。試してみる価値と時間はあるだろう。もし駄目でも3秒で元に戻せるのだ。
次に不快指数冷房をおこなう方法を説明する。

ビルの省エネ指南書(59)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室  
室長 中村 聡

 不快指数冷房(8

33、温度と湿度の省エネ効果比較

 今度はエンタルピと絶対湿度で比較してみよう。
室温は28℃で絶対湿度が違う場合だ。
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 外気の温湿度が3570%の時に、室内を2870%で冷房すると、温度が20%下がり、エンタルピが29.1%下がり、絶対湿度が33.7%下がる。
 
室内を2845%で冷房するとエンタルピが44.6%下がり、絶対湿度が57.9%下がる。エンタルピは44.6%-29.1%=15.5%の差で、絶対湿度は57.9%-33.7%=24.2%の差だ。エネルギーを15.5%多く使うと、絶対湿度が24.2%多く下がるということになる。
 
次に室内の絶対湿度が同じで、室温が違う場合を比較してみる。
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 室内を2457%で冷房すると、温度が31.4%下がり、エンタルピが48.7%下がる。エンタルピは48.7%-44.6%=4.1%の差で、温度は31.4%-20.0%=11.4%の差だ。エネルギーを4.1%多く使うと、温度が11.4%多く下がるということになる。率的には湿度を下げるよりも温度を下げるほうにエネルギーを使った方が効率的である。

34、外気温度と湿度
 
 
外気温度のほうが室内よりも高くて、湿度が低い場合はどうなるだろうか。
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 外気温湿度2850%は、夏季前後の中間期に見受けられる温度と湿度である。冷房中のビル内温湿度2670%は、人からの水蒸気発生があるので、外気よりもビル内の方が絶対湿度が高くなることもあるだろう。温度は外気の方が2℃高いので、屋外からビル内へ熱伝導するが、絶対湿度はビル内の方が高いので、逆にビル内から屋外へ湿度の伝導があるはずだ。わざわざ除湿をしなくても伝導で自然に除湿ができるのだから、不快指数冷房で温度を下げることだけにエネルギーを使えばよい。
 
エンタルピは外気の方が低いので、外気導入量を増やせば外気冷房になるが、外気温度は高いので、不快指数冷房で温度だけを下げるのだ。

35、外気の冷房負荷

 外気が冷房負荷となるには温度と湿度がある。どちらもビル内よりも高いほど冷房負荷となるので、外気冷房として利用する以外はビル内への影響を減らす工夫が必要だ。
 
外気の導入や侵入があれば外気のエンタルピがビル内へ直接入ってくるのだが、窓も無く換気もせず人も居ない密室の場合はどうなるであろうか。外気の熱が壁から伝わって室内へ伝導するのと、外気の水蒸気が壁を通して伝導するのとでは、エネルギー的にどちらが多く入って来て、冷房負荷になるのかを考えなければ、エンタルピの比較だけで、湿度が高い方が省エネになり快適になるとは言い切れないはずだ。
 
外気の導入や侵入や伝導。室内での人や電気機器の冷房負荷。これらを総合的に判断した時の最も効率的な冷房方法を求めて、温度と湿度のどちらを下げてどちらを下げないようにすればよいのかを実践的に探し出す必要がある。

36、温度と湿度の侵入

 室内の換気をおこなえば、外気が直接入って来るので、これを外気の導入と云うならば、侵入は自然に入って来る外気である。ビル内が負圧であればあるほど外気が多く侵入して来る。これも外気導入と同様に冷房負荷になる。
 
外気導入量を増やしてビル内が正圧になれば、侵入口から逆にビル内の空気を押し出すことになるので外気侵入はなくなるが、必要以上の外気導入は冷房負荷が増える原因ともなる。
 
丁度、外気侵入が無くなるように導入量を調整するのが、外気負荷が少なくなるポイントだ。この導入や侵入以外にも間接的に入って来るものに熱伝導がある。水蒸気も壁に伝わり、壁から室内に伝わって来るという意味では熱と同じく水蒸気も伝導である。伝導はビル内の気圧に左右されずに、正圧でも負圧でも、壁や天井、窓から伝わって入って来るのが特徴である。
 
侵入は気圧差の影響を受けるが、伝導は気圧差ではなく、温度差と湿度差の影響を受けてビル内へ入って来るという違いがあるのだ。
 
熱の場合は日射が窓ガラスに当たればガラス自体が熱くなり、その熱が室内に伝導すると同時に、ガラスを透過した日射が室内に直接熱を与える。これが伝導と透過である。
 
外気と室内のエンタルピを比較するだけでは、温度を下げて湿度を下げない冷房をおこなったほうが省エネになるが、数値の比較だけではなく、外気の温度と湿度、つまり外気の熱と水蒸気のどちらがビル内への伝導量が多いのかで、不快指数冷房の調整方法も違って来るはずだ。
 
温度の方が湿度よりも伝導しやすいのであれば、室内温度を下げれば下げるほど外気の熱が伝導して冷房負荷が増える。逆に温度の高い冷房をおこなえば、熱は伝導し難くなる。
 
湿度の方が温度よりも伝導しやすいのであれば、室内湿度を下げれば下げるほど外気の水蒸気が伝導して冷房負荷が増える。逆に湿度の高い冷房をおこなえば、水蒸気は伝導し難くなる。
 
室内温度と湿度の伝導しやすいほうを下げないようにしながら、伝導し難いほうを下げたほうが、エンタルピとしての伝導量が少なくなるので、それだけ冷房負荷も減るだろう。

37、保存室の保温

 1850%の保存室での例である。エアコンで除湿を行なっていたが、除湿をすれば室温が下がり過ぎて、真夏でも再熱を行わなければならなかったので、除湿器1台を追加してエアコンでの除湿負荷を減らすことにした。
 
エアコンと除湿器の併用で、室温が設定以下にならないような除湿ができれば、再熱で無駄な電力を使う必要もなくなるだろう。
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  この保存室は窓も無く、人の出入りも殆どない密室である。ドアはパッキンで密封されており、ドアの室内側にもう一枚のドアがある風除室的な二重のドアである。保存室に入るには外側のドアを開けて入り、閉めてから内側の開けるというようになっている。この外側ドアの手前スペースも外気が入らない狭いエレベーターホールなので、給排気ファンを運転しない限りは、直接保存室に外気が入ることはない。
 
壁と床はコンクリートで囲われており、室内側の壁と天井は石膏ボード覆われている。ここまでは窓やドアを別とすれば通常の部屋と同じだが、さらに室内側全面が木材で覆われている、室内に木製の部屋がある二重構造の保存室だ。
 
天井裏だけは石膏ボードと木材による二重天井の上が、広い空間となっている。ほぼ完全密閉状態のこの保存室が周囲から温度・湿度の影響を受けるとすれば、この天井裏からの可能性が高いだろう。そこでこの天井裏に片面アルミのグラスウールを敷き詰めることにした。これならば保温にもなり天井裏からの湿気の侵入や伝導も減少すると考えたからだ。

ビルの省エネ指南書(58)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室  
室長 中村 聡

空調のチューニングポイント

不快指数冷房(7

29、指標

 体感的な温度を表す指標は他にもあるが、なぜ不快指数を使うのかと云えば、ビルの空調で設備管理員が調整できるのが温度と湿度だからだ。 
 冷房は除湿になるが、自動で湿度制御はできないだろうから、手動調整により除湿量が少なくなるようにするテクニックが必要となる。
 冷水を循環させて空調機やファンコイルで冷房しているのであれば、冷水温度をできるだけ高くすることで除湿量がコントロールできる。
 冷水温度が高くなり冷熱供給量が不足するようならば、流量を増やして補えばよい。冷房は空気のエンタルピを下げることであり、エンタルピは温度と湿度で表される。不快指数も温度と湿度で表される。これが重要なのだ。
 エンタルピと不快指数は比例している訳ではないので、同じ不快指数ならば、できるだけエンタルピを下げない冷房をおこなえば、それだけ少ない冷熱で、同じ快適性を得られる。
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    現在の室内温度と湿度でエンタルピと不快指数を計算して、同じ不快指数で現在よりも高いエンタルピとなるように温度と湿度を調整すれば省エネになるのだ。
 温度と湿度以外の要素が入る指標を使うとこのような計算ができなくなるので注意したい。
 単に快適性を表すために不快指数を使うのではなく、同じ快適性を維持しながら、できるだけ高いエンタルピにして、省エネ冷房をおこなうための換算値的に使うのが目的なのだ。

30、エンタルピと不快指数
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 この表では27℃60%は28℃45%よりもエンタルピが高く、省エネ性を重視した設定だが、不快指数が僅かに高くなっている。
 26℃65%は28℃45%よりもエンタルピが高く、省エネ性を重視した設定のまま不快指数は低くなっており、28℃45%と比較すれば、省エネと快適性の両立ができている。
 省エネ性はエンタルピで表し、快適性は不快指数で表しているからこそ分かることであり、設備管理員もこれらの数値を参考にして、省エネと快適性の両立を目的とした温度と湿度に調整することができるだろう。
 不快指数の欄がPMVのような指標ではどうなるだろうか。着衣量や代謝量などの人間的要素が入った指標では、ビルの設備管理員が調整できるものではなく、気流にしても設備管理員が調整できる余地はあまりなく、室内給気が変風量ならば自動で風量が変わるので、指標も常時変わることになり、設備管理員は対応できないだろう。このように温度と湿度以外の、設備管理員が調整できない要素が入ると、エンタルピとの比較ができなくなり、温度と湿度をどのように調整すれば省エネになり快適になるのかが分からなくなってしまう。
 PMVは設備管理員が温度と湿度を調整して省エネをおこなうために使う指標ではなく、体感的な快適性を評価するための指標なのだ。
 不快指数冷房で使う不快指数は、体感的な快適性を評価するだけが目的ではなく、〔温度・湿度〕〔不快指数〕〔エンタルピ)の三者を関連させて、より省エネになるように〔温度・湿度〕を調整するための指標となるものだ。
 現在の室内状況に応じて、不快指数を上げてもよいし下げてもよいので、その不快指数を目標にエンタルピを考えながら、最も省エネになるように温度と湿度に調整するのだ。

31、温度と湿度

 不快指数冷房を知るうえで、室内の温度を上げる代わりに湿度を下げて省エネ行う場合と、温度を下げる代わりに湿度を上げて省エネを行うのでは、どちらがより省エネになるのかを次の表で比較してみたい。
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 現在の室内温湿度が28℃50%であったとして、これを32℃35%にすると、エンタルピは大差がないのに不快指数は2.6も高くなっている。
 32℃に温度を上げて省エネをしているつもりが、大した省エネにはならず、不快指数が上がるだけで、無駄な我慢をするだけとなる。32℃の冷房はあり得ないにしても、温度をこれだけ上げても省エネにならないことが分かるだろう。
 逆に温度を25℃に下げて、代わりに湿度を70%にまで上げると、エンタルピが32℃35%の時よりも上がり、エンタルピを下げない冷房ができている分だけ省エネになる。
 不快指数は28℃50%よりも1.8下がり、32℃35%と比べれば4.4も下がっている。
 表では25℃70%の時が最も省エネになり快適になることが分かる。表の比較だけでは温度を下げて湿度を下げない冷房を行うのが、快適性の面でも省エネの面でも得だということになる。
 温度を上げて湿度も上げれば最も省エネ効果はあるのだが、それでは冷房とは云えない。
 ビル内の快適な環境を目指すための冷房であるならば、できるだけエネルギーを使わずに快適性を追求するのがビルの設備管理員の技術力であり仕事だとも云えるだろう。それを実現するのがこの不快指数冷房なのである。

32、不快指数冷房の効果

 比較のためだけの表ではなく、実際に冷房をおこなった場合を想定した数値で、不快指数冷房の省エネ効果を算出してみよう。
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 外気の温度と湿度が35℃70%はかなり蒸し暑い日だ。室内の温度と湿度28℃45%はビルの冷房ではよくある温度と湿度である。同じく26℃67%は不快指数冷房をおこなった場合の例である。同じ体感温度を得る場合の省エネ効果を比較するために不快指数は75にしている。
 実際の冷房では不快指数が75を超えることもあるが、冷房は外気の不快指数との差も影響する。表のように外気不快指数が88.9もあれば室内不快指数75でも涼しく感じるのだが、外気の不快指数が77~78の時に室内の不快指数が75ではかなり不快感があるだろう。
 表の28℃45%では外気よりもエンタルピが44.6%下がり、26℃67%では37.6%下がる。その差は44.6%―37.6%=7.0%である。
 苦労して不快指数冷房をおこなっても、今までの冷房と比べて7%の省エネ効果しかないのかと思うかもしれないが、実際におこなってみると、この何倍もの省エネ効果があるのだ。
 冷房とは単に外気と比較するのではなく、換気量の差もあり、壁からの熱伝導もある。濃い色の壁ならば熱を吸収しやすく、それだけ熱伝導で入って来る熱量が増える。白い色の壁ならば日射を反射するので、熱伝導は少なくなる。窓ガラスへの日射の有無でも違って来る。伝導は熱だけではなく、水蒸気も伝導で入ってくる。室内人数が多ければ、人が発生する熱や水蒸気も多くなる。電気機器の発熱もある。それらが全て不快指数冷房に影響するので、ビルの構造と使用状況毎に、不快指数冷房をおこなった場合の省エネ効果が大きく違ってくるだろう。

ビルの省エネ指南書(57)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

コンピューター室

無停電電源装置

1、UPSの直列接続

 コンピューター室内の機器も更新される度に小型化されて小電力になっている。
以前は大容量UPSを使用していたが、現在は機器毎に小容量UPSを備えるようになっているのに、大容量UPSもそのまま使用しているため、結果的にUPSが直列接続になり、小容量UPSが大容量UPSの負荷になっていることがある。このように直列にUPSを使用しているようならば、大容量UPSを停止出来ないかを検討してみてはどうだろうか。
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 UPSが直列に接続されていても、緊急性が要求される用途で使われている大容量UPSを停止させることは難しいかもしれないが、停止できるのであれば、バッテリー交換等の高額なメンテ費用も節約でき、36524時間運転なので節電効果も大きいはずだ。

2、UPSの必要性

 瞬間的な停電や電圧低下は時々あるが、瞬停よりも瞬低の場合が殆どだろう。瞬低があったとしても、デスクトップパソコンを使用中に気付くことは無いだろうし、家庭でテレビを見ていても気付いたことは無いはずだ。
 
このような電子機器は安定化電源で作動しているため、瞬間的な電圧変動は吸収してしまうので気付くことは無いが、照明ならばチラつきがあり、水銀灯であれば消灯することがあるので、瞬低があれば気付くこともあるだろう。大容量UPSがあるならば発電機もあるはずだ。
 
大容量UPSは瞬低にも対応できるが、停電時に非常用発電機が起動するまでの1分間程度の給電に用いられるのが主な用途である。
 
この程度の停電ならば小容量UPSでもバックアップでき、それ以上の停電になるようならば、この小容量UPSでコンピューターの電源を落とすこともできる。それなのに直列接続してまで大容量UPSを使う必要があるのだろうか。
 
停電になって非常用発電機が起動しても、発電機で全ての照明が点灯する訳ではなく、ビル内の空調も停止したままだろう。夏季ならば30分もすればビル内の温度が上がってしまう。
 
長時間の停電に対応できるビルは、発電機の容量が大きくて燃料の備蓄が豊富なビルであるが、それでも燃料タンク容量の半分程度まで減らないと燃料の補給はしないだろうから、燃料タンクが常に満タンである訳ではない。燃料タンク内の底部の燃料までは使用できないので、実質的には燃料タンク容量の40%以下しか使用できる燃料がないということもあるだろう。これでは非常用発電機があっても、最悪の場合は半日程度給電ができればよいほうである。
 
そうなれば復電の目途が立っていなければ営業続行は困難であり、発電機が起動した時点でコンピューターの電源を落として、復電後に立ち上げることを考えるしかないだろう。

 3、大容量UPSを停止

 11年間運転してきたコンピューター室用の大容量UPSを停止させた例がある。バッテリーの交換期限は過ぎているのだが、1,000万円以上もかかる交換費用の工面が困難であることも停止させた理由のひとつだ。
 
コンピューター室の機器が更新されてからは、各機器が小容量UPSを持つようになっており、UPSが直列接続の状態であったので、この大容量UPSを停止させ、バッテリーも取外し、コンピューター室への配線は直結した。
 
商用電源も安定しておりCVCFとしての用途も必要はなく、小容量UPSへの入力電圧が規定値に収まるように調整しているだけだ。
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 このUPS室は年間冷房が必要である。エアコンは電気室と共用であったため、冬季は冷やす必要の無い電気室まで冷房していたが、UPS停止後は冬季の冷房を停止できた。
 
もしUPS室専用のエアコンならば年間の冷房停止による節電効果があるだろう。

 4、UPSの消費電力

  36524時間運転していたこの1台の大容量UPSが、どれだけの電力を消費していたのか、停止前と停止後のデータを比較してみる。
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 この表はUPS停止前1年間と停止後1年間のビル全体の消費電力量(千kWh)である。ビルの休業日が1日違えば3%程度の違いがあるため、UPS停止後の方が増えている月もあるが、1年間で比較すれば7.0%の削減となった。しかしUPS停止以外の節電対策も行っており、前年比だけではUPSの節電効果が分からない。
  UPS停止前後5日間を比較すると4.2%の節電であった。デマンドは約14㎾の低減である。これは電気室の冷房を行なっている9月の比較であり、このビルに関しては冬季になると冷房停止による節電量がさらに上積みされるので、4.2%以上の節電となるはずだ。55

 5、UPS停止の効果

  これだけの節電量、デマンド低減、メンテナンス費用の一石鳥の経費節減効果が得られるのであるから、UPSの直列接続が必要なのかをよく考えてみたい。
 
大容量UPSを使っていた11年余、この間にUPSが必要となった停電は一度もなく、停止後8年余も停電は無かった。停電があったとしても発電機が起動して給電を開始するまでの1分間程度を小容量UPSで対応するかコンピューターの電源を落とせばよいだけだ。
 
直列で使えば、どちらかが故障しても給電ができるかもしれないが、20年間も停電がなく、10年間以上も故障のなかったUPSである。UPSの故障と停電が同時に発生する確率は非常に小さく、むしろコンピューター等のシステム機器が故障する確率の方がはるかに大きいはずなので、こちらの心配をしたほうが現実的だろう。
 
このような大容量UPSを停止することは、簡単なことだと思うかもしれないが、停止後に何らかのトラブルがあった場合に管理責任問題になるよりも、現状を維持して責任を回避したほうが良いと考えるのが、ビル管理権原者としては普通かもしれない。それにもかかわらず大容量UPSを停止させて節電をおこない、経費も大幅に削減したのであるから、このビルの管理権原者の英断は評価されるべきであろう。

ビルの省エネ指南書(56)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

恒温恒湿(2

6、蒸気加湿による無駄の連続

 冬季は外気湿度が低くなるので、恒湿が必要ならばコンピューター室も加湿が必要だ。室内湿度を上げるために電気ヒーターで水を蒸発させても、外気温度が低いために冷房負荷も少なくなっており、僅かな冷房で恒温は維持できるだろう。外気導入量を増やせば外気だけでも冷房できるかもしれないが、乾燥した空気を導入すれば、それだけ加湿量も増やさなければならない。外気は必要以上の導入を避けたほうがよいのだが、雨天時などの湿度が高い外気を積極的に導入すれば、コンピューター室の冷房も加湿も最小限で済むはずだ。冬季の外気導入は温度的にはメリットがあるのだが、湿度的なデメリットも考慮するならば、外気湿度を優先して導入量を調整するほうが良いだろう。
 
外気を導入すれば同量の排気をすることにもなるが、屋外ではなくビル内に排気して、ビル内の加湿と暖房に利用するという方法もある。
 
中間期も乾燥しているが、外気温度が低くはないので、外気冷房の効果はあまり期待できない。外気導入はデメリットの方が大きいだろう。
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 蒸気加湿で恒湿になった時にはヒーターの熱で室温が上がり、室温を下げるためにまた冷房をしなければ恒温は維持できなくなる。しかし冷房は除湿にもなり、外気が侵入すれば室内がさらに乾燥するので、また加湿する。その結果、室温が上がる。エネルギーを次々と使う、無駄の連続になっているのが分かるだろう。

7、市販の加湿器

蒸気で加湿を行うからこのような無駄の連続になるならば、蒸気での加湿を止めれば、このような無駄は無くなる。代わりに市販されている加湿器が利用できないかを考えてみよう。加湿器はスチーム式、超音波式、気化式がある。スチーム式はコンピューター室では最も用いられている方式なので、同じ方式の加湿器を利用する意味はない。発熱機器の少ない室内ならば電気ヒーターの発熱が暖房を兼ねることもできるが、コンピューター室では発熱が冷房負荷になるだけだ。
 
超音波式は水の細かい粒子を室内に噴霧して蒸発させる方式で、電気ヒーターで加熱する訳ではないので温度的なデメリットはないが、水に含まれているミネラル分も噴霧されるため、静電気を帯びているものに吸着して、電気機器等が真っ白になってしまう。これではコンピューター室の加湿に使うことはできない。
 
気化式は水を加湿器内で蒸発させる方式で、電気機器等が真っ白になる心配はない。ビルの空調で云えば浸透膜式の加湿になる。電気ヒーターを使わないので消費電力も少なく、水の気化熱で室温が下がるという冷房上のメリットもある。水のミネラル分は加湿器内の浸透膜に付着するので定期的な清掃や交換が必要になる。
 
コンピューター室の加湿に最適な要素が揃っているのだが、気化式の加湿器は加湿能力が低いのか、あまり利用されていないようだ。

8、冷風扇

 加湿能力の高い気化式であれば加湿器に限る必要はない。同じ効果があるものに冷風扇がある。最近は色々な能力の機種や、デザイン的に室内で使用しても違和感のない機種が販売されている。家庭用の加湿器と比べてかなり大型なので、加湿器よりも10倍の蒸発能力のある冷風扇ならば、コンピューター室の加湿でも能力が不足することもなく、水が蒸発する気化熱での冷房効果も期待できる。湿度設定のある機種ならば恒湿も可能だ。水は浸透膜や水冷式冷却塔のように充填材に滴下しながら蒸発するので、付着したミネラル分の除去が必要になる点は加湿器と同様だ。問題は水である。蒸発量が多過ぎて水の補給が大変なのだ。室内水栓の有無次第だが、自動で給水できる機種もあるので、コンピューター室の広さなどを考慮して、恒湿維持に最適な機種を選ぶとよい。

 

9、無駄な冷房が無くなる

 

 冷風扇で気化加湿を行い恒湿にする。加湿と同時に、気化熱により温度も下がるため、僅かな冷房で恒温となる。外気侵入と気化加湿により温度が下がっても、コンピューター室内の発熱と相殺できるはずだ。
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 加湿のために室内温度を上げる要素がなく、冷房も少なくて済む。冬季に効率的な恒温恒湿を行うならばこのようになるが、恒湿にこだわる必要がないのならば、70%以上で除湿、40%以下で加湿というように湿度幅を持たせて、できるだけ冬季の加湿と夏季の除湿をしなくて済む設定にできないかを検討してみたい。

10、保存室

 特殊な用途ではあるが、美術館、博物館、図書館等には美術品や古文書、フィルム等を保管するための恒温恒湿の保存室があるだろう。このような保管を目的とした部屋は発熱機器がないため、コンピューター室とは違い、冬季は室温が下がり過ぎるので、恒温のためには冷房ではなく暖房が必要となる。1850%で保存しているとすれば、コンピューター室と同じ湿度50%であっても、絶対湿度はさらに乾燥状態になっている。夏季の外気温湿度を3375%、冬季の外気温湿度を540%と仮定して、コンピューター室、保存室の温度・相対湿度・絶対湿度・エンタルピを比較してみると、夏季は外気よりも温度で15℃、絶対湿度で0.0177(g/g D.A.)下げなければならず、冬季は温度で13℃、絶対湿度で0.0043(g/g D.A.)上げなければならない。
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 エンタルピ的にはコンピューター室よりもかなり下げなければならないが、コンピューター室には発熱機器があるので、夏季の冷房負荷としては同等と考えてもよいだろう。
 
除湿はコンピューター室と同様に家庭用の除湿機で行えばよい。保存室の温度と湿度は低いが、この程度ならばコンプレッサー方式の除湿機でも充分に除湿はできる。デシカント方式の除湿機は除湿能力の低いものが多いので、広い面積の除湿には不向きかもしれない。
 
冬季の加湿量が僅かであっても、冷風扇での加湿では室温が下がってしまう。外気温度が恒温温度以上ならば冷風扇による加湿でも良いのだが、外気温度がさらに低くなると、再熱が必要となる。どうせ再熱するのならば電気ヒーターで水を蒸発させて加湿すれば再熱にもなるので、これで恒温恒湿が維持できるのならば、外気温度が低い時期はこのほうがよいかもしれない。
 
恒温恒湿は全てを自動制御任せにするのではなく、90%以上を手動で調整を行った後の、残り10%以下を自動制御で行うような感じで調整を行うことが、省エネに繋がるだろう。

 

ビルの省エネ指南書(55)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

暖房と蓄熱

1、冬の空調運転

ビルで恒温恒湿をおこなっている部屋があるとすれば、コンピューター室が多いだろう。

小規模のコンピューター室では恒湿を行わず、冷房だけで恒温をおこなっていることもある。

コンピューター室は常時かなりの発熱があるため、冬でも室温が下がり過ぎる心配はなく、冷房だけでも恒温は維持できるからだ。

温度制御だけならば、温度が一般の室内よりも低いとはいえ、冷房エネルギーは最低限で済むが、制御が難しいのは湿度である。湿度制御が入ると、加湿や除湿で制御が複雑になり、そのためにエネルギー消費の無駄が多くなる。

室内湿度を上げるのには電気ヒーターによる加熱で水を蒸発させ、室内湿度を下げるにはエアコンで除湿して、室温が設定温度よりも下がると、ヒーター等で再熱するのが一般的であるが、このような恒温恒湿制御では、どうしても無駄なエネルギーを消費してしまう。

コンピューター室は発熱機器の影響で一年中冷房が必要な部屋である。この冷やさなければならない部屋を、加湿のためであっても、再熱のためであっても、ヒーター等で加熱しなければならないのが無駄であり、省エネをおこなうには、この無駄を無くす方法を考えればよい。

2、相対湿度と絶対湿度

外気温湿度が高いのは夏季である。熱は高いところから低いところへ伝わるが、同様に湿気も多いところから少ないところへ伝わる。

空気中に含まれる水蒸気量は相対湿度ではなく絶対湿度で表すので、相対湿度が低くても絶対湿度が高ければ、相対湿度の低いところから相対湿度の高いところへ湿気が伝わる。

3560%は絶対湿度が0.0214(g/g D.A.)

2590%は絶対湿度が0.0180(g/g D.A.)

2590%のほうが相対湿度は高いが、絶対湿度は3060%の方が高いので、空気中の湿気は3060%から2590%の空気に伝わるのだ。

 

エアコンの給気温湿度で制御するのか、室内温湿度で制御するのかの違いはあるが、室内の温度と湿度が2450%になるように恒温恒湿制御されていると仮定して説明していく。

 

夏季の外気ならば温度も相対湿度も絶対湿度も2450%よりは高いので、換気をしていなくても壁面等を通して、外気の熱と湿気がコンピューター室へ伝わって来る。

 

コンピューター室を2450%に維持するとして、この時の絶対湿度が0.0093(g/g D.A.)、夏季日中の外気を3375%と仮定すると、絶対湿度が0.0241(g/g D.A.)。外気との比較では温度的に33℃から24℃に27.3%下げればよいのに、絶対湿度は0.0241(g/g D.A.)から0.0093(g/g D.A.)に61.4%も下げなければならない。

 

夜間ならば外気温度が下がり、雨天ならば外気温度が下がり湿度が上がるので、この低減率の差はさらに大きくなる。夏季に恒温恒湿を維持するには、温度よりも湿度を下げる負担のほうが大きいことが分かるだろう。

 

絶対湿度を61.4%も冷房で下げようとすれば、発熱機器があるとしても室温が24℃以下になってしまうので、24℃まで室温を上昇させるために再熱が必要となるが、再熱の必要が無くなるように恒温恒湿を効率的におこなうことができれば、大きな省エネ効果が期待できるのだ。

 

3、除湿による無駄の連続
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除湿はエアコンで行い、設定湿度になるまで冷房で除湿するのだが、夏季に室内を2450%設定で恒温恒湿をおこなえば、恒湿になった時には室温が設定24℃以下にまで下がってしまう。

そこで室温を上げるために再熱をおこなって恒温となる。外気は常に入って来るので、外気湿度が高い夏季は除湿のために休みなく冷房を行い、そして再熱を行なわなければ2450%の恒温恒湿は維持できないだろう。

これでは、際限のない無駄の連続である。

真夏の外気侵入により、室内の温湿度は常に上昇しようとしているのに、エアコンだけで相対湿度を50%に維持するには無駄が多く、それだけエネルギーを浪費することになる。

コンピューター室を冷房するエアコンだけで恒湿を行なおうとするから、このような無駄の連続となるが、エアコンでの除湿を止めれば無駄の連続を止めることが出来る。

4、夏季の恒湿は除湿機でおこなう

エアコンでは冷房による恒温を主としておこない、除湿は別の除湿機でおこなえばよい。

充分に除湿能力があり、湿度設定のある除湿機ならば恒湿を維持でき、エアコンは冷房による恒温専用として使うことが出来る。これならば再熱することがなくなり。冷やしては暖めるような無駄はなくなるだろう。

除湿機は高価な業務用でなくても、価格の安い家庭用で充分だ。まずは1台設置して様子をみることだ。1台で除湿能力が不足するようならば2台置けばよい。

家庭用の除湿機ならば除湿能力の大きな機種でも消費電力は400W以下なので、エアコンで室温を下げてから再熱で室温を上げる消費電力量と、除湿機の消費電力量の差は想像以上に大きく、チューニング次第ではエアコン消費電力量が50%以上も節電できる可能性がある。

除湿機の貯水タンクはできるだけ容量が大きい機種を選びたい。貯水タンクが満水になれば除湿機が運転を停止するからだ。

貯水タンク容量が5ℓ程度ある機種ならば除湿能力も高いはずなので、機種選定の目安にはなるが、除湿能力18/日で貯水タンクが5ℓの除湿機では7時間以内で満水となり除湿機が停止してしまうので、部屋の面積と除湿能力と貯水タンク容量を考えて、最適な除湿機を選びたい。

ドレン口から直接排水できる除湿機ならば、満水で運転停止になることはないが、それでは除湿量が分からない。面倒であっても貯水タンクに貯めて、毎日時間を決めて貯水タンクの水量を記録してから捨てるようにすれば、どれだけの除湿をしているのかが把握できる。

外気が乾燥する冬季は一滴の水も貯まらなくなる。貯水タンクに貯まる水が少なくなった時点で除湿機の運転を停止してもよいだろう。

5、無駄な動作が無くなる

除湿機で除湿をおこなって恒湿を維持しながら、室温が上がればエアコンで冷房して恒温を維持する。再び外気侵入と発熱機器で温湿度が上がれば、それを除湿機で除湿しながらエアコンで冷房するという循環である。

除湿と冷房に無駄な動作がないのが分かる。
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最初の図と比べて、冷やし過ぎによる「温度低下」と「再熱」が無くなっている。このどちらもエネルギーを浪費するのだから、無くなることはそれだけ省エネになることでもある。

外気はコンピューター室への侵入だけではなく、導入している場合もある。外気を導入すればそれだけ温度と湿度が上昇するので、必要以上の換気を行なわないように気を付けたい。

 

ビルの省エネ指南書(54)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室
 室長 中村 聡

暖房と蓄熱

1、冬の空調運転

冬の空調立ち上げで、温水温度が上がらなくて苦労した経験があるだろう。特に休み明けともなるとビル内が冷え切っているため、かなり早めに熱源の運転を開始しなければならない。

地域冷暖房の場合では温熱デマンドがあるので、温熱を使いたくても使えず、早めに空調機の運転を開始して、時間をかけて少しずつ温水温度と室内温度を上げていくしかない。

しかしこれでは、温水温度が上がって、空調機から暖かい給気が出るまでの間は冷風が出て来るため、冷房しているようなものだ。

このような時に、暖房の立ち上がりを早くしながら、温熱のデマンドを下げる方法があれば、暖房立ち上げ時の苦労もなくなるはずだ。暖房の立ち上がりが早ければ、空調運転開始を早くする必要はなく、暖房が必要になるぎりぎりまで遅くすることができる。理想的には空調機運転と同時に温風が出て来ればベストである。

温熱の使用量を増やさずに、暖房の立ち上がりを早くするということは、正反対のことを行うことになるが、ある日アイデアがひらめいた。

蓄熱すればよいのだ。しかし蓄熱槽はない。

ここで、さらにもう一つアイデアが必要だ。

2、配管蓄熱

蓄熱には蓄熱槽が必要だと思うかもしれないが、蓄熱槽が無くても蓄熱は可能である。

ビル内全ての温水配管内に蓄熱するのだ。

冬季は早朝の空調運転立ち上がり時に暖房ピークが来るので、配管蓄熱は効果的である。

空調機運転開始前に、温水配管内に温水を流して蓄熱しておけば、空調機運転開始と同時に空調機から温風を出すことができるようになる。

配管蓄熱は温水を循環させながら、空調機で暖房をおこなっているビル用の対策であり、地域冷暖房でなくても実施することができる。

温水循環の往還配管内に温水を蓄えるということは、配管の鋼管自体にも熱を蓄えることができるので、暖房立ち上げ時に必要な熱量は蓄熱で賄える。この熱を使いながら空調運転を開始すれば、温熱デマンドを心配することなく暖房の立ち上がりを早くできるのだ。

3、蓄熱方法

蓄熱をおこなう方法は簡単だ。空調機二方弁のバイパス弁を僅かに開けた状態で、熱源と二次ポンプを運転すればよい。空調機は運転していないので、蓄熱中の熱源運転は最低限でよい。
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 例えばバイパス弁のハンドルを全閉から180度開いて、蓄熱に1時間かかるのならば、空調機運転開始1時間前に熱源を運転すればよい。

二次ポンプの流量に合わせてバイパス弁の開度を調整すれば、蓄熱完了までの時間を変えることができるので、空調機と熱源の運転開始時間をできるだけ遅らせ、蓄熱にも無駄な搬送動力を使わないように調整できれば効率的だ。

バイパス弁を開け過ぎると、二方弁全閉時も温水が流れて過剰暖房になるので注意したい。
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 通常の暖房運転ならば還配管内の温水は温度が下がっているが、蓄熱では還配管の温度も往配管と同じ温水温度になるので、循環方式がリバースリターンならばダイレクトリターンよりも還配管が長い分、蓄熱量が多くなる。
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 各系統の往還主配管への蓄熱と、主配管から分岐して空調機までの往還配管に蓄熱をする。
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空調機往還配管の温度計を比べてみれば、温度差で熱コイルが温まっているかどうかは分かる。
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 バイパス弁を開けた空調機は、空調機出入口配管から空調機内部の熱コイルにも温水が流れるので蓄熱効果が高くなる。

各系統の主配管末端にある空調機のバイパス弁を開けておけば、その途中にある暖房負荷が少ない空調機はバイパス弁を開けなくてもよい。

主配管までは温水が来ているのだから、空調機の熱コイルまで暖めていなくても、暖房の立ち上がりは、蓄熱前よりは早くなるだろう。

4、暖房負荷

通常の空調運転は熱源運転と同時に空調機を1台ずつ、時間差を設けて運転していると思うが、それでも中々温水温度が上がらないものだ。

配管蓄熱をしても、空調機運転後に蓄熱を使い切ると温水温度が下がる気がするが、実際はそれ程温水温度が下がらずに温度を維持できる。

暖房負荷には温水温度を上げる温水負荷と室内温度を上げる室内負荷があり、空調立ち上がり時にはこの両方が暖房負荷となる。配管内の温水と空調機熱コイルは、空調立ち上がり時だけの温水負荷なので、これに蓄熱しておけば、温水負荷だったものが逆に熱源となり、空調機運転開始直後の暖房負荷は室内負荷だけとなるので、温水温度がそれ程下がらないのだ。

5、蓄熱効果

配管蓄熱を行う前には、地域冷暖房の温熱最大負荷が3,770MJだったビルが、配管蓄熱を行うと1,300MJにまで下がったので、温熱デマンド契約も下げることができた。

約1/3の温熱量しか使っていなくても暖房の立ち上がりが早くなったので、空調機の運転開始と熱源の運転開始を遅らせることができ、その時間の電力と温熱の使用量も節約できる。

空調機を運転しながら温水温度を上げるには、温水負荷と室内負荷の両方が同時にかかるが、温水温度が上がってから空調機を運転すれば、室内負荷だけとなるのが蓄熱の効果である。

配管蓄熱は空調運転立ち上がり時のピーク抑制のためなので、夏季のように冷房ピークが12時から18時までのような、長時間のピーク抑制はできないが、冷房運転開始時に熱がこもっているようなビルならば、暖房と同様に空調機運転開始時の蓄熱効果が期待できるだろう。

ビルの省エネ指南書(53)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

電気室の熱

1、夏季と冬季
 
ビル内が負圧では外気が侵入して、エントランス近辺は外気温度の影響を受けやすくなる。    夏季は28℃のビル内に35℃の外気が侵入しても、温度差は7℃にしかならないが、冬季は20℃のビル内に5℃の外気が侵入すると、温度差は15℃になり、0℃の外気侵入ならば温度差20℃だ。寒冷地ほど温度差が大きくなるだろう。
 
このように外気侵入における、人への影響は冬季の方が大きいので、ビル内の気圧を高めて、出入り口からの外気侵入防止が効果的だ。
 
しかし空調機等からの外気導入量を増やしてビル内の気圧を高めても、外気負荷が増えることには変わりがない。そこで、冬季に外気負荷を増やさずに外気導入量を増やして、ビル内の気圧を高めるアイデアが必要となる。

2、電気室の熱
 
電気室は変圧器の発熱で冬季でも室温が高くなり、給排気ファンを運転して室温を下げているビルも多いだろう。つまり冬季なのに屋外に排気=排熱しているのだ。
 
電気室のあるビルならば、この熱を屋外ではなくビル内に排熱する方法を考えたい。
 
電気室は臭いのする場所ではないので、居室でも問題なく使うことができるだろう。
 
電気室の温度が20℃以上であれば、ビル内への排熱量がいくら多くても空調の外気負荷にはならず、逆に暖房効果さえ期待できるはずだ。
 
そして、電気室からビル内への排熱量が多くなればなるほどビルの気圧が上がり、出入り口からの外気侵入量が少なくなるだろう。
 
もしビル内の気圧が正圧になれば外気侵入は無くなり、エントランス近辺の人が寒く感じることもなくなるはずだ。
 
電気室の熱を、排気ファンを使って屋外へ排熱するぐらいならば、ビル内へ排熱したほうがどれだけメリットがあるかが分かるだろう。

3、搬送経路
 
外気をどのような経路で電気室から給気場所まで搬送するかを考えなければならない。
 ○空調機の還気で引っ張って給気
 ○電気室から直接給気
 
○ダクトを給気場所まで新設して給気
 
どのような方法を選ぶかは、電気室から給気場所までの距離と工事費用によるだろう。
 
給気場所が居室であれば直接的な暖房効果があってよいのだが、廊下や階段であっても、ビル内の気圧を上げる効果はあるので、居室にこだわる必要はない。
 
写真は空調機の還気で電気室内の空気を引っ張って給気する方法である。
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上下の写真を対比してみていただきたい。
 
電気室排気ファンの排気チャンバーと、1階ロビー用空調機の還気ダクトとを、ダクトで繋いだところだ。これで電気室からの排熱は1階ロビーの暖房とビル内の気圧上昇のために使える。
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 ダクト長は水平距離3m、垂直距離2m程度なので、それほど工事費もかからない。 
 
冬季は電気室の排気ファンを運転せず、空調機はOAダンパー全閉で運転して、電気室で暖めた外気を、RAダクトから引っ張ってロビーに24時間供給するようにしている。
 
排熱利用と通常排気を切り換えるためのダンパーも設けている。冬季以外は排気ファンを運転して屋外に排気するためである。

4、温度効果
 
平成24年1月3日の温度を24時間計測したグラフである。上から電気室温度、空調機給気温度、外気温度を表している。
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1
3日の温度推移グラフ(上)と表(表)
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 年末の御用納めから、御用始め前日の1月3日までは最も電気を使わない期間である。変圧器の発熱を考えれば、13日の電気室内は1年中で最も温度条件の悪い日でもある。
 
グラフ一番上の、のこぎり刃のような電気室温度グラフは室温が上がれば給気ファンを運転、下がれば停止と間欠運転しているためである。


 
電力使用の多い平日ならば常時運転しているので、もっと直線的なグラフになるだろう。
 
直ぐ下の25℃ラインと重なっているグラフは空調機の給気温度である。熱源は運転していないので、この温度は電気室の排熱温度になるが、電気室から空調機までのダクトが長いので、ダクトからの放熱分だけ低い温度になっている。
 
電気室温度の上下動に従って、給気温度も若干は上下しているが、外気温度の影響も受けずに、24時間25℃前後を保っている。
 
電気室の温度センサー取付け位置は人の目線よりも下だが、排気ダクトは天井にあるため、電気室温度と給気温度は同じにはならず、給気温度はある程度一定の温度を保っているようだ。
 
ビルは夜間に外気が侵入して、ビル内が冷え込むことが多いのだが、このグラフによると夜間も25℃を給気場所に排熱しながら、ビル内の気圧低下防止に役立っていることになる。
 
排熱なので費用もかからず、休日明けなどは空調の立ち上がりが早くなるはずである。
 
空調の立ち上がりが早くなるならば、その分の時間、空調運転開始を遅らせることもできるので、それだけ省エネにもなるだろう。
 
一番下は外気温度だ。平均6.3℃と福岡市にしては寒い1日であった。外気の最低温度が4.3℃で、この時の給気温度が25.2℃なので、電気室を経由して外気を導入すれば、最低でも21℃も外気を暖める効果があることが分かる。
 
外気温度は最高と最低では大きな違いがあるが、給気温度には殆ど変化がないのは、電気室の天井高が高いので、暖気が上部にこもって蓄熱状態になり、温度を保っているからだろう。

5、排熱利用
 
大規模ビルになればなるほど、煙突効果による自然排気が多くなり、電気室が数カ所に分散していることもある。このようなビルではメインの電気室の排熱利用だけでは、ビル全体の気圧を外気圧以上に上げるのは難しいかもしれないが、ビル内が冷え込む時間帯である深夜に、熱源なしで排熱を供給できる効果は大きいだろう。
 
電気室を暖房の熱源として利用できるビルは限られるかもしれないが、排熱の搬送経路を見付け出し、排熱利用を実現できるかどうかは、ビルの設備管理員の努力次第である。

 

ビルの省エネ指南書(52)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

ポンプの搬送動力

1、冷却水大温度差運転
 冷温水の往還温度差を大きくすれば、ポンプ搬送動力の省エネになるといわれるが、果たしてそうであろうか。ビル空調における大温度差運転の意味と可能性を考えてみよう。
 
ビル空調には主に一次ポンプ、二次ポンプ、冷却水ポンプがあるが、現状のままで大温度差運転ができるとすれば二次ポンプだろう。できれば台数制御だけの二次ポンプよりも、インバーターによる回転数制御をおこなっているポンプのほうが、大温度差運転の省エネ効果は大きい。大温度差にするには、冷水ならば往水温度を下げるか、還水温度を上げなければならない。
 
冷房時の冷水往温度が10℃で、還温度が13℃であれば往還温度差は3℃となるが、往温度を7℃にして還温度が13℃のままであれば往還温度差が6℃となり、流量が半分となる。冷凍機の冷水出口温度を3℃下げるだけで流量が半分になるならば、インバーターによる回転数制御では1/8の搬送動力になるはずだが、実際はそう簡単にはいかない。冷水出口温度を3℃下げることは簡単であっても、二方弁が閉まり易くなるので、還温度を13℃のまま維持することが難しいのだ。

2、空調機還水温度
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 この写真は12月中旬に撮った暖房時での空調機の往還冷温水配管の温度計である。
 冷温水(還)の温度計が20℃になっている。時期的には暖房負荷がそれほど多くはない時なので二方弁はかなり閉まった状態だ。
 
二方弁が閉まって来ると温水還温度が、空調機のSA温度近くになるので、このように低い還温度となる。冷房の場合ならばほぼ室温と同じ、冷水還温度28℃といったところであろうか。 

3、空調機往水温度
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 空調機は違うが、同じビルの冷温水(往)の温度だ。48℃になっている。熱源は同じなので、往水温度はどの空調機も殆ど同じはずだ。このくらいの温水温度のビルも多いだろう。
 
空調機の往還温度差は48℃-20℃=28℃になる。これが、二方弁が閉まりかけた状態での温度差である。このように暖房負荷よりも熱供給量が多ければ二方弁が閉まりやすくなるので、簡単に大温度差運転となってしまうが、これを大温度差運転と思ってはいけない。温度差が大きければよいというものではないからだ。

4、空調機二方弁
 
空調機二方弁が徐々に閉まるのは、熱供給量に対して空調負荷が減っているからである。熱使用量が減れば往還温度差が小さくなるような気がするのだが、実際は二方弁が全閉になる瞬間が最大の往還温度差となる。
 
二方弁が全閉に近くなっている空調機の還温度を温度計で確認すれば、冷房時ならば室温以上に、暖房時ならば室温以下になっているだろう。冷房時ならば、冷水出口温度を下げれば、二方弁が閉まりやすくなり還温度が上がるので、結果的には大温度差運転になってしまうのだ。
 
このような意味のない大温度差であっても、温度差しか見ていなければ、大温度差運転だと勘違いしてしまうかもしれない。
 
空調負荷は多い時もあれば、少ない時もある。空調負荷と熱供給量の増減によって、空調機二方弁の開度が違って来るのならば、温度差は成り行き次第となってしまい、大温度差運転をおこなっているとは云えなくなる。
 
同じ流量であっても、往ヘッダ圧力が高くて二方弁が絞られた状態と往ヘッダ圧力を下げて二方弁が全開の状態とでは搬送動力が違って来る。往還ヘッダ差圧が高ければ空調機二方弁が閉まりやすくなり、二方弁が閉まれば大温度差になる。このような大温度差では、逆に搬送動力が増える大温度差運転になる可能性もある。

5、空調機内部の温度
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 これは空調機の伝熱フィン出口部分である。空調機内を流れる伝熱フィン手前の気流は還気+外気である。暖房時に空調機二方弁が殆ど閉まった状態で、少量の温水が熱コイルに流れているとすれば、還気+外気により熱コイルの温水温度は熱コイル入口で一気に下がってしまい、48℃の温水が熱コイル出口ではSA温度近くになるだろう。外気量が多ければ、20℃以下のSA温度になることもある。
 
往ヘッダの圧力が上がれば往還ヘッダ自動バイパス弁が開いて圧力を逃がすだろう。インバーターによる回転数制御であっても最低周波数を下げるには限度があるので、結局は圧力を逃がすことになる。大温度差であっても最低限の搬送動力は必要となるのならば、その搬送動力を無駄に逃がすよりも使ったほうが良いはずだ。

6大温度差運転の基準
 
大温度差運転をおこなうには何を基準とするのかを示す必要がある。基準を決めずに大温度差で搬送動力を削減するといっても、温度差が大きければよいのかと誤解をすることになる。
 
二次側の冷温水循環経路で考えれば、空調機の二方弁開度100%が基準として分かりやすい。100%ならば無意味な大温度差になることは無い。この基準を示さずに、成り行き次第の開度で大温度差運転といっても意味はないのだ。
 
大温度差運転とは空調機二方弁が閉まっての小流量大温度差ではなく、二方弁全開での小流量大温度差で搬送動力の低減を目指すことだ。
 
二方弁全開で冷温水がゆっくりと循環する状態を想像してほしい。二方弁が全開となるように、冷温水温度を調整しながら往還ヘッダ差圧を下げて、台数制御ならばできるだけ少ない運転台数で、回転数制御ならばできるだけ低い周波数で運転するのだ。このほうが、二方弁が閉まる大温度差運転よりも、熱コイルでの流量は増えて、温度差も小さくなるだろうが、往還ヘッダ差圧を下げて送水圧力を低くしているので、二方弁の影響による圧損はなくなり、バイパス弁での無駄な逃げもなくなる。
 
空調機熱コイルでの熱使用量が同じだとすれば、余裕のある冷温水出口温度と往還ヘッダ差圧により二方弁が閉まった状態での28℃の大温度差運転よりも、余裕のない冷温水出口温度と往還ヘッダ差圧により、二方弁が全開となった運転のほうが、流量が増えたとしても搬送動力が少なくて済み、熱の省エネにもなるのだ。
 
大温度差という言葉と水温に惑わされずに、供給熱量と使用熱量のバランスを考えて、省エネに繋がる大温度差運転をおこなってほしい。

ビルの省エネ指南書(51)

空調のチューニングポイント

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

水冷冷却塔

1、冷却水ポンプ

冷却水温度によって流量を変えることができれば冷却水ポンプの省エネになるだろう。

ファンのON・OFF制御で水温を調整している冷却塔は多いが、冷却水ポンプでの変流量制御をおこなっている冷却塔はまだ少数である。

冷却水ポンプの吐出バルブを絞っている場合も多いので、冷却水温度に応じた変流量制御をおこなっても支障はないはずだ。

ポンプの回転数を制御して冷却水流量を減らす省エネ効果は大きいが、夏季だけしか運転しない冷却水ポンプの運転時間が短いため、設備投資回収までに時間がかかるだろう。

電力デマンド低減効果も考えたうえで、インバーターの導入を検討したい。

冷却水ポンプは一次ポンプ等よりも大容量であり、温度制御まで含めると、インバーター導入にはかなりの費用が必要となる。

そこで設備管理員だけでできる、費用のかからない冷却塔の省エネ対策を紹介する。

2、冷却塔

冷却塔には、循環する冷却水を冷却塔内に直接散布して冷却する開放式冷却塔と、冷却水が密閉配管内を循環して、冷却塔内の散布水で間接的に冷却する密閉式冷却塔がある。どちらの冷却塔の場合でも、節水のために電気伝導率を高く設定していると、冷却塔内の水が濃縮して、汚れと共に濁ってくるのが分かるはずだ。

冷却水が濃縮すると水の蒸発効率が悪くなり、冷却水温度が上がれば、吸収式冷温水機やターボ冷凍機等の冷凍機の効率が悪くなる。冷房ピーク時には冷水出口温度が思うように下がらないことを経験した設備管理員もいるだろう。

冷却水温度を下げるために、電気伝導率を低く設定してブロア量を増やしたほうが、蒸発効率の向上と水温の低い上水の給水量増加とで冷却水温度が下がり、冷凍機の効率も良くなるはずだ。このほうが省エネになることが分かっていても、水道料金を考えると電気伝導率を上げざるを得ないのが現状であろう。

3、雨水利用のビル

ブロア量を増やしても水道料金が上がらないビルがある。それは雨水を中水として、トイレ等で再利用しているビルだ。

オフィスビルや商業ビルでは、トイレで使う中水は、梅雨時以外は雨量が足りないために上水や中水を補給しているはずだ。中水として使用する水の90%以上が補給水だというビルも多いのではないだろうか。せっかく浄化設備があるのに、上水や中水を中水槽へ補給して使用するのは勿体無い話である。中水槽に補給するぐらいならば上水を冷却塔のブロア水として一度使い、冷却塔からオーバーフローした水を雨水槽に回収して中水として使えば、同じ水を二度使うのだから効率的であり、水道料金を増やさずに冷却水の電気伝導率を下げることができる。

試しに冷却水の電気伝導率設定を下げて、中水槽への補給水が無くなるぐらいにブロア量を増やしてみればよいだろう。冷却水温度が下がり、冷却塔下部水槽の水が綺麗に澄んで来るのが実感できるはずだ。

無駄なブロアは避けたい。特に雨天時は雨量、雨水貯水量、電気伝導率を考慮して、ブロア量を調整したい。雨水槽が満杯で放流するようになってまでブロアを続ける必要はないからだ。

4、オーバーフロー

冷却塔からオーバーフローする水は、冷却塔で冷却された冷却水とブロア水である。このように温度の下がった冷却水をオーバーフローさせるよりも、冷却塔上部から温度の高い冷却水を抜く方が、冷却水温度を低下させるという意味では効率的だ。冷却した水を排水するよりも、水温が高いままで排水させ、その量の上水をブロアさせたほうが、冷却水温度が下がるからだ。

写真の矢印のような上部水槽に入る手前の位置にドレン管を設ければ、運転中のみ屋上に排水できる。ドレン管にバルブを設けて開度を調整できれば、電気伝導率で制御していない冷却塔であってもブロア量の調整が可能となる。
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オーバーフローさせる方が簡単ではあるが、下部水槽の水位が高いので、冷却塔停止時に冷却塔上部水槽の水が下部水槽に落ちて来ると全てがオーバーフローしてしまう。

冷却塔上部から抜く方法ならば、冷却塔下部水槽の水位はボールタップの水位なので、オーバーフローすることはないだろう。

オーバーフローさせるのは運転中だけでよい。

5、開放式冷却塔

雨水を利用していないビルでも、ビル内の排水を浄化した後、中水として再利用しているビルであれば、排水した冷却水を処理水槽まで導くことができるならば再利用は可能である。

処理水槽は地下にあることが多いだろう。冷凍機もその近くにあるならば回収経路を調べたい。

冷却水が冷凍機を出た後にドレン管があればそこから抜けばよいが、処理水槽に繋がっていて水を回収できなければ再利用はできない。

このように冷却水配管のドレンから直接水を抜くことができるのは開放式冷却塔の場合だ。

ドレンを利用する場合の注意点は、ドレンのバルブを冷凍機運転の都度手動で開閉しなければならないことだ。冷却塔の上部から抜くのならば、冷却水ポンプの吐出圧力を利用して、運転中だけ抜くことが出来ても、冷却水配管の最下部から抜くとなると、停止時にも抜けてしまうので、冷凍機運転中だけバルブを開けて、停止させるときにはバルブを閉め忘れないようにしなければならない。閉め忘れると不必要な水道料金が増えるだけである。

最下部から水を抜くメリットは冷却水配管下部に沈殿した粉塵等の汚れを除去できることだ。

開放式冷却塔と冷凍機の設置位置に高低差があれば、冷却塔下部水槽の底に沈殿しているような粉塵的な汚れが、冷却水配管の最下部にも沈殿していて当然だ。このような汚れをドレンから抜くことができるのだ。

5、密閉式冷却塔

密閉式冷却塔は、冷却塔から直接水を抜いて回収しなければならない。屋上の冷却塔から地下の処理水槽までとなると冷却水を回収するのは難しいので、雨水槽へ回収できなければ冷却水の再利用はできないかもしれない。

冷却水の回収の可否等を調査してほしい。

意外な回収経路が見つかるかもしれない。

若干のドレン工事費が掛かるが、冷却塔上部の温度の高い水を抜いたほうがよいのは、開放式冷却塔の場合と同じである。

6、薬剤注入

冷却塔に薬剤を注入しているだろうか。

ブロア水量を多くした結果、冷却塔下部水槽の水が澄んで来るということは、薬剤の濃度も薄くなっているということでもある。

薬剤の注入量を増やして薬剤濃度を維持するべきか、薬剤の注入を止めるべきかの判断が必要となる。電気伝導率の下がった冷却水の水質検査等を行ってから検討するのも良いだろう。

冷凍機が停止する1時間程前にブロアを停止させてから薬剤注入を開始するという方法もある。翌日運転を開始するまでの間は、薬剤の入った冷却水になっているので、レジオネラ菌対策にもなるだろう。これならば薬剤注入時間が短いので、高価な薬剤の節約にもなる。

安全面、メンテナンス、経費、省エネ等を考えて、最も適切と思われる方法を選べばよい。

ビルの省エネ指南書(50)

熱源機械室のチューニング(14

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

  1. 空調機二方弁開度(3/3)

7、積分動作
 あるビルでは、全ての空調機に比例値と積分値が設定されていたが、空調機毎に設定値が違っていた。竣工時に自動入力で設定しているからだろう。
 
一般的には積分値は「120」が入力されている場合が多いようだ。この数値がそのまま「秒」を表しているのならば分かりやすいが、念のために数値と秒の関係は確認しておいたほうが良いだろう。
 
空調機毎に設定値を変える必要がなければ、全てのデジタル指示調節計に同じ積分値が入っていたほうがメンテナンス的にも分かりやすい。
 
積分値が大きくなればなるほど、二方弁の動作が遅くなり、小さな値にすればするほど、二方弁の動作が速くなる。入力された積分時間で比例値のグラフを左右に移動させながら、二方弁の開度を変化させて、指示値を設定値に近づけているのだが、あまり小さな値にすると設定値を行き過ぎるオーバーシュートや指示温度が上下に振動するハンチングが起こりやすくなるので、小さければよいものでもない。初期値を「120」にしてから、いろいろと試して、ビルに合った最適な積分値を探し出せばよいだろう。

8、地域冷暖房とPID制御
 地域冷暖房の場合は熱にデマンドがあるので、全ての空調機の二方弁が同時に全開になって欲しくないこともある。このような場合はわざと大きな比例値と積分値を入れて、二方弁の動きを遅くするのもよいだろう。一斉に流量が増えることが無くなるので、デマンド管理はやりやすいはずだ。

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 これは比例値を±3℃に設定したグラフである。二方弁の動作がかなり緩やかになっていることが分かるだろう。
 
±1℃ならば1℃の差で全開になるが、±3℃ならば1℃の差があっても、開度63%にしかならないので、それだけ熱交換量も少なくなり、地域冷暖房でのデマンド対策にもなる。
 
デマンド対策にはなっても、それだけ二方弁開度が小さくなるので、設定温度に達するのに時間がかかるが、デマンド対策として一部の空調機を停止させるよりはましだろう。
 
比例値と積分値は初めから大きな数値を入力せず、現在の数値から徐々に大きくしていき、室温とデマンドの妥協点を探し出せばよい。

9、微分(D)値
 写真のように微分値は「0」になっている場合が多いようだ。微分値が入力されているデジタル指示調節計を見たことがないので、微分動作は空調ではあまり使われていないのだろう。
 
微分動作は温度の急激な変化を抑える動作なのだが、空調の場合はそれほど急激に室温が変化することはないので必要がないのかもしれない。

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 10、入力ミス
 以前、設備管理をおこなっていたビルでの話だが、ある空調区画だけ冷房の効きが悪く、結果的にこの空調機が基準となって、他の空調機から見れば余裕のある冷水出口温度と流量になっていた。
 
その頃は二方弁の開度に気を配ることもなく、冷房の効きが悪いのだから、冷水温度を上げることを考えることもなかったのだが、後にこの空調機だけ二方弁開度が50%から殆ど変化しないために、流量が不足していたのが原因だと判明した。
 
十数台ある空調機の制御は比例制御のみで、この空調機だけ比例値が異常に大きかったのだ。竣工時からの初期設定時の入力ミスであろう。
 
設定値と指示値の温度差により比例値に対応した二方弁の開度が決まるのだが、比例値が±50℃になっていればどのようになるのか考えてみたい。
 
次のグラフのように二方弁開度が50%から殆ど動かないことが分かる。設定温度よりも1℃上がっても開度は51%にしかならない。これでは二方弁が開度50%から殆ど動かないのと同じである。

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 冷房であれば設定温度より50℃も上がらなければ二方弁が全開とはならないのだ。28℃設定ならば室温が78℃になった時に全開になるのだから、あり得ない話である。たった1台の空調機の単純な入力ミスのために冷水出口温度を上げることもできず、その他の空調機にとっては必要のない余裕のある冷水を無駄に供給していたのだ。
 
これでは熱源チューニングができる訳がない。この単純ミスに気付くかどうかが省エネとの分かれ目であり、気づいて幸いであった。省エネのポイントはこのようなところにも隠れているのだ。
 
二方弁のチューニングは開度のみに注目するのではなく、ビル内にある空調機全てのPID制御による動作までを含めてチューニングしなければならないことが実感できた、貴重な経験であった。

11、手動制御
 次のグラフは冷房時のPI制御で、設定温度が28℃の時に二方弁が丁度全開となっている。 これ以上は二方弁を開方向に自動制御できないので、ここからは手動で冷水温度や流量を制御しなければならない。もしこのまま何もしなければ、室内温度が28℃以上に上がっても冷熱供給量は増えないので、暑いというクレームが来ることは必定である。手動で冷水温度を下げるか流量を増やして、二方弁全開のまま28℃を維持できるように、冷熱供給量を調整するのが手動制御である。

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 設定温度を維持するために二方弁開度を自動制御するPID制御と比較して、設定温度を維持するために、熱の供給量を手動で調整して、常に二方弁が全開となるようにするのだからかなり難しい。
 
二方弁が丁度全開となるように室温に目を配りながら、PI値も考慮した冷水温度と流量を判断して冷熱供給量を調整しなければならない。
 
設備管理員の仕事量が大幅に増える手動制御は、技術力に自信がなければできない制御でもある。

12、空調機の日常点検
 設備管理の業務として、空調機の日常点検を行っているはずだ。その点検項目に空調機の二方弁開度を記入する項目があるだろうか。無ければ作られることをお勧めする。前述のような単純な入力ミスを発見することに繋がるだけではなく、どの時間帯はどの空調機が最も空調負荷が高くなっているのかを、開度を見て把握できるようになる。
 
空調機のSA,RA,OA,EAの各ダンパーの開度も二方弁開度に影響するので記録しておくべきだろう。
 
冷温水配管の圧力計等は常に同じ数値である。このような変化のない数値を毎回記録していたのでは、日常点検が点検のための点検となってしまい、問題点があっても見過ごしてしまうだろう。
 
点検は常に考えながら行い、疑問を持ち、問題点が発見できるような点検でなければならない。
 そのためには冷温水温度や二方弁開度のように、常に変化している数値や、ダンパーのように手動で変化させている開度の記録は重要である。

ビルの省エネ指南書(49)

熱源機械室のチューニング(13)

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

  1. 空調機二方弁開度(2/3)

3、PID制御
 空調機二方弁がどのような制御になっているのか、PID設定値を調べたことがあるだろうか。空調機毎に写真のようなデジタル指示調節計があるはずだ。この機種は比較的新しい型であるが、基本的には旧型も同じような外見をしている。
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 写真のデジタル指示調節計は暖房中の温度を表しており、設定値が23.5℃で、現在の指示値が24.6℃となっている。還気温度で制御しているのだが、設定温度よりも1.1℃も高い還気温度になっていることに留意したい。
 PID、意識的も。
 設定温度表示の下にLEDが横に10から3灯目までが点灯している。このLEDが二方弁の開度を表している。
 
設定温度よりも指示温度が1.1℃高いので、二方弁が約310開いている状態を表すためにLED3灯点灯している。110単位毎の開度表示ではあるが、これだけでも大体の開度が分かるので空調状態の把握はできる。
 
二方弁の種類や設置位置によっては、直接開度を確認することが難しい場合もあるが、二方弁を見なくてもこのLEDが二方弁の開度を表しているので、現在の開度が一目で分かって便利である。
 
ボタン操作でディスプレイに開度が表示される機種もあるので確認してほしい。

4、比例(P)値
 写真はディスプレイを比例値に切り替えた時の表示である。比例値が4.0となっており、温度に直すと±2℃を表している。1.142.7510なのでLED3個点灯しているのだ。
image002

 このデジタル指示調節計は4.0の表示がそのまま温度となるので分かりやすいが、機種によっては12.04℃を表す場合等もあるので注意したい。
 
積分値と微分値を「0」にして、設定温度と指示温度の差に対する二方弁の開度を見れば、比例値に対する開度が分かるが、設定温度と指示温度が一致している状態では、比例値に関係なく開度が50%となり比例値の見当が付かない。設定温度と指示温度に1℃程度の温度差がある時に調べたら開度との比較で比例値が逆算できるだろう。
 
冷房時の二方弁開度と設定温度28℃の関係を比例値±1℃でグラフ化すると次のようになる。
 
縦軸が二方弁開度で横軸が温度である。
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 冷房温度を
28℃設定時に指示値が29℃以上になれば空調機の二方弁が全開、27℃以下になれば全閉となる。27℃~29℃の間は温度と二方弁開度が比例する冷房時の比例制御のグラフである。

5、設定温度と指示温度
 
前述のデジタル指示調節計は暖房時の23.5℃設定で比例値±2℃なので次のグラフとなる。   温度表示写真の設定温度、指示温度、二方弁開度を表すLED点灯個数をこのグラフと比較してみれば比例動作であることが分かる。
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 一見何の問題もないように思えるグラフだが、よく見れば疑問が生じるだろう。指示値が設定温度と一致するのは、二方弁が50%開の時だけなのだ。
 
これでは設定値を維持できる訳がない。
 
負荷が常に変動している実際の空調において、指示値と開度50%が一致することは極まれであり、指示値と設定温度に差があって当然だ。
 
1.1℃もの温度差が出るのはこのためである。
 
このデジタル指示調節計の比例値では、指示値が±2℃違ってくることもあるので、比例制御だけでは設定温度を維持できないことが分かる。
 
冬季はこれを利用して比例値を大きく設定するという手もある。例えば設定温度を現在よりも1℃低めに設定して、比例値を±2℃から±3℃にすれば、同じ指示温度であっても二方弁開度が小さくなるため、指示値が設定温度を3℃も超えることはなくなり、二方弁が若干は開いた状態になる。
 
冬季に二方弁が全閉している空調機の給気温度は室温以下の冷たい空気になるが、若干でも開いていれば給気温度が上がるため、給気口の真下に居る人が寒く感じることもなくなるだろう。

6、積分(I)値
 
写真のデジタル指示調節計は「0」であった。
 
取扱い説明書では、積分動作はオフセットをなくすように働く動作だと説明が成されているが、これでは積分動作の意味が理解し難いだろう。
image005

 空調機二方弁の動作だけを考えると、次のグラフのようになると考えたほうが、ビルの設備管理員としては分かりやすいはずだ。
 
比例値の折れ線がそのまま左側に移動したグラフである。28℃の時は開度が90%となっている。
 
開度を90%にして設定温度を維持しているのだ
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 次のグラフはそのまま右側に移動したグラフである。28℃の時は開度が10%となっている。開度を10%にして設定温度を維持しているのだ。
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 これらのグラフのように折れ線を左右に移動させて、温度に対する二方弁開度が変化できるならば、設定温度と指示値を一致させることができる。
 
これを行うのが積分動作と思えば分かりやすい。

ビルの省エネ指南書(48)

熱源機械室のチューニング(12)

東洋ビル管理株式会社 
省エネルギー技術研究室 
室長 中村 聡

⑨   
空調機二方弁開度(1/3

1、冷熱供給量

 空調機の二方弁が閉まるということは、冷水の温度と流量に余裕があるからだ。冷熱供給量に余裕があればエネルギーの損失に繋がるため、空調機二方弁が丁度全開となるように冷水の温度と流量をチューニングして無駄な損失を無くしたい。
 二方弁が全開になっても往還ヘッダ差圧を現在よりも低く設定できれば搬送動力がそれほど増えることはない。往還ヘッダ差圧が高いビルが多いようなので、差圧を下げる余地はあるだろう。
 空調機の二方弁が閉まっていたほうが、搬送動力が減り、省エネになるような気もするのだが、往還ヘッダ自動バイパス弁が開くようでは搬送動力が減る訳もなく、冷水温度が低いと配管からの放熱や空調機での除湿量が増えるため、搬送動力が減る以上に冷熱使用量が増えてしまう。
 冷水温度を下げて、往水と還水の温度差が大きくなるようにしたほうが、搬送動力が減ると云われるが、往還温度差が変わらなければ、冷水温度を下げても搬送動力が減る訳もない。それよりも冷水温度を上げながら往還温度差を大きくすることを考えるべきである。空調機の二方弁全開状態で往還ヘッダ差圧をできるだけ下げて、往還温度差を大きくするチューニングをおこなうのだ。
 流量が増えるのは空調機の二方弁が徐々に開いていく過程である。空調機の二方弁が全開になるまで冷水温度を上げていき、全開となった時点で冷熱供給量が不足して充分な冷房ができない空調機があった場合にだけ、流量をさらに増やすか、冷水温度を下げるかを考えればよい。
 しかし、搬送動力を減らすために往還ヘッダ差圧を下げ過ぎると、冷水流量が不足する空調機が出て来る。特に配管方式がダイレクトリターンの場合は影響が大きい。配管抵抗の大きな空調機には冷水が流れ難くなり、空調機毎の流量に差が出て来ると、冷房に支障が出る空調機もあるだろう。
 搬送動力削減を考えるよりも冷水温度を上げることを優先させたほうが、省エネ効果は大きくなる。搬送動力が増えたとしても、冷水温度を上げることによる省エネ効果のほうが大きいので、搬送動力の僅かな増加は気にする必要もないだろう。
冷水温度を上げて除湿量と放熱を減らした結果として冷熱使用量が減れば、その分の搬送動力が減るので、このほうが効率的な削減ができる。
 経験的にではあるが、空調機の二方弁が丁度全開となる位置での冷水の温度と流量の、省エネ的にバランスがとれた点が最善であろう。
 冷水温度が低くて冷水流量が少なければよいものでもなく、冷水温度が高くて冷水流量が多ければよいものでもないのだ。

2、二方弁

 空調機の二方弁が全開になった時点で、それ以上は二方弁での流量調整ができないということでもあり、ヘッダ差圧を手動で調整しなければ流量が不足して、室内温度が高くなってしまう。
 空調設定温度よりもプラス0.5℃以内になるように冷水流量を調整し、プラス0.5℃以上になる時は冷水温度を下げて対応すればよい。
 壁面に設置されている室内温度サンサーは、壁面温度の影響を受けて、夏は高く冬は低く出る傾向があるため、設備管理員はビル内を巡回して、体感により空調温度を確かめることも必要である。
 この写真は夏季の14:00~15:00の間に、あるビルの空調機6台の二方弁を撮ったものである。空調機はこれ以外にもあるのだが、この写真のような視認性の良い二方弁だけを撮っている。

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 冷房ピーク時間帯の二方弁は全て全開である。丁度全開となるように、時間によって刻々と変化する冷房負荷に対応する冷熱の供給量を、手動により冷水温度と流量で調整しているのだ。

ビルの省エネ指南書(47)

熱源機械室のチューニング〔其の11〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

熱源機械室のチューニング(11)

1、冷房と暖房

 冷房は暖房よりも難しい。それは服装の相違が大きいからだ。男性を例にすると、夏季は背広にネクタイを締めている人もいれば、Tシャツ1枚の人もいる。これだけ服装に違いがあれば、同じ室内であっても、涼しく感じる人もいれば、暑く感じる人もいるはずだ。背広の人が快適ならば、Tシャツ1枚の人は寒く感じることだろう。その点、冬季は夏季ほどの服装の相違がないため、体感的な差は少ないかもしれない。
  服装だけではなく空調区画毎でもビル内の位置が違えば日射条件も違う。人数が違えば輻射熱も違う。老若男女でも温度の感じ方が違って来るのだから、誰を基準として室温を決めるのかが難しい。ビル内の人が全員、同じレベルの快適性を求めても無理な話なのだが、差を縮める調整は必要だ。
 センサー温度に頼るのではなく、ビル内を歩いて廻り、自分の肌で冷暖房状況を感じ取ることが大切であろう。服装を見たうえで、扇子等で煽いでいる人が居るのか、汗をかいている人が居るのか、汗を拭いている人がいるのかをチェックするのだ。
 暑くなくても「暑い」と言うことはできるが、暑くないのに汗をかくことはできない。背広姿で汗もかいていない人の「暑い」というクレームに対応する必要はないだろう。

2、クレーム

 自社ビルならば社員に我慢をさせることもできるが、商業ビルではお客様から暑いというクレームがあれば、クレームを優先して冷房温度を下げる場合もあるだろう。しかし厚着の人のクレームを優先すれば、寒く感じる人が多くなり、この人達はクレームを言わずに我慢することになる。冷房温度が少し低くても、商業ビルではこのようなものなのかと思って我慢をするのである。
 ビルの管理者が設備管理員に絶対にクレームの無い空調をおこなうように言うこともあるだろう。ビルの設備管理員にとってクレームの来ない空調をおこなうことは非常に簡単である。温度的に余裕のある冷温水を多めに流しておいて、空調設定温度を24℃ぐらいに設定し、あとは空調機の温度制御に任せておけばよいだけだ。これでクレームが来るならば、その区画の温度設定を少しだけ変えればよい。あとは空調温度のことは何も考えなくてもよいのだから、これほど楽なことは無い。
 しかし、これでは余裕のない熱供給を目的とした熱源チューニングができる訳がない。設備管理員にとっては、一日に数件のクレームが来る空調をおこなうようにと言われれば非常に難しい。冷房時には厚着の人や日射の当たる窓の近くに居る人の一部からクレームが来るような空調をおこなわなければならないからだ。
 
 
 在室者を見たうえでの微妙な室温調整、余裕のない冷温水温度と流量の設定、まさに紙一重の調整をしなければならない。設備管理員も常時空調状態に目を配らなければならず、これほど技術と手間を要求されることはない。
 クレームの来ない空調をおこなっている設備管理員を優秀な技術者と思うのか、一日に数件のクレームが来る紙一重の空調をおこなっている設備管理員を優秀な技術者と思うのかは、ビルのオーナーと管理権原者次第であるが、紙一重の空調のほうが省エネになることは間違いないであろう。

3、空調区画

 事務所ビル等はいくつもの部屋で区切られているため空調区画が分かりやすい。同じ空調機ならば給気温度は同じであるが、各室内の空調負荷は窓、方角、人数、OA機器などによっても違ってくる。VAVによる変風量で給気量を制御していれば部屋毎の温度差はある程度抑えられるだろうが、定風量ではそうはいかない。季節毎の空調負荷を考えながらダンパーでの給気量調整は必須だろう。
 空調機の還気温度が分かっていても、それはその空調区画の平均温度であり、部屋の室内温度を表しているわけではない。空調区画内の各所にある温度センサーで計測している場合もあるだろうが、近くにOA機器等があれば温度は高く表示され、温度センサーは窓の近くには設置されていないので、センサー温度よりも夏季の窓側は暑く、冬季の窓側は寒くなってしまう。
 夏季に人数の多い部屋は暑いので既定の室温を維持する努力が必要であるが、冬に人数の少ない部屋が寒いからと言って規定の室温まで上げる必要があるかは難しいところである。暖房は服装である程度は寒さを防げるので、少人数の部屋は既定の室温に達していなくても、ある程度の我慢が必要かもしれない。空調条件の悪い100人が居る部屋を基準とした熱の供給ならばよいが、1人しか居ない部屋を基準とした熱の供給をおこなえば、1人のために多大のエネルギーを使うことになる。
 空調条件が悪い、少人数の部屋を基準にしたのでは、熱源チューニングをおこなう意味がないのだ。

4、空調負荷

 空調条件を全て考慮に入れた上でのビル全体の冷暖房状況を把握しなければならないが、ビルの設備管理員ならば当然に把握できているはずだ。
 冷房にとっては南側や西側に窓のある部屋が最も空調負荷が高く、暖房にとっては北側に窓がある部屋が最も空調負荷が高くなる。空調負荷の変動が少ない部屋は窓のない部屋であろう。このように季節によっても、窓の有無や方角によっても空調負荷が変わるのだから、余裕のない熱の供給をおこなうといっても簡単ではない。
 室内の給気口にあるダンパーで給気量を季節毎に調整して、室内での温度のバラツキを無くしながら、必要に応じてファンコイルを運転したい。ファンコイルを常時運転する必要はないのだ。
 商業ビルのように、部屋毎に区切られていない一つの広い空調区画の場合は、場所毎の温度差が大きくなるだろうから調整も難しくなる。
 熱源機械室から最も遠方にある空調機は、冷温水流量が不足する熱供給条件の悪い空調区画となる。日射がある空調区画は冷熱負荷が多く、日射のない区画と比較すれば冷熱供給量が不足する冷房条件の悪い空調区画である。冷水出口温度を下げると同時に往還ヘッダ差圧を上げて冷熱供給量を増やせばよいのだが、冷房条件の悪い空調区画に冷水温度と流量を合わせたのでは、冷房条件の良い空調区画の空調機にまで必要以上の冷水を流す結果となる。それでは熱源チューニングができなくなるので、冷房条件の悪い空調区画の冷房負荷を減らすために、遮熱や断熱、照明発熱の対策等を行いたい。同じ空調区画内でも冷房の効きが悪い場所があるならば、その場所への給気量を増やす工夫や区画全体の気流を考えた調整を行う必要もある。空調条件の悪い部屋に合わせた冷暖房をするのではなく、若干の温度差が生じても、どこまでなら我慢できるかを考えた調整をしたい。

5、温度差

 同じ室内であってもドアが開いているのか閉まっているのかでも気流の強さや方向が変わり、窓が少し開いているだけでも変わってくるので、室内温度が全て一様になる訳もないが、できるだけ場所毎の温度差が小さくなるように調整しながら、最も空調条件の悪い場所に合わせて冷暖房状況をチェックしなければならない。
 各場所の温度差が小さくなるように努力して調整しているビル。努力はしているが調整が難しく、仕方なく空調条件の悪い場所に冷温水温度を合わせているビル等いろいろあるだろうが、空調区画内の温度が1℃以内に抑える努力は必要だ。冷房ならば28℃~27℃の範囲に収まればよいが、28℃~26℃ではクレームが増えることだろう。
 上手く温度差の調整ができないならばファンコイルの使い方を考えてほしい。ファンコイルが主で空調機が従となるような冷暖房では、各部屋任せの冷暖房となってしまい、温度差が大きくなるばかりである。温度差を小さくするには空調機が主でファンコイルが従となるように調整すればよい。冷暖房条件のよい場所は空調機の給気だけで冷暖房を行い、条件の悪い場所だけファンコイルを併用すれば各場所の温度差も小さくなるだろう。このように調整してから冷温水温度と流量を空調可能なぎりぎりまで余裕を無くせばよいのだ。
 空調機に流れる冷温水温度もファンコイルに流れる冷温水温度も同じ温度だが、流量は変えることが出来るはずだ。ファンコイルへの流量は各場所の温度差をなくすに必要な最低減の流量になるように調整すればよい。
 各場所の温度差が出来るだけ小さくなるように調整したうえで、余裕のない熱供給を目指すのが、熱源チューニングである。

ビルの省エネ指南書(46)

熱源機械室のチューニング〔其の10〕

東洋ビル管理株式会社
省エネルギー技術研究室
室長 中村 聡

1.冷水出口温度
 冷水温度が16℃でも室温が設定温度まで下がるのならば、それよりも低い温度の冷水は必要ない。
温水温度が30℃でも室温が設定温度まで上がるのならば、それよりも高い温度の温水は必要ない。
必要以上の温度の冷温水を流せば、それだけ無駄も生じるので、冷暖房に必要なぎりぎりの温度の冷温水を流すことが省エネに繋がる。そのほうが熱源設備の効率も良くなり、放熱も少なくなり、ファンコイル等での無駄な冷暖房も減るからだ。
 
特に冷房の場合は冷水温度が低いほど、除湿による冷熱使用量が増えるため、できるだけ冷水温度を高くして、湿度を下げない冷房を行った方が、冷熱使用量が減って省エネになる。このことは「不快指数冷房」の項目で詳しく説明しているので読んでいただきたい。冷房の場合は最低限必要な冷水温度を見つけ出し、冷房負荷の大きな変動には、その時々に応じて冷水温度の設定を変えてもよいが、それ以外はできるだけ流量を変えて対処するようにしたい。
これには熱源の冷温水出口温度と往ヘッダの吐出温度が同じでなければならないが、両社の温度が違う場合もあるということを考えておかなければならない。15℃の冷水を流しているつもりが、実際はもっと高い冷水温度になっていたとしたら、室内温度を維持できず、クレームの元となってしまうだろう。ここが室温調整の難しいところだ。

2.熱源出口温度と往ヘッダ出口温度
 熱源の冷温水出口温度と往ヘッダの出口温度が同じ温度にならないという経験があるだろうか。
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 何故同じにならないのかを図で説明する。ポイントは一次側往還ヘッダのバイパス管だ。
冷水の場合で説明すると、前図のように熱源から出た冷水が一次往ヘッダ⇒バイパス管⇒一次還ヘッダ⇒熱源と半時計回りに回るのならば良いのだが、このようにはならず、次の図のようにバイパス管を流れる向きが、先程とは逆に左から右に向って流れることがある。空調機を通って温度が上がっている還水が、一次還ヘッダからバイパスを通って、直接一次往ヘッダに流れるのだ。
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つまり一次往ヘッダには熱源出口からの冷水とバイパス管からの還水が混ざって、熱源出口温度よりも水温が上がってしまう。
このようなことになれば、熱源設備の冷水出口温度を冷房可能なぎりぎりの水温に設定すると、熱供給量が不足することも考えられる。それではなぜこのような事になるのだろうか。

3、一次ポンプと二次ポンプの吐出量差
ポンプ1台>二次ポンプ1台となっているであろう。一次ポンプの台数が2台で、二次ポンプの台数が4台ならば、一次ポンプ1台の定格吐出量が二次ポンプ1台の定格吐出量より多くて当然だが、定格ではなくて吐出量だけでみれば、一次ポンプ1台吐出量=二次ポンプ2台吐出量になるかといえばそうともいえない。一次ポンプの定格吐出量が1.000㎥/min、二次ポンプの定格吐出量が0.500㎥/minと仮定すると、一次ポンプ1台吐出量=二次ポンプ2台吐出量が計算上は成り立つのだが、ポンプの吐出量は吐出弁の開度によっても違い、ヘッダでの圧損もある。一次ポンプも二次ポンプも台数制御であれば、運転台数も違ってくる。インバーターによる流量制御であれば周波数の変化もあり、一次側と二次側の管路抵抗でも吐出量が変わるので、一次側吐出量=二次側吐出量になることはまずなく、その時々に応じて一次ポンプ側が多くなったり二次ポンプ側が多くなったりすることになる。
一次ポンプが1台運転時に、二次ポンプが3台運転になれば、一次側吐出量<二次側吐出量になる可能性が高いが、それでは二次ポンプが2台運転時では、一次ポンプ1台吐出量≦二次ポンプ2台吐出量になるのだろうか。

4、定格吐出量
 「二次ポンプ吐出バルブ開度」の項目で説明しているように、二次ポンプは定格以上の吐出量になることがあり、2倍以上の吐出量になった例もある。余裕をもった設計による全揚程と実際の全揚程が違えば、吐出量も変わってくるからだ。
一次ポンプの定格吐出量が1.000/min、二次ポンプの定格吐出量が0.500/minであったとしても、一次ポンプ1台吐出量<二次ポンプ1台吐出量になることもあり得るのだ。このようなことになれば、二次ポンプ2台運転時の一次側往還ヘッダバイパス管には、その差分の還水が図の左から右へ向かって、一次還ヘッダから熱源を通らずに直接一次往ヘッダへ流れていくことになる。
図を例として、一次ポンプの定格吐出量が1.000/min、二次ポンプの定格吐出量が0.500/minならば、二次ポンプ2台運転で丁度よい吐出量バランスになるように思えるが現実はそうではない。
これでは定格吐出量は当てにならないと思われるかもしれないが、その通りである。定格吐出量よりも実際の吐出量で一次ポンプ側と二次ポンプ側の流量バランスを考えなければならないのだ。
仮に、二次ポンプ側が一次ポンプ側の2倍の吐出量であったとすると、熱源冷水出口温度12℃、還水温度16℃の時は半分の流量がバイパスするので、12℃と16℃が混ざって14℃になる。14℃ならばまだよいが、熱源冷水出口温度15℃で一次側往ヘッダ出口温度17℃になったとしたらどうであろうか。冷房には厳しい冷水温度だろう。
一次側往還ヘッダバイパス管に流れる冷水の方向が左から右ではこのようなこともあり得るので、吐出量が、一次ポンプ側≧二次ポンプ側となるような熱源設備運転と二次ポンプ側の流量調整が重要となる。一次側往還ヘッダバイパス管を流れる冷水が左右どの方向に流れているのかが分かり難いが、熱源出口温度と一次側往ヘッダ出口温度を見れば判別できるだろう。

5、冷水温度のコントロール
 一次側吐出量<二次側吐出量になることを逆に利用することもできる。熱源設備の冷水出口上限温度が12℃の時、もっと高い温度の冷水を流したい場合にこの方法を使えば、13℃~14℃の冷水を流すことも可能となる。熱源の冷水出口温度を何℃にすれば、二次側に何℃の冷水を流せるかを想定して冷水出口温度を決めるのだ。
このような場合でも熱源設備の運転には気を付けたい。熱源運転台数を必要以上に減らした結果、熱源の冷凍能力よりも冷房負荷のほうが多くなれば、冷凍能力不足となって冷水設定温度を維持できず冷水出口温度が上がってくる。二次ポンプ側の流量が増え、一次ポンプ側吐出量<二次ポンプ側吐出量となり、一次側往還ヘッダバイパス管を冷水が左から右へ流れることになる。その結果、さらに一次往ヘッダの冷水温度が上がってくる。
このように熱源設定温度<熱源出口温度<一次往ヘッダ温度になるようでは、実際に流れる冷水温度は冷房負荷による成り行き次第となってしまい、余裕のない冷水温度に設定することができない。
一次ポンプや冷却水ポンプの節電になるように思えるが、これでは熱源設備の効率が悪くなり、トータルでは省エネにならないはずだ。
あくまでも熱源設備の能力は冷房負荷以上になるように余裕をもった運転をしながら、冷水温度をコントロールしなければならない。熱源設備1台に100%以上の負荷をかけて冷水温度を上げるのではなく、2台を50%程度の負荷になるようにして、冷水設定温度を上げた運転をおこなうのだ。
余裕のある冷凍能力で、常に変動する冷房負荷に対して、余裕がゼロとなる熱供給をおこなう、冷水温度と流量のチューニングがポイントである。